SIDE:ライニーク・ウーモンの思惑らしい
ライニーク視点です
※第一章の表記を序章に変更しました
私の名はライニーク・ウーモンという。
私は自分の人生において、明確な失敗はして来なかったと記憶している。
家は取り立てて有名ではなかったとはいえ、貴族だ。それに気がついた時点で、私は他の人間とは違い勝ち組の人生だと確信していた。
私が仕える王は、醜く肥えた豚だ。
この国には頭の出来が悪いやつらしかいない。ならばこそ、私がこの国を治めるのも当然だろう。
しかし、障害は多い。
愚王自身に、その子供達。何より一番の問題は、権力という甘い蜜にどっぷりと浸かりきった保身しか考えない無能どもだ。
そんなことを思いながらも、何か手がある訳でもなく私は無為に日々を過ごしていた。
そんなある時だ。私の耳にとある情報が入った。
うちの愚王が勇者召喚を行う、というものだ。
______愚か者どもめ……今でも十分な武力を持っているというのに、勇者召喚など明らかに過剰戦力だ。
この時、私の野心はすでに風前の灯火だった。____所詮、夢物語か……
愚王に考え直すように進言しようか考えたが、やめた。
もう、全てどうでもいい……私の心は疲れ切っていたのだ。
勇者が召喚されることが決定した。その翌日、私は文官統括という今までとは発言力も権力も何もかもが桁違いな役職に繰り上げになる。
どうやら、先代の頃から仕えている文官統括を含め、古参の腹心とも言える人物が数人夜逃げしたらしい。今まではどうやら耐えられたようだが、勇者召喚などという愚行を犯そうとする愚王に遂に愛想を尽かしたようだ。
今までなら余計な仕事を増やすなと言っているところだが、今回だけはよくやったと褒めてやってもいい。
「……しかし、権力だけあってもな……何か、何かないものか……?」
そこまで考えた時、私は脳内に電撃が走った。
____勇者、召喚……。確かあれは、異世界より強力な勇者を呼び出す術式だったはずだ。
気がつくと私は、城の書庫に足を向けていた。
---------------------------------------------------------
「王よ、勇者を召喚するにあたって一つ、お耳に入れたい情報がございます」
書庫で勇者関連の書物について調べた私は、早速とばかりに行動を始めた。
さしあたって、まずはどう転んでも私には被害が及ぼないような策は……
「貴様は……」
「新しく文官統括に就任致しました。ライニーク・ウーモンと申します」
愚王が名前のあたりで詰まったのでフォローしてやる。
愚王は、知っているとばかりに大仰な態度だが、確実に覚えてない様子だった。
内心でこの国の未来を想像してみるが……このまま行けば一寸先は闇だろう。
「し、知っておるわ! して、ライニークよ。我輩に何か用があるのではなかったか?」
愚王が誤魔化すようにそう促して来たので、続きを話す事にした。
「はい。私、聖王陛下が勇者召喚を行われると聞き、書庫にて勇者についての書物を調べていたのですが、そこで気になる書物を発見致しまして、その報告に訪れた次第です」
私が考えた、私自身に被害を出さず良い結果を出せるような策は単純だ。
______一人か二人、見せしめに勇者を殺してしまえばいい
その策を愚王について知らせると、目の前の愚か者は首を傾げた。
「なぜそんなことをするのだ? 貴重な戦力が減ってしまうではないか」
目の前の豚を殴殺したくなった。
なぜ普段は無能のくせに、こういう時だけ疑問を抱くんだ!
「そ、それは、もちろん理由がございます。勇者は最初から強いわけではありません。成長の限界値が、我々アクセリムの住人より圧倒的に上回っている、というだけなのです。なので、最初にこちらの方が立場が上だと分からせれば、後々勇者が強くなっても手の施しようがあります。さしあたって、まずは戦闘用の獣人奴隷を一匹ご用意するのが最善かと思われます」
愚鈍な豚に深く考えさせないよう、素早く要点をまとめて言いきった。
案の定、豚は混乱していた。今が好機だ、とばかりにまくしたてるように豚を褒めちぎる。
「あぁ、偉大なる我らが聖王様! 我らが聡明なる聖王様ならば、私のような低脳な者の意見は快く受け入れてくれる器があらせられるというのか!
……少し__いや、かなりわざとらしくなってしまったが……これは流石に怪しまれるか……?
「アーハッハッハッハッ。そうかそうか、我輩は聡明であるか? よく分かっておるではないか! うむ。お主の意見を聞き入れてやろう。何せ我輩は聡明、であるからな!」
……杞憂だったようだ。
愚鈍な豚はどこまでいっても愚鈍、ということか。
私は内心ほくそ笑む。
______まだだ、まだ気を抜くな
(勇者の力が未だ未知数だが、概ね私の計画通りに進んでいる。後は、私がこの国を破滅に導くよう裏で動くだけだ)
そして私は、勇者召喚が行われる日まで国の裏側で暗躍するように動いた。
---------------------------------------------------------
「明日は遂に勇者召喚が行われる日ですな。ライニーク殿は、明日の召喚の場には立ち会われるのですかな?」
そう尋ねてきたのは、この国で最も面倒くさく感じている人物だった。
「はい。これでも一応、文官統括の身ですからな。そういう、キュルマン殿も明日は聖王陛下の護衛として立ち会われるのでしょう?」
キュルマン・テホルタ。
カーマンエール聖王国の騎士団長であり、屈強な騎士団を束ねるリーダーシップを誇り、同時に自身も騎士団最強の地位にある男だ。
「その通り、ですな。さすがライニーク殿、お耳が早い。」
謙遜するように言っているが、この男は頭もきれる。
私の計画においてもこの男は、大きな障害となっているといっても過言ではない。
「では、ライニーク殿。また明日、会いましょう」
そう言いながら離れていくキュルマンを、軽く一瞥した私は気を引き締めた。
どうやら、まだ気が緩んでいたようだ。
準備はもっと入念に、かつ慎重に進めるとしよう。
「手始めにそうだな……明日の勇者召喚で、何か仕込めそうなものはなかったか……念のため、用意する獣人奴隷に逃亡防止の追跡魔術が付与された腕輪でも着けるか」
______そして翌日、この世界の止まっていた歯車が回り始めた。
---------------------------------------------------------
「ライニーク・ウーモンと申します。皆さまは、この世界。アクセリムについて何も知らないとお思いますので、私が説明致しましょう」
異世界より勇者が召喚された。
当初、数人くらいかと予想していた勇者の数は、四十人ほどもいた。
これは失敗かと、説明を続けながらも適当に目に付いた一人に私の特殊技能である『鑑定』を発動させる。
特殊技能とは、文字の通り特殊な技能のことだ。
アクセリムにおいて、特殊技能を保持している人間はほとんど存在せず、持っている人間はとても希少であり、一人一人の能力は異なる。
私の特殊技能、『鑑定』は簡単に言えば技能を発動した対象の本質を見極めることだ。
この特殊技能は、特殊技能保持者の中でもさらに希少であり、国に一人か二人いるかいないかくらいなものなのである。
発動させた鑑定はあっさりと、その対象の本質____人間であれば所持している技能や才能、果ては身体能力まで見抜くことができる。
……そんな技能で見た結果、異世界の勇者ははっきり言って異常だった。
____まず、確認できただけで十人ほどが特殊技能を保持している。さらには、身体能力も成長限界値が飛び抜けていた。才能や素質も恐ろしいほどだ。
これは、いい意味で期待を裏切られた。
______?
詳しく一人一人の詳細を見ていると、気になる者が二人ほどいた。
一人は、特殊技能は無く才能も平凡。成長限界値だけが高いが、他は目立つところはない黒髪の少年。
二人目は、同じく特殊技能がなく、才能も魔述の適正があるというだけの、こちらも同じく黒髪の少女。
その二人は周囲と見比べると、劣ってはいたが許容範囲内だ。
そして、予定通り勇者の中から飛び出してきた、岡部という中年女性を殺した。
すると、私が気にかかっていたうちの一人である少女が憤りなかがら、愚王に掴みかからんばかりの勢いで意見していた。
言っていることは正論だが、この国において綺麗事を言っても自分の寿命を縮めるだけだ。
私は、冷めた目で状況を見ていたが、状況が動き出した。
どうやら、愚王は少女も殺すことにしたようだ。
既に興味も失せていたので、何気なしに状況を傍観する。
______何が起きた……?
私は目前に広がる光景が信じられなかった。
愚王に意見した少女が、用意した獣人奴隷に殺される直前。視界の端に捉えていた、もう一人の興味の対象であった黒髪の少年が何事か呟いた。
そう思った次の瞬間には、獣人奴隷の長剣が半ばから折られていた。それも、身体能力強化の魔法を使った形跡もない、ただの少年が、自身の拳で、である。
私は自身の目を疑った。これは夢ではないか? 若干、現実逃避していた私が次に見せられたものは、更に信じられなかった。
戦闘に特化した獣人奴隷の、油断も隙もない全力の一撃を掌で受け止めたのだ。
私を含め、周囲が呆然としているなかも状況は刻々と動いていた。
件の黒髪の少年が、それぞれ両脇に少女を抱え広間から走り去っていった。
あの速度で動けるのならば、この城は軽く脱出するだろう。それどころか、今日中に聖王都を脱出する可能性すらある。
周囲が逃亡した者達を捕獲しようと慌てて動き出すなか、私は笑みを浮かべるのをやめられなかった。
少年の行動はまったくの予想外だったが……
____やはり、私は運命の神に愛されているようだ
「キヒッ、私の計画も次の段階に移る頃合いですかね」
誰にともなく呟いた独り言は、混沌とした周りの状況に流され誰にも聞きとがめられることは無かった。
面白いと感じて頂けた方や、続きが気になるという方はページ下部より、評価・ブクマをお願いします。
これからも『異世界にはロリコンという概念か存在しないようです』をよろしくお願いします。