4,思い出したらしい
※若干ですがグロ注意です
この世界、アクセリムに存在する大国の一つである、カーマンエール聖王国。
そこで、文官統括という大層な肩書きを持つ陰険そうな顔をした男____ライニークが語ったアクセリムの常識。
それにカーマンエール聖王国についての説明は以下の通りだ。
______曰く、現在この世界は魔族という種族に脅威に晒されており、魔族の王、魔王を討つことが出来るのは異世界から召喚された勇者である俺たち異世界人のみ
______曰く、この国は人間の領土の中で最も魔族の領土に近いところにあるため日々、魔族による攻撃が頻繁に起きるため、現在この国の民たちは食べるものも満足に得られず苦しんでいる
______曰く、この世界には3つの大陸があり、内2つの大陸は人間が住むには適さない気候らしく、実質的に人間が住める大陸は1つだけであることや、カーマンエール聖王国はその大陸内において大国の部類に入るらしく、軍事力においては大国の中においても引けを取らない
等々、他にもいくつかあったが、他は特にどうでもいいことしか言ってなっかたので割愛する。
召喚された広間で、これらの事を1時間ほどかけて話されたクラスの面々は様々な反応を見せていた。
______状況について行けずただ困惑し続けているもの。ほとんどの生徒、特に女子はこの状態だ。
______周囲に流されず、話を聞いている時も常に周りを警戒していたもの。この行動を行なっていたのは極少数だが、中々できることではないだろう。
______他には、思案している顔で周囲を興味深そうに観察しているものや、数人で集まり「とうとう俺のチート能力が開眼するのか……」など、ひそひそと声を潜めながら話し合っているもの。
中には、興味が無いのか肝が据わっているのか分からないが、眠っているものも一人だけだがいた。
そんな中、俺……恐らく渋川もだろうが、ライニークという男の言葉を吟味していた。
(幼女神の言っていたことが本当だと仮定するなら、この国はとんだ道化ということになるな……)
仮に幼女神が語ったことが嘘だったとしても、目の前で陰険な顔を歪め、笑みを作っている男を信じることは出来なさそうだが……。
幼女神から予め説明を受けた俺や渋川とは違い、岩田を始めとしたクラスの面々はこの男の言葉に対する判断材料が無い。
しかし、中には勘が鋭いものもいるようで、ライニークの言葉から不審感を感じ取ったのか警戒の度合いを引き上げた奴が数人いたことには驚いた。
話しを終え、クラスの様子を観察していたライニークがふと、こちらを見た。
訝しむ様子を見せ、今度は渋川の方を見た。
俺と渋川に共通の心当たりがあるとすれば、それはもちろん幼女神だろう。
____そういえば、幼女神が能力と加護を付けてくれるとか言っていたが、それがバレたのか……?
俺は内心、バレてもろくなことにならない気しかせずバレてない事を祈るのだった。
渋川の方は見られていたことに気づいてないのか、特にこれといった反応はしていなかった。
ため息を吐きそうになるのを堪え、努めて冷静にしていると______状況が動いた。
「あなた達、そろそろいい加減にして下さい。いったい、いつまでこんな茶番を続けるつもりですか? いい加減私たちを家に返して下さい!」
そう、言い放ったのは内のクラスの担任である中年女性だった。
元の世界に返せ、という意見は絶対に出ると確信していたが、相手側の反応は予想がつかなかった。
俺はこの時、幼女神に言われた言葉をすっかり失念していた。
この世界は元の世界に比べ、常に命の危険が付き纏うということを……
______ここは異世界であり、元の世界とは根本的な違いがあることを……
「私はこのクラスの担任の岡部です。あなた達は生徒たちが不安そうな顔をしているのが見えないんですかっ!? ちょっと! 聞いてるん…………で、す…………へ?」
_______________ブシャッ
女教師____岡部先生の話しは最後まで続くことは無かった。
________何故なら、胸の辺りから、本来なら生えることは絶対に無いモノ。長く分厚い剣が生えていたからだ。
紛れもなく致死量の血液が、高級感溢れるカーペットの上に赤い血溜まりを作っていた。
「………………………………」
今見ている光景が理解出来なかった。____いや、理解したくなかった。
先生を剣で貫いていた者が、既に彼女が生き絶えたことが分かったのか剣を引き抜いた。
俺の立ち位置からは丁度死角になっていて見えなかった犯人が、ようやく見えた。
返り血を浴びてもなお光を反射するほどの眩い銀髪、その小柄な身にどこにそんな力があるのか自分の身の丈ほどの無骨で幅広な長剣を持ち佇んでいたのは……………………
________小柄な体躯に存在を主張するように、ピンッと頭に2つ付いている獣のような耳、岡部先生をたった今目の前で殺害したのは高校生の俺たちよりもさらに幼い顔立ちの幼い女の子だった。
平和な日本では、殆どの人が関わったことはないだろう光景だった。
中には、その光景を見て顔を青ざめさせている生徒や、その場で蹲り吐瀉物を撒き散らしている生徒もいる。
誰も動けない中、最初に声を発したのはライニークが話している間一言も喋らなかった聖王だった。
「ふむ。勇者に混じって魔族の内通者が混じっていたようだな。だが、これで勇者達も安心して聖王国を守る勇者として戦えるというものよ」
……誰も否定することも、反論することもできなかった。
もし、意見すればさきほど先生を殺した凶刃が今度は自分に向かうのではないか?
そう考えれば誰も意見できるわけが無い…………はずだった。
「何を言ってるのよ! 先生は私たちとずっと一緒にいたのよ!? 魔族の密偵なわけないじゃない! そんなこと少し考えればわかることでしょう!」
涙声でそう訴えたのは……渋川だった。
自分達も巻き添えで殺されるんじゃないかと、周りにいる生徒達は渋川を睨みつけているが、渋川は止まらなかった。
「本当にいい加減にしてよっ! なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの? ……もうやだよ……ッ、元の世界に返してよ………」
言葉の後半は殆ど涙声で掠れていたが、渋川はその場に座りこんでしまった。
「……なるほど……」
何に対する納得なのかはわからないが聖王が一つ頷いた。
すぐに殺されるのではないかと、戦々恐々としていたクラスの面々がホッと安堵の息を吐いた。
「今度は情に訴えかけてくるとは……小癪な真似をするではないか、魔族の内通者め」
しかし、安堵したのもつかの間。全員に緊張が走る。
さきほど先生を殺した獣人っぽい銀髪の少女を目で追うと既に剣を構えて渋川に近づいてきていた。
俺を脅した渋川ではあるが、だからといって殺して欲しいほど恨んでいる訳ではない。
それに加えて幼女神の頼みの件もあるため、俺はこの場を打開するための策を考えていた。
(考えろっ、考えろっ俺! 何か……この場を挽回出来るような何かを……)
俺は必死に頭を振り絞り考えようとするが、悠長に考えている暇はない。
既に銀髪の少女は既に数メートルを切っている、あと数秒ほどで渋川に到達するだろう。
そこまで考えた俺の脳裏に過ぎったのは、さきほどの先生が殺された光景だった。
不意に渋川の方を見れば、既にその顔には諦観が浮かんでいた。
銀髪の少女が剣を上段に構える。
あの剣が振り降ろされた時、それが渋川の最後だろう。
____また、俺は助けられないのか……?
____また、俺の手は届かないのか……?
………………不意に頭の中を過ぎったのは、とても懐かしく感じる記憶だった。
もう絶対に手が届くことは無い少女の笑顔が脳裏を過ぎる
「「「「「「「は?」」」」」」」
それは誰が漏らした声だったのか、聖王かライニークか、はたまた岩田やクラスの奴らだったのか。
____あるいは全員だったのかもしれない。
その目前に映る光景に誰もが呆然としている。
それもそうだろう。何せそれほどまでに目前の光景が信じられなかったのだから。
そこには、いつの間に移動したのか渋川の前に彼女を守るように立っている海音がいた。
しかし、全員が驚愕したのはそこでは無い。
そこには、拳を振り抜いた態勢で静止している海音と、半ばから折れた長剣を振り下ろした態勢で静止している銀髪の少女の姿があった。
静まり返った広間に、硬質な金属が床に落ちる音が鳴り響いた。
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2018/01/13
・1、2、3話における誤字や表記ミスなどの修正を行いました。
・1話の最後に奈美が座っている描写を加筆しました。
気が向いたら読み返して見てください
(*・ω・)*_ _)ペコリ