2,異世界に召喚されるらしい
教室を目も開けられない程の光が支配した。
______そう感じた次の瞬間、目の前に広がっていたのは辺り一面何も存在しない真っ白な世界だった。
「は?」
何が起こっているのか理解できなかった。
____さっきまで俺は学校に居たはずだ
____ドッキリか何かの撮影じゃないか?
____そもそも、こんな真っ白な何もない場所など存在するのか?
突然の出来事に混乱しているなか、思考を落ち着ける為に何かないかと周囲を見回す。
ふと、気配を感じ後ろを見てみると、半ば脅して俺を放課後に呼び出そうとした女__渋川香純が呆然とそこに立ち尽くしていた。
「…………………………」
この異常事態に脳が思考することやめてしまったようだ。
かくいう俺も未だ冷静ではないが……俺以外の人間を見つけたことで若干だが、落ち着くことが出来た。
「おぉ! 成功したか! いやしかし、わしの神域に客が訪れるとは……何万年ぶりかのう!」
「「!!!?」」
今がどういう状況か考えていると突然背後から声がかけられた。
俺がすぐさま、バッと後ろを振り返ると、渋川も一拍遅れて振り返った。
そこには____とても可愛らしい容姿の幼女がいた。
肩口ほどで切りそろえた鮮やかな海のような青色の髪が特徴的だ。
____俺はすぐさま脳内フォルダに、この可愛らしい幼女の姿を保存した。
「可愛い……照れるのう///」
(!? ま、まさか俺の心が読まれた? ……さすがにそんな訳ないか…………)
「カッカッカッ、心を読むくらいならなんてことはないのじゃ! 何せわしは神じゃからな!」
…………俺は愕然とした。
まさか本当に心を読まれるなんて……俺が今、目の前で偉そうに腕を組んでいる威厳なんて微塵も感じない痛い系幼女(自称)神を警戒しつつ観察していると、やっと少し心に余裕が出来たのかハッとした様子で我に返った渋川が俺を押しのけ(自称)神の前に出た。
「本当にアンタが神さまだっていうなら、今のこの状況を説明しなさいよ!」
まだ精神が落ち着いていないのか、渋川は目を見開いて(自称)神に問い詰めた。
「……ふむ。混乱するのも無理はないが、少し落ち着くとよいのじゃ」
自称神がそう言いながら指を鳴らす。
……何をしたんだ? そう思い訝しんでいると、突如さきほどまで感じていた不安や混乱が搔き消え思考が冷静になった。
渋川の方を見てみると、こちらも冷静になっているようだ。
心を読んだり、人間の感情を操作することが普通の人間に出来るか?と問われれば、間違いなくほとんどの人間が否、と答えるだろう。
少なくとも、目の前の幼女がただの痛い幼女ではないことは確かだ。
「落ち着いたかの? この権能を使うのは久しぶりでのう……うまくいってよかったのじゃ」
最後に聞き流せない不穏な言葉が聞こえた気がするが……きっと気のせいだろう。
俺が、目の前の(自称)神に何か言うよりも早く渋川が頭を下げた。
「神さま、さきほどの非礼をお詫びします。しかしながら現状、何故ここに居るのかすらわかっていないのです。できれば今の状況を説明していただけませんか?」
渋川は、さきほどまでの取り乱した姿とは別人のように目の前の(自称)神に問いかける。
「説明くらいはしてやるが……その堅苦しい言葉遣いはやめるのじゃ」
目の前の(自称)神は心が広いのか、そう言ってきた。
「それとお主! さっきからなんじゃ! わしのことを自称、自称と心の中で連呼しおって! わしはこれでも数万年以上前から存在しておる神なのじゃぞ! わしのことは敬意と誠意を持って女神さまと呼ぶのじゃ!」
前言撤回。目の前のこのちんちくりんな幼女神さまはあまり心が広くないようだ。
「ぬっ、また失礼極まりないことを。……まぁ、よかろう。なんて言ったてわしは心が山のように高く海のように深い神じゃからな」
幼女神がそう言うと、渋川が早く聞けとばかりに俺を睨んでいた。
何故俺が、と思いつつも幼女神から現状について聞くのは俺も賛成なので渋々了承する。
「それじゃあ改めて聞きますけど、今俺たちってどこに居るんですか? あと何で俺とコイツしかいないんですか? ほかのクラスメイトはどこに行ったんですか?」
とりあえず、現在感じている疑問点について聞いてみた。
「いっぺんに聞くでない! こんがらがるじゃろ! それで、えぇ……ここがどこか、じゃったな。ここは最初にも言ったと思うがわしの神域じゃ。それ以上でもそれ以下でもない」
幼女神の答えを聞いて、俺はますます疑問が深まった。
それは渋川も同じらしく眉間にシワが寄っている。
「疑問に思うのも分かるが、詳しい説明は先の質問に答えてからにさせてもらうのじゃ。それで、なぜわしの神域にお主らしかきておらぬか、のう。もう一つの質問にも言えることじゃが……端的に言ってお主らはその、くらすめいとと共に異世界に召喚されておるのじゃ。」
ふむ……。
俺は確かに驚いてはいるが、趣味で異世界もののライトノベルを好んでよく読んでいるおかげか、あまり驚きは少なかった。
しかし、渋川はその手のモノにあまり関わりがなかったのか、顔に? が浮かんでいた。
「そっちの主は知っているようじゃな。うむ、お主が想像しておる異世界とそう差異はないのじゃ。女の方は知らないようじゃから説明してやろう。お主らが召喚される世界の名は、アクセリムという。その世界は簡単に言えば剣と魔法の世界なのじゃが……命がとても軽い世界でもある。飢餓や戦争、圧政によって国が滅びることもざらじゃ。今回、お主たちを召喚した国も圧政を敷き、王族や貴族が民から搾取し続け各地で飢饉が広がっておる。召喚した理由も自国の軍備強化じゃ。おおかた、手を出さなければ無害な魔族たちを悪役に仕立て上げ、救って欲しいなどと宣い領土拡大を狙っておるのじゃろう……」
「「…………………………………」」
幼女神が語った、想像していたファンタジーな世界とは違う暗く重い話を聞いて、俺の異世界と聞いて少し弾んでいた心が冷水を浴びたように冷たくなった。渋川も想像したのか少し顔色が悪かった。
「では、詳しい説明をしようかの」
幼女神はそんな俺らの心情はスルーして話し始めた。
「なぜ、くらすの奴らと共に召喚されたのはずのお主らがわしの神域におるのか、その答えは簡単じゃ。それはわしが召喚の術式に介入してお主らを呼んだからじゃ」
幼女神の話の途中で、クラスの奴らが渋川を除き、ここにいない時点でその可能性は予想していた。
しかし最初に出会った時この幼女神は驚いていたような……
「そうじゃ。お主らを呼び出すことが出来るかは正しく一種の賭けじゃったが、なんとか呼び出すことができて安心したのじゃ」
…………おい、失敗したらどうするつもりだったんだ。
俺の呆れは伝わっているはずだが、幼女神はコホンとわざとらしく咳をすると真面目な顔になり姿勢を正した。
ようやく俺と渋川をここに呼び出した訳が聞けるようだ。
渋川がゴクリとつばを飲み込む。
「お主らを呼び出した理由、それは、
______異世界、アクセリムを救って欲しいからなのじゃ」
面白いと思っていただけた方はブクマ・評価をお願いします。