6話
愛、を、ください。
あたしはもう逃げることもなく、ただそれを、呆然と見つめていた。
ピエロが、すこしずつ、こちらにむかってくる。ずる、ずる、と、身体を引きずる音が聞こえる。
愛、して、ください。
ピエロはどうして、こんなに愛を求めるのか。あたしはあなたが恐いのに。恐くて、愛せやしないのに。
愛、して、ください。
一瞬、だけでも、いいから。
愛、して、ください。
「どうして……」
あたしは、ピエロに手を伸ばした。
のばさずにいられなかった。
どうして、こんなに、愛を求めるんだろう。
この、醜い、身体を。
愛して、ください。
一度だけ。
一瞬で、いいから。
「どうして……」
泥のついた三角帽に、そっと触れる。それだけで、ピエロは前進を止めた。そしてあたしの指に、赤い涙がかすれた頬を、すりよせてくる。
愛、を、ください。
頭を撫でると、嬉しそうに身体をゆらした。
あたしはそっと、ピエロを抱きかかえる。ピエロが、お腹に顔をうずめてくる。あたしはただ、頭を撫で続けた。
愛をください。愛をください。愛をください。ピエロが、あたしに囁く。
ケータイが鳴り、相手を見る。
青野さんだった。
『ごめんなさい、塾だったの』
静かな声だった。でもその響きの中に、心配という感情もこめられているのをあたしは感じ取った。
「あの、青野さん……」
これから、会える?
そう切り出したあたしの腕の中で、ピエロがまた、愛をくださいと呟いた。