5話
返事をする気にはなれなかった。しばらく眺めて、あたしは待ち受け画面に戻した。
浩二はこうして、避妊に失敗したことを気にしていた。きっと部活も上の空だったんだと思う。もしあたしが妊娠してしまったら。きっと傷つけてしまう。そう思っていたのだ。
傷つけると思うっていうことはやっぱり、浩二も最終的には中絶させるつもりだったのだろう。
青野さんの彼氏はどうだったのか。青野さん自身はどう思ったのか。彼女のお母さんは、両親は、何を思ったのか。
あたしは彼女が、あたしの前でしか、涙を流していないように思えた。彼氏や親の前では決して泣かず、一人でひっそりと、涙を流す姿を容易に想像できる。
――真悠のこと、傷つけたくなかったんだ。
浩二の言葉が、なぜだかあたしをいらだたせる。できたら堕ろすしかない。彼は密かに、そう決断していたのだ。
愛をください、愛をください。ピエロの声はかれることもなく、どんどん大きくなっていく。愛をください。愛をください。ひたすら愛を求めて、泥だらけであちこち擦り切れた身体で、愛をください愛をください。
青野さんは、自分に宿った子供を、どう思ったのか。あの涙は、何を思った涙なのか。
中絶。言葉にすればたった二文字。でもとても重いその言葉を決断した彼女が流した涙。産もうと思ったのか、産めないと思ったのか。
あたしたちはもう十八で、結婚もできるし働くこともできるのだから、子供を育てることだってできるだろう。でもあたしは専門学校を、青野さんは大学進学を希望していた。
これからのことを考えるのなら、やっぱり、産めないと思うかもしれない。
でも、それでも――。
思考がめぐる。考えてしまう。彼女が何を思ったかなんて、本人でしかわからないのに、こうしてあれこれ考えてしまうなんて。でも、あたしは、彼女の涙を忘れることができない。
愛、を、ください。
背後で、ぼとり、と、鈍い音がした。
振り向くと、ピエロがいた。バッグの下から這い出したのだろう、身体が少しつぶれていた。