推理ものラノベ大会用作品「グルヴェイグ殺人事件考察」
あらすじ
いろいろあって「当主が魔女だ」と有名なお屋敷にホームステイすることになった三人の少女。館での暮らしにも慣れてきたころに事件発生。自室で当主が死んでいる!嵐で警察が入って来れない島のただなか、蘇る当主に浮上する犯人候補たち!はたして謎が解けるか三人娘!
人物
・アリア
18歳。大学は飛び級で既卒した。賢い。
・リーン
17歳。頭は並だが推理ものが好き。
・ナスタシア
16歳。やんごとなき家の生まれ。
・クロア
年齢不詳。被害者にして本物の魔女。何度でも復活するが弱い。
・シロア
30歳。クロアの同居人その1。実業家。
・本田薪
16歳。クロアの娘の婚約者(同性婚)
・ミユっぺ
16歳。クロアの実子。
<AM6:00 起>
魔女の力に引き寄せられたか、いつものように群がるカラス達が鳴く朝。何かが割れたような音がしたことを除けば平和な朝である。
「「「おはよう。」」」
だれが言い出したかもわからないがハモる挨拶。三人一緒、あてがわれた一つの部屋で過ごすうちに身についた奇妙な癖。当初のうちは当人たちも奇怪がったものだが今では誰も突っ込まない。いつものように寝間着から着替え、朝ごはんのにおいをたどりながら「呪い部屋」「悪霊工房」などと物騒かつ非現実なにおいのするネーミングの部屋をスルー、廊下の突き当たりのエレベーターに乗り、食堂へ向かう。ナスタシアやリーンは「そういえば、屋上はどうやって行くのだ?」「外からよじ登るしかないみたいですよ」などといった会話を繰り広げながら。そして三人が食堂についたころにはすでに薪ががミユっぺがしこんだ「朝食」と呼ぶにはあまりにも手の込んだ朝食を平らげていた。その時だったのだ。事件が起きたのは。
<AM6:20 承>
三人娘のうち、食の太いリーンやナスタシアはとっくに自分の分を平らげ、残るアリアも半分ほどを食べ終えたころに、エレベーターから顔面蒼白で一人のスーツ姿の女性が駆けだしてきた。この家に最近住みついた実業家、シロアである。息も整えぬまま混乱した状況で女性は言葉を紡ぐ。
「義母様が死んでる。何が起きたのかわからぬ、すぐに来てくれ」
すっかり食事を食べ終えた薪も、「おかわり」せんと大釜に向かっていたミユっぺも加え、6人がエレベーターで最上階の20階に向かった。そこで彼女たちの目に飛び込んできたものは、頭から血を流し倒れる黒マントの当主と、片隅の貝をしきりについばもうとするカラスの姿であった。
<AM6:30 承2>
朝から流血死体。ただ事ではない。
困惑する一同の中、シロアだけは慣れた手つきでスマホに番号を打ち込む。
「もしもし、警察の方!事件です!…」
いまだ完全に理性を取り戻したわけではないながら、必死で状況を説明するシロア。
しかし、彼女に非情な言葉が飛ぶまで、そう時間はかからなかった。
「わかりましたが、嵐の中安全にそちらへ行く手段を我々は持ち合わせておりませんので…」
完全に想定外の回答にあきれ果て、シロアは無言腰から崩れる。
その中でアリアは一人、慣れた手つきで現場を調べ始める。少しして追うようにリーンも「クローズドサークル推理って憧れだったのです!」と、ナスタシアも「置いてけぼりは面白くないぞ」と、その動作に加わり始めた。残る二人のうち流血だけですでに気絶していた薪はもう一人の方、ミユっぺに介抱され、食堂へと戻っていった。
<AM6:40 承3>
三人がかりで当主の部屋を調べ、三人が三人、それぞれに「死因の推理」を構築し終えそうな頃、部屋の中央に倒れる当主の亡骸が黒い霧を噴き出しあたりを覆った。一瞬、霧は視界を覆ったが、すぐに亡骸の頭部に集中し、致命傷になったと思われる頭部に吸収され、やがて消えたその時だった。
「あらあら?また私死んじゃってたみたいねー。で、お三方何してたのー?」
なんと、死んでいた当主が生き返ったのである。
思うことはあるが、まずは質問に答えなければならない。
とりあえず、一番現状をうまくまとめられるアリアが答えることになった。
「今朝がた謎の死を遂げたあなたの死について警察の方に調べてもらおうとしましたが、『嵐がひどくたどり着くのは無理』と断られたので、我々で死因の調査を行うことにしたのです。」
努めて冷静に答えるアリアに、当主クロアは笑顔で
「別にしょっちゅうその辺で死んでるから、気にしなくていいわー」
などとぬかす。しかし、だからと言ってこのまま中途半端に引き下がるのも面白くない、三人にとっては気にしないわけにもいかないので、ここまでの調査成果を報告しあうことにした。
<AM6:50 転>
調査報告はまず一番テンションの高いリーンから行うことになった。彼女はまず、部屋の隅に落ちている頭部が血に塗れた像を指さし、語りだした。
「私の見解では、死因は間違いなくあれの頭部で頭を殴られたことによるものです!きっと実はシロアさんが犯人で…」
「ないわねー」
ノリノリで犯人まで推理するリーンに、ややあきれ調にクロアが言葉を返す。
「そもそも、私が死んだときハクアちゃんは部屋にいなかったわよ?」
以上のやり取りを加え推理を練り直したナスタシアはガラス製の天井に開いた穴と、先ほどカラスがいじっていた貝を指さし推理を発表する。
「ハクアにアリバイがあるのなら、犯人は残る二人のいずれかだろう。警察に通報もせず現場を離れた二人のうちのいずれか、特に薪の方からすれば、結婚に向けてさしあたり最後の障害はあなただ。動機はある。おそらく天井の上から事前に持ち出した像を放り投げたのだろう。」
「それはな…イっ!」
これにも例によって反論しようとしたクロアは、足元の像にけつまづき転んだ。そして、
「また…し…」
死んでしまった。
「しょっちゅう死ぬって…本当にしょっちゅうじゃないですか!しかもなんですか死因が転倒って!」
「さっきのもそもそもコケただけだったのだとしたら推理も何もないではないか!」
あまりの衝撃に思いがそのまま口に出るリーンとナスタシアを尻目に、アリアは極めて冷静にクロアの亡骸の前で一人、
「12、13、14…。」
ただ数を数えていた。この奇妙な状況が10分ほど続いてのち、
「さっきのはないわー」「630」
またしてもクロアは復活した。
と同時にアリアもカウントを止めた。どうやら生き返るまでの時間をカウントしていたようだ。
クロアはそんな状況など知らぬといった感じで続けた。
「薪ちゃんとミユちゃんの結婚は許可していたわ。」
ナスタシアは自身の推理を否定され、面白くないようで
「ぐぬぬ…。だが、だとしても行動自体を否定する材料は…」
「ありますよ」
こんどはアリアが話を切りだす。
「まず、クロアさんが死んでから復活するまでは先ほど計測したところ10分30秒」
「そうねー、普段もそのくらいかしら、そうそう、凶器の像はタンスから落ちてきたわ。」
クロアも同調する。アリアはいよいよ自身の推理に自信を持ったように続ける。
「薪さんには屋上によじ登り像を落とす余裕はないはずです。その推理ですと、落としたあと10分で食堂に戻り、なおかつ料理を『平らげて』いたことになるのです。『像を落とす』『食事を平らげる』10分ではいずれか一つしかできないはずです。同じことはミユさんにも言えます」
ナスタシアの推理を否定したアリアに、次に反論したのはリーンだった。
「なればタンスの像に向かって石を落としたのです。薪には無理でも、だれからも見られていない時間があったシロアなら可能なのです!」
「不可能です」
これにもアリアは容赦なく反論する。
「確かにシロアさんには誰からも見られていない時間がありました。しかし、この屋敷の屋上に上るには外部から行くしかない、仮にシロアさんによじ登れたとしてそんなことをする時間はないはずです。」
さて、ここで困ったことになる。人間全員、だれも犯行は不可能。そもそも自分たちの中に犯人がいないことは彼女たち自身が一番わかっている。行き詰ったかのように見えた状況を打破したのはやはりアリアであった。
「そもそも犯人は人間でなかったとしたらどうでしょう。」
一同騒然。あまりの衝撃に言葉を失った三人を前に、アリアは真犯人の名を告げる。
<AM7:20 結>
「さっきいた、あのカラスです。」
この場にいた誰もが「犯人は人間」という思考から脱却できずにいたからか、その結末はあまりにも衝撃的であった。
「飛べるカラスなら屋上にいけますし、ここの住人でないので食事時間のアリバイを考える必要はありません。動機も、『貝を割りたくて高所から落とした』としてしまえば矛盾はありません」
推理ものの探偵が披露すればたちまち失笑を買いそうなものだが、もはやだれにも反論する材料は残っていなかった。この事件において「確かに箪笥から落ちた像が凶器」「全員にアリバイがあり、崩しようがない」事に変わりはなかったのだから。
捕まえようにも犯人は飛び去った後。しょうもない結論にようやく立ち上がる気力と理性を回復したシロアも含めたその場全員がため息をつくと、この家の人間たちはクロアの箒による送迎で各々の職場へ向かっていった。
今日もまた、変わらない日常がはじまる。