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オヤジの爪痕

「死にたくない」


そう言って普段おとなしかった妻が取り乱したのは一年前。

そして昨日妻は死んだ。

最後は薬の影響で痛みは感じずに済んだが、寝たきり状態で私の声にほとんど反応を示さなかった。

手足の末端から徐々に体温を失っていく妻に触れながら「あぁ、妻は死ぬんだ…」とどこか他人事のように思っている自分がいた。

悲しみはあまりなく、ただこれからどうしようかと、ぼんやりと考えている。


私は神様や運命を恨むような、そんな純粋で非合理的な性格は持ち合わせてはいない。

人は死ぬもの。妻もまた人。

ただ少し早かったな、とは思うが。



私はなんの意識もなく、側で葬式の準備をする息子の肩を叩いて言った。


「あとは頼んだぞ」


私はどさくさに紛れてふらっと消えた。ポケットには妻が使っていたGUCCIの時計を入れて。別に高い物ではない、私がだいぶ前に妻の誕生日にプレゼントした物だから。


私がいなくても葬式は息子がうまくやってくれるだろう。若くして結婚した一人息子ももう30を越えている。孫の顔が早く見たいのだがね。


私は死のうと思っている。

別に絶望している訳でも、妻の死に対して、高ぶり嘆いて後追い自殺をと息巻いている訳でもなく、いたって冷静なつもりだ。

ただ、この歳になって妻を失い、特別な友達も趣味もないので、生きる事への執着を持てないのだ。


妻と一緒に行った新婚旅行の地へ行こうかとも思ったが、ドラマのような悲劇の主人公を演じるのは嫌だったので思い返した。


…自殺志願者求む


人に迷惑のかからない自殺の方法をネットで探していると、そのサイトがふと目に止まった。


「一ヶ月後、死に場所を与えます。それまではどう過ごそうと構わないので待っていてください。その一ヶ月を生きる為に一人五万円を支給いたします。」


そこは志望者を集めた会場。人々


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