誕生
ついに僕たちの子供が生まれた。
予定日を過ぎても中々出てこないものだから、もうダメかと
不安になるアイを励まし続けた日々もようやく終わる。
これからは、アイのためだけじゃなく
生まれた子供のためにも一生懸命働こう。
でも、何故だろう。違和感がある。ボクたちの子供が
無事に生まれた。それは喜ばしいことなのに、手放しで喜べない
違和感がある。一体、これはなんだ?分からない。
分からないことを考えてもしょうがない。とにかく無事に
生まれたんだ。前を向いて生きよう。
ユウキがいる病院には、十数の病室があり各部屋にテレビが
一台づつ備えられている。そのテレビ上では、キャスターが
ニュース原稿を読み上げている。
「本日、○○時において、少しの大気の揺れを感じました。
今のところ、被害情報は入ってきておりません。一方で、専門家からの
情報ですが、数年前から断続的に発生している「大気震」と断定してま す。」
地球以外の場所にて。
「君には、色々迷惑をかけてしまったな。すまない。」
一つの生命体が、目の前の生命体に言葉をかける。
その言葉を受け取った生命体が、言葉を発す。
「ライラック。」
「何?何だ、その言葉は。」
「アチラの星での、貴殿の名だ。どうやら、アチラの星では我々の
言葉は通用しないらしい。」
ライラックと呼ばれたその生命体は、静かに身体を伸ばす。
友から与えられたその名を大事に受け取ったかのように。
「その名前、頂戴したよ。ところで、貴殿にもアチラの星での
名前はあったりするのかい?」
ライラックがそう言い終ると同時に、辺りにけたたましい警告音が
鳴り響いた。
「ライラック。どうやら、装置の調子が悪いらしい。悪いが、すぐ
発射準備にとりかかる。」
その言葉をライラックが聞いたと同時に、自分と友の間に半透明の緑色の
巨大な壁が出現した。やがて、その壁は急速に収縮し、ライラックの身体
全体を包みこんだ。ライラック一人分がちょうど入る大きさの球体だ。そ
の中にいるライラックには、もう外の音は聞こえない。中からの声も
聞こえはしないだろう。そう思いながらも、ライラックは、目の前の友に
別れの言葉を発した。その気配を察知したのか、友はライラックと目を
合わす。友の口が動く。それは見たことのない動き方だった。もしかしたら
地球での名前を教えてくれたのかもしれない。ライラックがそう思ったのと
同時に、ライラックが入った球体は宇宙空間へと飛び出した。
その数時間後、地球にて。
報道キャスターが、冷静さを装いながらも、慌てふためいた様子で
ニュース原稿を大声で読み上げていた。
「本日未明、大規模ば大気震が発生しました。被害状況は未確認。
しかし、皆様、万が一に備え、安全策をとってください。」