第2章 3年目の真実-4
その日の夜、僕は夢を見た。
名も知らない小さな神社の拝殿の前に十五歳の僕はいた。忘れもしない。僕が首吊り自殺を図ろうとした場所だ。
灰色の空を見上げると、氷の結晶が降り注いでいた。
雪化粧の境内を見回すと、朱色の鳥居の下に右腕を失い肩から血を流している男が立っていた。男の顔はのっぺらぼうのように目も鼻も口もなかった。きっと僕がその男の顔を覚えていなかったせいだろう。
「返せ……」
男は口もないのに低くくぐもった声で唸ると、残った左腕を伸ばして僕の方へと歩き出す。静まり返った境内に雪と砂利を踏みしめる音が一定のリズムで響き渡った。
僕は思わず後ずさった。顔がないだけでこんなにも恐怖心が煽られるとは思いもしなかった。ホラー映画は好きじゃないんだ。
気が付くと、僕は走っていた。走って走りまくった。けど、どんなに走っても境内から出て行くことができず、男との距離は広がるどころかどんどんと縮まっていくばかりだった。
背筋に悪寒が走った。
冷たい空気が肺の中に侵入してくる。
息苦しくて心臓が今にも爆発しそうだ。
僕は再び拝殿の前まで戻ってくると、階段に躓いて無様に転倒した。焦燥感にかられた僕は雪に足を滑らせてうまく立ち上がることができずにいた。
その間にも男がじわりじわりとこちらへ詰め寄ってくる。
「返せ……、返せ……」
「わああああああぁぁぁぁぁぁっ――――――」
僕は絶叫していた。
僕の眼前まで迫ってきた男は僕の口の中に左手を突っ込んできた。
僕は涙と鼻水を垂れ流し、みっともない声を上げていた。