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第3章 ひとときの幸せ-4


「大陸の祓い屋は見当たらんかった」

 というのが、千里眼さんの偵察の結果だった。

 千里先を見通すことができても建物の中とかを見通すことはできないので、どこかに潜伏していて見つけられない可能性が高いけど、それを言うと千里眼さんまた激昂しそうだからあえて突っ込まないようにしよう。

 そんな僕の心を読んだのか、紫が肩をすくめて微苦笑した。

 とにかく、ここは千里眼さんを立てて、チャイナ少女からの襲撃がないと信じて帰ることにしよう。

 僕らは雨でぬかるんだ校庭を歩きながら、校門を抜けた。

 朝は雨が降っていたせいで少し肌寒かったけど、太陽が顔を見せ懸命に濡れた路面を乾かそうと張り切っていので暑くなってきた。しかも、湿度があるせいで体が重く感じる。

「帰りもいっしょとは仲がいいのぅ」

 聞き慣れた野太い声が鼓膜を震わせた。

 再び登場、板垣のおじさんである。校門前に横付けしたワンボックスカーの窓から満面の笑みを浮かべながら上半身をせり出してきた。

「これ、コハルばあからの頼まれもんじゃ」

 僕に風呂敷包みを押しつけると、じゃあのぅ、と鼻歌交じりにワンボックスカーを発進させた。

 まさにあっという間の出来事だった。

「真悟様、それは?」

 コハルさんが今朝言っていたゴボウとニンジンたっぷりのいなり寿司が入ったお弁当箱だと思うよ。板垣のおじさんに託けてくれたんだ。

 おそらく板垣のおじさんは昼前にも何かと理由をつけて診療所に行ったんだろう。そこでいなり寿司を持ってきたコハルさんといっしょに母さんと昼食を取り、なくなってしまう前に僕のところへ届けに来たといったところだろう。

 その証拠に風呂敷包みにはコハルさんからのメモ書きが入ってきて、慎ちゃんが帰ってくる前に(たく)(ろう)――板垣のおじさんの名前だ――が全部食べてしまいそうだったけぇ、お弁当に持っていかせることにしたよ。天気もよくなったけぇ紫ちゃんとピクニックでもしてきんさい、と書いてあった。

 水筒もちゃんと用意されていた。

 せっかくのコハルさんの好意を無駄にするわけにはいかない。

 ちょっと遠回りになるけど、お弁当を食べるには最適な場所があるからそこへ行こう。

「お主は自分が狙われておる自覚はあるのか?」

 紫から遠回りして外でご飯を食べることになったと聞いた千里眼さんは目を吊り上げた。

 もちろん、自覚はある。

 僕が死ねば四凶の一人――《渾沌》と呼ぶことにちょっと抵抗を感じた――も死ぬかもしれない。でも、もしかしたら僕が死ねば四凶の一人の封印が解ける可能性だってあるんですよ。なのに、どうしてそこまでして僕を守ろうとするんですか?

「真悟様!」

 いいから、そのままを千里眼さんに伝えて。

「……かしこまりました」

 紫は渋面を作って、千里眼さんに僕の言葉を伝えた。

 千里眼さんは僕の顔を凝視した。

「儂は分の悪い賭けは嫌いじゃ」

 僕は苦笑した。

 千里眼さんってやっぱりいい人――妖怪?――なんだな。

 大丈夫ですよ。千里眼さんの偵察が正しいならチャイナ少女からの襲撃はないってことでしょう?

「ぐぐっ……」

 千里眼さんが言葉を詰まらせた。さすがに得意の小言は出てきそうにない。

 ここで僕は追い討ちをかける。

 もしチャイナ少女が襲ってきたとしても、千里眼さんが用心棒としてそばにいてくれるんですから何も心配することはないですよね?

「そ、それもそうじゃな」

 千里眼さんはまんざらでもないといった顔で承諾してくれた。今日わかったことだけど、千里眼さんはおだてに弱い。特に母さんには自尊心を傷つけられてばかりだったから、些細な褒め言葉でもすぐに上機嫌になる。

 単純な性格で助かった。

 あ、紫、これは千里眼さんに伝えたらダメだよ!

 僕は口の前にそっと人差し指を立てると、紫は口元に笑みを浮かべて僕と同じ仕草をすることで了承したことを告げてくれた。

 この数時間のうちに紫とずいぶん通じ合えるようになった気がして、僕は何だか嬉しかった。



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