なんでもない火曜日の放課後の不幸
〈第六章〉
この学校の七不思議の1つ、それは…
「友達が言ってたんですけど、文芸部に魔女が出る、って…ホントですか?」
私は、部室でケータイをいじっている(もちろん規則違反)の月持に聞いた。今日はまだ、月持と私しか来ていないようだ。
「ほんとだよ☆」
「あぁ、ホントですか。そりゃ良かった…って良くない!! 激しく間違っています!!」
いつもの押し問答というか口喧嘩というか、少なくとも文芸部以外では行われそうに無い会話が始まろうとしたその時、彩夏が現れた。…って、なんでボロボロなのよ、部長。
「う、うぅ、助けて…」
「多分なんでもないのだろうけど、一応質問してあげますね。先輩のためじゃないですよ、読者の皆さんのためですよ、勘違いしないでくださいね? で、…どうしたんですか、彩夏先輩?」
「鬼が…鬼婆が…」
「やっぱりどーでもいいことですね。今日の活動内容は何ですか?」
「どーでもよくないわぁ、ぼけぇ!!」
「ぼ…ッ!? どっちがぼけですか!?」
「ちょっと賑やかにも程があるんじゃないかしら、佐藤さん?」
「ほんとですよ、ぼけとか言われたら出て行っちゃいますよ…って、ええ!? あなた誰ですか!?」
「ふふ、初めましてかしら…? 私はこの文芸部の顧問…河北美雪よ」
河北先生は、ハイヒールにひらひらのスカートという、目立ちすぎているわけではないけれど何故か目を引く姿形をしていた。っていうか、
アナタハ何故、カーペットノ上ヲ、ハイヒールナンカデ歩ケルノデショウカ??
うちの学校は、ほぼ学校全体がカーペットで覆われている。でも学校自体が相当広いから、カーペットもそうそう良いものを使うわけにはいかない。だから、ちょっと安めなものを使っているから…そうとうデコボコしてるはずだぞ?その細いピンヒールはなんだい??
「あぁら、私の美貌に惚れてしまったかしら…。まぁ、仕方ないわね、何しろ私は、宇宙一、美しいから…」
ここで!究極のナルシストと来ましたか!さすが文芸部!先が読めない!!…っていうか、個人個人のキャラ濃すぎないか!?さりげなく誰かと被ってるけど…。
「とにかく、私が来たからには、今から言うテーマで作品を作ってもらわなくちゃいけないわね!今回のテーマは『ミステリー』よ。これで、皆で協力して脚本を作り、演じて頂戴ね。あ、あと、新入生さん…」
「星野です。星野優希」
「優希、あなたにお願いがあるの」
なんとなく分かってたけど…!いい加減苗字で呼ぶ奴出てきてくれないかなッ!
「なんでしょうか、ええと、河北先生?」
河北先生はしばし私の瞳を覗き込んだ挙句、踵を返して去りつつも言った。
「…文芸、やめないでね☆ じゃあ私は忙しいからこれで!アデュウ!!」
「結局言い逃げ?まあ、辞めないけどさ…」
「…優希、分かったか?」
彩夏が目の下に隈を…って、いつの間に隈なんか!?さっきまで無かったのに…。
「あやつは…魔女だ」
確かに、大鍋を使って、魔法の薬とか調合してそうなイメージだけど、あの人が魔女ねぇ…。
「河北は…どんな手を使ってでも、私たちを従わせようとする…がしかし、私たちは文芸部を守るために、あやつと戦う事を誓…」
う~ん、こんな頼りない部長で大丈夫かな?というより、さりげなく「私たち」と言うのをやめてほしいです。
そうして、文芸部のメンバーがやっと全員(顧問も含めて)紹介された、火曜日の放課後であった。
あ、ところで、その後部室で発見された変死体…じゃなくて気絶した月持のケータイは、真っ二つに折れていた。誰がやったのかは…まあ、予想は付くが…。いつの間にやったのだろうか…。さすが、文芸部の顧問「魔女」…。