教育上適していない為、文芸部の部誌は配布を禁止、及び没収とします
〈第五章〉
「また始まった」
部室に入るなり、彩夏が言った。声はいつもより沈んでいたが、顔には少し嬉しそうな表情を浮かべていた。
「何が始まったんですか?」
私は一応質問した。彩夏は得意げに微笑み、言った。
「私の担任…教育指導係の峯田なんだけど、そいつがまた『教育上適していない為、文芸部の部誌は配布を禁止、及び没収とします』って言ってきやがってさ」
「ええっ! 困るじゃないですか! だって、配布は今日なんですよ! これまで待っててくれた人はどうするんですか!」
すると、月持がのんびりとした口調で言った。
「うん、そうだねえ。どうしよっか」
「どうしよっか、じゃないですよ!」
「じゃあどうすればいいの?」
「それをこれから皆で考えるんじゃないんですか!」
私と月持の押し問答はしばらく続き、朱莉が「そろそろ止めてお菓子食べなよー」と言った頃にはどちらも疲れきっていた。
「で、今回はどの戦法で行くの?」
副部長、楠木がぼそっと呟いた。
「別に何も対策はしないよー。部誌は先生に明け渡すし」
「え、何それ! うちの素晴らしい話はお披露目出来ないってわけ?」
「うーん、分かんない。んじゃ、ちょっと職員室行って来る」
「ちょっと待ってよ部長―! あたしのお菓子の話はぁ!」
彩夏は部誌を詰めたダンボールを抱えたまま、そそくさと部室を出て行き、私は視線を落とした。そんなに簡単に明け渡していいの? せっかくの部誌が台無し…。楽しみにしてくれていた人は、とても沢山いたのに…! 大体、部誌の内容なんて一生懸命作ったのなら、どんなものでもいいじゃない! 先生なんて大嫌い! 部長なんて大っ嫌い!
五分ほど経つと、彩夏が戻ってきた。私は彩夏を睨みつけた。彩夏は私の視線に気づき、そしてなんと、私に微笑みかけて言った。
「よーし、じゃあ部誌配ろう!」
「は?」
「部誌だよ、部誌!」
「…今さっき、先生に渡してきたじゃないですか」
「それは、去年のやつ」
「…え?」
「ふふ、実はね、去年の部誌、表紙を間違えて、二倍刷っちゃったんだよ。で、今回の表紙と差し換えたの。だから、ここにしまってあるこれが…」
彩夏は戸棚からダンボールを取り出した。
「これが、今回の部誌! 表紙は去年のだけど、中身は正真正銘、今回の部誌だよ!」
「…先輩…」
「ん? なにかな、優希?」
「先輩大好きっ!」
私はそう叫び、彩夏に飛びついた。彩夏は照れたように笑い、大声で言った。
「んじゃ、今から文芸部の部誌配りまーす!」