計画性のある人になろうという教訓を学んだ
〈第三章〉
「ユキ、文芸にはもう慣れた?」
哀梨の声に、私は答える。
「うーん、まあまあかな」
私が文芸部という特殊な部に入った事に興味があるらしく、哀梨は私に何かと喋りかけてくる。
「お菓子ボリボリ食べて、ただ喋るだけしかやってないからね…。まあ、今日は部誌の原稿が完成するらしいから…」
「へえ、出来上がったら一冊頂戴!」
「いいよー、一部確保しておくね。…まあ、今回は新入生歓迎号だから、私は書いてないんだけどね」
「…で、どうしてこんなに行列が…?」
私は腕を組んで顔をしかめた。普段は人気の無い三階の廊下が、今日は何故だか、文芸部の部室の前から行列が出来ているのだ。
「文芸部の部誌はね、没収されることが多いけど、凄く人気なの。みんなテーマが違うから、バラエティに富んでるし。内容も凄くしっかりしてて、本物の小説並みに上手なんだよ。それに今回は、月持が前の部誌の続編を書いてるから、行列が出来たんだと思うよ」
彩夏がにっこりと笑って言った。
「へえ。…って、だったら早く部誌作んなきゃ!」
私は焦って言った。そもそも〆切が三日前で、そっから印刷、折り込み、ホチキス止めとか無理でしょうよ!! もうちょっと計画的にやろうよ! ねえ!
「いや、みんな待つのは覚悟で来てるし…。別に急がなくてもいいと思うよ☆」
朱莉がピースをするのを横目で流しながら、間に合わせるのをあきらめた私は原稿を手にした。
「これ…ちょっと読んでいいですか?」
内容は、物凄く濃かった。特に、月持のが。
『ある世界に、男と少女がいた。二人は愛し合っていた。何を捨ててでも、相手を愛す覚悟が出来ていた。しかし、二人の愛はあるもので邪魔をされてしまった。
男は、この世界の神だった。少女は、この世界に生きる、普通の娘だった
男は、「神は誰をも愛してはいけない」という決まりに則り、愛を捨てなければならなかった。ところが二人は、結ばれない恋と知りながら、愛を捨てることが出来なかった。
二人は、前世でも結ばれることが叶わず、次に生まれて来たときには必ず愛し合うと誓った仲であった
二人は愛を捨てられず、神として生まれた男はやがて、宇宙という「空間」に滅ぼされてしまった。魂はその空間で朽ち果て、どうあがいても元にはもどらなくなった。』
私はそれを読み終えたとき、とても深い悲しみに心が震えるような気がした。これは、フィクションで、現実には無い、作り物。そう分かっていたけれど、胸の奥がキュンとして、すごく切ない気持ちが私を包み込んだのだった。
「これ…凄いです!」
私は月持に向かって言った。
「でしょ? やっぱりうちって天才…」
「やっぱさっきの撤回です」
「え? 美しい? やっぱり☆」
「だから言ってませんって!!」
確かに文芸部の人達って、変な人ばっかりで、尊敬すべき先輩とは言いがたいけど、実力は正真正銘の本物なんだ。私はとても嬉しくなった。
「よっしゃ、印刷終わった! 後は皆、ひたすら折れー!!」
彩夏がいきなり叫んだ声に、私は忠実に返事をした。
「はい!!」