いきなりなんですか、このハイテンションは!?
〈第二章〉
「あ、優希だよ」
「優希、お菓子食べる~?」
「ねえ、優希、お茶買って来て?」
部室に入った途端、名前を連呼され、私は思わず叫んだ。
「ちょ、何で下の名前を呼び捨て!? それに、規則ではお菓子は禁止ですよ! いきなりパシリっていうのも! おかしすぎません!?」
「そう怒るなって。恋愛に関してもそうだけど、相手を気遣いすぎる、堅苦しい関係って
いうのは、凄く身体に悪いんだよ?」
「急に文芸部員ぶらないで下さい! 言っていることが正しくても、ごまかしは効きませんーっ!」
いつもは静かな私が、ここまで騒ぐのにも理由がある。文芸部の変人…いや、先輩達は、とてつもなく人間離れした人たちだから、だ。そう、悲劇の始まりは…約三日前。
「じゃあ、皆揃ったから、自己紹介から始めようか。私は佐藤彩夏。3年6組、文芸部の部長だよ。彩夏って呼んでね。えーと、副部長は…」
「…3年5組、楠木」
「うちは2年2組の月持綾乃! 残酷な愛の描写は何物にも変えがたいよね。月持って呼ばれたいな☆」
「あたしは2年4組の、小野朱莉~。お菓子大好き! あ、朱莉でよろしくね!」
「みんな個性的な奴らだけど、これからよろしくね。分からないことあったら、私に聞いてね」
「…噂どおりの人たちだ」
「ん? 何か言った? うちのことを美しいと、今そういった?」
「言ってません、何があっても言いません!言ったら調子に乗りますよね、絶対!だから言えと言われても言いません~!」
「ねえ、なんで敬語使ってるの?」
「え? だって、皆さん先輩じゃないですか。敬語使うのは、当たり前ですよ?」
「え? 先輩には敬語使わなきゃいけないの!? 初めて知ったよ、あたし!」
「もういいです、話になりません!」
「えーっ、あたしはもっと優希と話したいー!」
「いきなり呼び捨てですか!? せめて一回ぐらい苗字にさん付けとか無いんですか!」
「星野さん」
「え、あ、はい、何でしょう、楠木先輩」
「…別に」
「え! 別にって何ですか!」
「呼べって言ったの君でしょ」
「えーっ!? そういう意味で呼んだんですかっ!?」
…とまあ、こういうわけである。
「それより、みんな原稿書いてきてくれた?」
部長・彩夏が言った。
「書いたよ~」「書いた書いた」
朱莉と月持が返事をする。
「じゃあ集めるねっ」
彩夏が皆の原稿を集め、部室を出て行く。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど…」
私は前から思っていたことを口にした。
「皆さん、なんで没収されるような部誌を書くんですか? どうせ作るなら、普通に面白い小説を書けば良くないですか? あんまり先生に目を付けられたら、新入生も入らなくなっちゃうし、そうしたら文芸部自体が無くなっちゃいません?」
「まあ、確かにそうだよね。没収されちゃったら、せっかくのうちの素晴らしい部誌が配れなくなっちゃうし」
「月持さんは少し自重してください!」
「…つまらない」
不意に楠木さんが呟いた。
「決められた範囲の中で大人しく表現するなんてバカみたい。おどおどびくびく従うなんていう文芸部の価値を下げるようなことしたくない。…これで満足?」
「たしかに…」
私は鋭すぎることをさらりと言い切った楠木さんに、少々ビビリながらうなずいた。
と、不意に部室のドアがノックされた。
「お邪魔します!」
入ってきたのは、上履きの色からして、二年生の人だった。部員ではない…。文芸部の部員は、三年、二年共に二人ずつ、そして、一年が私一人のはずなのだが。
「あ、私は石田真由子! 朱莉のクラスメイトだよ。小説が大好きで、よく過去の部誌を読みに来るけど、気にしないでね! まゆちゃん、って呼ばれてるから、その名前で呼んでくれればいいよ!」
文芸部に関わる人達って、どこまで愉快で個性的なんだろう…。