騙されたぁぁ~!
〈第一章〉
「おはよう」「あ、おはよう」「ねえ、昨日のテレビ見た?」「見た見た、○○くん、マジかっこよかった~~!」「もう神~!」
朝の教室は、あいさつと昨日のテレビの話題で賑わう。私は賑やかな教室の中で、静かに
小説を読む――つまり、私はテレビなど見ないから、悲しい事に話す話題が無いのだ。
「おはよ、ユキ」
隣の席の少女、哀梨が登校した。哀梨はとても情報通で、明るく面白い。そして、誰にで
も優しく接してくれる。小説を黙って読んでいる私なんかにも話しかけてくれて…すごく
純粋な子だ。
「おはよう、哀梨」
私は小説から顔を上げて、あいさつを返す。いつもの会話はこれで終わり…だが、哀梨は
続けてこう言った。
「ユキ、また小説? 今日は何読んでるの?」
「これね、文芸部の部誌なんだ。凄く面白いの」
「文芸の? へえ、よく貰えたね」
「え? どういうこと?」
「うちの学校の文芸部って、凄く個性的な人が多いんだって。詳しくは知らないんだけど
…」
つまりはこういうことだ。
聖歌女子中学校の文芸部は、問題を生み出すのが得意で、先生たちに目をつけら
れているらしい。去年の文化祭で配った部誌は、内容が「教育上」良くないという理由で、文化祭中に配布を中止したという。つまり、私が部誌を持っているのは、奇跡に近い。
「まあ、部誌を読むだけならいいけど…。先生たちの前では、大っぴらに見せびらかさな
いほうがいいかもね。取り上げられるかもしれないし。まぁ、間違っても文芸部に入らなければいいだけのことだよ。…あっ、ヤバイ、授業の準備してない!」
先生が教室に入ってきたのを見て、哀梨は顔を真っ青にした。
「…って言われても、もう入部届け出しちゃったんだけど…」
私の呟きは誰にも聞こえることなく、眩しい春の日差しの中へと吸い込まれていった。