9話
「バイト何しよ?」
季節は5月。
大学生活にも慣れてきたので、友香はバイトを探し始めた。
「花ちゃんは何してるの?」
「私は、ケーキ屋。余ったら持って帰れるし、楽しいわよ。」
「へー。俊明くんは?」
「俺は居酒屋で働いてる。最近、なんとかあのスピードについていけるようになった。いや、注文も一度にたくさん入ってさー。」
「大変なんだねー。」
「翔太くんは、何してるの?」
この場にいない名前が出る。
「翔太は、サッカーの試合のグッズ売ったりするバイトしてるみたい。無料で試合が見れるとか嬉しそうだった。あとは、ラーメン屋でもバイトしてるとか。」
「わお!彼、働くねー。」
「食費とか全部あっちが出してくれるから、申し訳ないのよ。なんかないかなー。」
うーんと悩み、情報誌をめくる。
「やっぱ私たちはさ!せっかく管理栄養士を目指しているわけよ。だから、食に関係する所がいいんじゃない?」
花の提案にふむふむとうなずく。
※※※
「え?バイト?」
「うん!ここにしようと思って。」
友香が情報誌を翔太に見せる。
「結婚式場?」
「うん。ブライダルすることにしたの。来週から行くことになったんだ。」
最近の2人はリビングで2人でいる時間も増えた。
翔太はサッカーの雑誌をソファで見て、友香は課題をやったり、料理本を見たりするのがいつもの光景だ。
別にそれぞれの部屋でしてもいいのだが、あえてリビングで過ごすのが心地いい。
相変わらず翔太の口は悪いが、友香は前ほど気にならなくなった。
友香の作った料理に翔太がケチをつけたことが今までない。
いつも、完食し、催促するほどだ。
褒めてはくれないが、そんな翔太に作りがいがあった。
「私ね、こんなとこで結婚式あげたいの!」
見て見て、とその結婚式場のサイトを見せる。
フランス風の作りで、庭が色とりどりの花の中で花嫁が幸せそうに微笑んでいる。
「あー。未来の旦那様に早く会えますよーに。」
浮かれている友香に隠れて、翔太は微笑を浮かべた。
いつかな、翔太の口はそう動いたのだろうか。