8話
友香はしばらく、花と俊明の家に居候させてもらうことにした。
2人は快く受け入れてくれた。
和室が空いていたので、その部屋を使うこととなった。
「それにしても!なんで、青木翔太は友香を傷つけるかなー。せっかく吉田くんとも上手く行きそうで、友香の女としての自信がついてきた頃なのにー。」
花ははぁとため息を漏らした。
「私、明日は学校行けそうにない。」
くしゃくしゃになった友香に、はいはいと花は頷く。
「いいわ。私と俊明がノートとってあげるから。2、3日休みなさい。」
今日は水曜日。
友香は2人に甘えて木・金と休んだ。
家からは一歩も出ず、ひたすら泣いた。
そうして月曜日、久しぶりに友香は大学へ向かった。
行くと、同じ学科の子が話かけてきた。
「有沢さん。2日も休んで大丈夫だった?」
「うん。ありがと。もー平気。」
「青木くんが、あなたを探していたわよ。」
「え?」
「今日はまだ見てないけど、木曜も金曜もうちの学科の何人かの子に聞いてたみたい。2人ってどーゆー関係?」
「えっと、幼馴染なの。なんか用事があったのかも!わざわざ教えてくれてありがとう。」
翔太は自分を探していたようだ。
"大嫌いだよ、翔太なんか"
そう言ったとき、翔太は凄く寂しそうな顔をしていた。
傷つけられたのは自分の方なのに、あんなに寂しい顔されると、こっちが悪いような気さえしてくる。
(大嫌いなんて、言わなければよかった。)
傷つけられるのを散々嫌った自分が、相手にきつい言葉を浴びせてしまった。
ーー反省。
とりあえず、謝ろう。
「友香、どうしたの?」
「花ちゃん。私ね、今日は自分の家に帰る。翔太に私も酷い言葉言ってたの。謝らなきゃ。」
花は友香の明るい声を久しぶりに聞いた気がした。
「そう。また辛くなったらいつでもいらっしゃい。」
「うん!」
こうして、久しぶりに我が家の扉を開けた。
中はしーんとしている。翔太は帰っていないのだろうか。
(鍋を作って待っていよう。)
冷蔵庫を見ると、自分が家出した時と同じ状態だ。
(ずっと、弁当とか買ってたのかしら。)
ゴミ箱を見ても、食べた後が見当たらない。
疑問に思いながら、野菜を切っていると、玄関が騒がしくなった。
パタパタと迎えに行く。
入ってきたのは翔太だった。
しかし…。
「し、翔太?」
ぐったりとした翔太を支えるように、サイドに2人の男がいた。
「あ、ルームメイトさんですか!翔太を部屋まで運びたいんですが!」
「あ、こちらです。」
「「失礼します。」」
翔太はユニフォームのままだ。青ざめた顔で意識は朦朧としている。
「あ、あの、何があったんですか?」
友香は、翔太のあまりの姿に声が震えた。
「それが…翔太の奴、ここのとこ、ご飯食ってなかったみたいなんです。なのに、一日中練習参加して。自主練までやって、ぶっ倒れたんですわ。」
「いや、あのサッカー中は冷静な翔太が、自分の体調管理ができないなんて、俺たちもびっくりしてるんです。」
チームメイト2人はそう言うと、帰って言った。
※※※
「…」
「目が覚めた?」
「…友香??!!」
ガバッと起き上がろうとする翔太をなだめる。
「翔太、練習中に倒れたんですって。だめじゃない。ご飯食べなきゃ。近くのコンビニに行くぐらいできたでしょ?」
小皿に入ったおかずを友香は箸ですくった。
「なんの真似だよ。」
「え?食べさせてあげようと思って。」
「自分で食える!」
友香から箸を奪うと、凄い勢いで食べ始めた。
「おかわり。」
「はい、はい。」
翔太はあんなにあった鍋を完食した。
「…ごめん。」
食べ終えた翔太は呟くように、言った。
「俺、口が悪くて。そこまでお前が傷ついてるって知らなかった。なぜかお前には憎まれ口たたいてしまうんだ。だけど、お前が家、飛び出した時、すっげー反省した。謝ろうとお前を大学内で探してもいねーし。罰が当たったんだと思って、ご飯食う気にもなれなかった。…ごめん。」
翔太が謝ったのは、始めてかもしれない。
「私の方こそ、ごめん。」
「友香が謝る必要はどこにも…。」
「翔太のこと嫌いって言ってごめん。本当は嫌いじゃないよ。」
「…友香。」
ふふっと笑う友香に、翔太はぽかんとしている。
「これで仲直り、ね。」
※※※
あの一見以来、花&俊明と翔太は仲良くなった。
友香は家出中は2人の家にいたのだと言った。
友香はてっきりあの吉田の元へ行ったのでは、と死に物狂いで探していた翔太は、一気に気が抜けた。
こうして、なんやかんやで友香は順調な大学生活を送っていくのである。