16話
友香の部屋には、友香、花、俊明、矢島センパイの5人がいた。
どうやら、矢島の部屋に翔太は行ったようで、入れ替わりに矢島が友香の部屋に来たようだ。
友香はずきっと心が痛んだ。
「あれ?お友達?」
「…センパイ。」
「「…。」」
矢島は鼻唄を歌いながら、荷物を部屋におき、整理し始めた。
「友香ちゃん、今日はよろしくね!」
「あ、あの!せ、センパイ!」
友香はタジタジながら、矢島に呼びかけた。
『友香、行け!』
『友香ちゃん、素直に!』
2人が小声で応援する。
友香はこくっとうなずき、息を吸った。
「矢島センパイ。私、翔太のことが好きなんです!…だから、センパイとは泊まれません!!」
「へ?」
「私、片想いなんですけど!翔太が他の女性と一緒にいるの、嫌なんです!!」
友香は自分の気持ちを一生懸命伝えた。どうしても翔太を奪われたくない。
「友香、よく言ったわ!」
パチパチと拍手をする花。
うーん、と矢島はうなる。
「困ったなー。でも、理沙に協力してあげたいし…。」
(あ、またあの表情。)
へらへら笑っている矢島が少し曇る表情をする。
先ほど泳いでいる時もそうだ。矢島が同居人(理沙)を見る時、すごく辛そうに見えた。『協力して?』と言った時の矢島も無理に笑っているように見えた。
友香は今までなぜ矢島が辛そうなのか分からなかった。…だけど、今なら分かる。
「…矢島センパイ。センパイは理沙さんが好きなんじゃないですか?」
はっと驚いて矢島は友香を見た。
「センパイ、理沙さんを見つめる目が、私と同じ、恋する目です。どうして、わざと理沙さんと翔太をくっつけようとするんです??」
矢島は、観念したようにつぶやいた。
「…理沙が幸せならいいんだ。理沙はずっと青木翔太に憧れていた。部屋にもポスターがたくさんだ。昨日の夜も青木翔太と話ができたって喜んでいた。今日だけでいいんだ。2人っきりにしてあげて欲しい…。」
「それは、間違ってます。」
友香は、はっきりとした声で言った。
「センパイは自分の気持ちを伝えたんですか?」
「…いや。」
「どうしてぶつからないんですか?『俺が理沙を幸せにする』って何で思わないんですか?センパイは弱虫ですよ、この弱虫!!」
「ち、ちょっと友香落ち着いて!」
花がなだめようと声をかける。
「センパイは、自分から幸せを手放してる!『理沙が幸せならいい?』どうして自分の気持ちと真逆の事を言うんですか?告白もせずに勝手に1人で決めて!」
友香は矢島に言いながら、自分自身に言っていた。
「私は今日、勇気を出します!だから、センパイも勇気を出してください!」
しーん。
しばらく誰もが無言だった。
口を開いたのは矢島だった。
「…友香ちゃん。俺は間違っていたよ。友香ちゃんの言うとおり理沙のことがどうしようもなく好きなんだ。本当は誰にも渡したくない。だが、理沙は俺を青木翔太のように見てくれない。全然男として意識されてないんだ。だから告白なんてとてもできなくて…。」
矢島はふっと悲しそうに笑う。
「だけど、今、友香ちゃんに勇気をもらった。俺も理沙に告白する!俺が理沙を幸せにしたいんだ!」
「…センパイ。」
もう矢島は、どこか吹っ切れたような晴れ晴れした顔をしていた。
花と俊明が感動して手を叩いている。
「じゃ、翔太のとこに行かなきゃ!」
こうしてはいられない。1分でも、1秒でも早く翔太に思いを伝えたい。
友香は部屋から出ようと、扉をあけた。
…次の瞬間。
バシッと鈍い音が廊下に響く。
(…え?)
友香は自分が叩かれたことに気がついた。
叩いたのは…。
「理沙!お前、友香ちゃんに何やって…ッ!」
友香の後ろから、矢島の声が聞こえた。
(…理沙…さん?)
理沙と呼ばれた女性は、涙ぐんでいる。そして、キッと友香を睨んだ。
「あんたね、学をたぶらかしたのは!嫌よ!絶対に学は渡さないわ!」
理沙は喚いている。
「理沙、止めろ!」
「何なの?学…そんなに私が嫌なの?…私の嫌なとこ、あるなら言ってよ…直すから…。他の女性のとこに、行かないで…。」
そう言うと理沙はその場に泣きながらしゃがみこんでしまった。
「…えっと…。とりあえず中に入って話あったらどう?」
花の一言に、全員が賛成をした。




