15話
「…ぉぃ!…」
「…うーん。むにゃむにゃ。」
「…おいって!!」
耳元でどなられて、友香は飛び起きた!
「うるさいな!なんなのよッ!耳元で叫ばなくてもいいじゃない!」
「…お前さー。離してくれない?」
「…は?」
すごく迷惑そうな声が隣から聞こえてくる。
…友香は、ゆっくりと自分の状態を確認した。
「!」
見れば、翔太の腕に自分の腕を巻きつけていたようだ。…何度も言うが、友香は水着である。
「ご、ごめんなさいッ!!」
慌てて腕を離す。
翔太が離してくれなくてしかたなく横にいたのに、目が覚めると自分が翔太を離さないようにがっちり腕に抱きついていた。今さら、本当の事を言っても言い訳にしか聞こえないだろう。…これじゃ『翔太大好き』と、体で伝えているようなものだ。
「あ、あのッ!」
翔太に気持ちがバレたかもしれないと真っ赤になる友香に対して、翔太は冷たい表情を浮かべた。
「…お前さー。何なわけ?そんな格好で…。俺をバカにしてるの?…それとも…。」
翔太の目がいつもと様子がおかしい。不意打ちに友香の上に覆いかぶさり、耳元でつぶやいた。
「…誘ってんの?」
友香の口に柔らかい物が押し当てられた。
(き、キスされてる!)
友香に取って始めてのファーストキスだ。
「んんーッ!」
友香が逃げようとすると、翔太が両腕を持ち上げ、がっちりと片腕で固定する。
息が出来ず口を開けると、翔太が中に入ってきた。突然の出来事に友香は反抗もできない。
「!!!!」
さらに、翔太の右手が、水着の上から友香の胸に触れる。
「や、やめて!」
「何が?そっちが誘ってきたんだろ?昨日もそうだ。無防備に裸を見せやがって。…俺はバカにされてるの?男ってな、好きでもない奴でもヤレるんだよ!」
"好きでもな…い"
友香の目から涙がにじんできた。
友香の涙を見て、翔太ははっと止まった。暴走していた熱が一気に覚める。
翔太の腕がゆるんだ隙に、友香は翔太をおしのけた。鞄から着替える私服を取り出し、シャワールームへ向かいながら言った。翔太には背を向けて。
「…翔太。私は…今日は…矢島センパイと泊まるわ…。」
「…は?」
「矢島センパイの同居人の人が、翔太のファンなんだって。矢島さんは私に優しくしてくれるし。翔太とは大違い!」
「矢島って、今日お前と泳いでた…。」
「見てたの?そう、その人。…だから、翔太出ていってくれない?」
矢島の部屋番号を告げる。
"男子が部屋を移動すること。"
翔太はすごく怖い顔で友香を見た。
「…あー、そうかよ!」
翔太が壁を思いっきり殴る音がした。
シャワールームで体を洗いながら、声を押し殺してないた。
(…こんなことが言いたいんじゃないのに…。)
思っている事と真逆の事を翔太にぶつけてしまった。
シャワーから出ると、翔太の姿はなかった。翔太は荷物をまとめて、矢島の同居人の女性の部屋に行ったのだろうか。
(行かないで…。)
翔太の居なくなった部屋はすごく大きく感じられた。
しばらく放心して、友香は地面に座りこんだ。
※※
ノックの音がする。
友香が開けると、花と俊明がいた。手には友香のためにコンビニ弁当の袋が見える。
「友香、そんな顔して、ど、どーしたの?」
「ま、まさか、翔太くんが嫌がる友香ちゃんを無理やり…ぐはッ!」
「俊明は、黙ってなさい!!」
俊明のみぞおちに、花の一発が入る。
「……花ちゃん、俊明くん…。…う、ひっく。」
2人を見ると、また涙が溢れ出す。
「あー、泣かない、泣かない。話をしてごらん?」
友香は今までの出来事を話した。
ーー翔太を好きなことも伝えた。
「…なるほど、だけど、真逆のセリフを言って、喧嘩してしまったと!」
「だって、翔太は私のこと『好きでもない女って!」
「うん、それは青木翔太が悪いわ!」
花はうんうんと頷く。
「…友香ちゃん。翔太くんはそんな風に思ってないと思うよ。…多分、頭に血が上って真逆のセリフを言ったんだよ。友香ちゃんと同じさ。」
俊明はさりげなく言った。
「友香ちゃん。自分の気持ちを伝えてごらんよ。たまには素直になるのもいいんじゃない?」
「でも…もう、翔太出ていっちゃった…ひっく。」
「私が呼んできてあげるわ!」
花がすくっと、立ち上がる。
「友香が恋をしたんだもの。協力するのが親友よ!」
花が扉に向かった時、扉が開いた。
「お邪魔しまーす。」
「や、矢島センパイ!」
部屋に入ってきたのは、矢島学だった。




