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恋愛ゲーム  作者: 七度
遊戯部との出会い
9/23

08話「どうか」

「……はぁ」


浩太は溜めた息を吐き出し、自室のベッドに腰掛けた。

今日は朝から色々ありすぎて頭が混乱している。教室に入れば物を投げられ、男子に冷たい視線で非難され、午前午後は何とか耐えてやっと放課後だと思ったら小さな先輩に頬にキスされた。その後で遊戯部部長にもキスされそうになり、告白の様子を観察という謎の部活動中に大和撫子に告白された。


無茶苦茶だ。今まで生きてきた中でこれほどまでに悲しいのか嬉しいのか判断するのが難しい日は体験したことが無い。

落ち着いて出来事を整理しようと帰宅したが、世の中そんなに甘くなかった。

「浩太!!」

普段は柔らかく微笑み、趣味のガーデニングと家族を誰よりも愛する母の顔は怒りで染まっていた。原因は朝クラスメイトたちに様々な物を投げられ、とんでもない色になってしまった学校指定のシャツ。そのまま玄関から風呂場へ連行され、石鹸で手洗いして汚れが落ちるまで出てくるなとドアを勢いよく閉められた。


(……今夜、晩飯食えるかな…)

何とかシャツを洗い終わり母親に手渡したが、彼女はまだ怒っているようで一言も口を利いてくれない。もしかしたら夕食も自分で作れと言われるかもな、と思いながら2度目の溜め息を吐く。同じ姿勢で作業をしていたせいか、体中がだるく感じられた。


それにしても、自分が何をしたというのだろうか。

神子に告白されてから、今までの平穏で楽しい学園生活が180度違うものに変わってしまった。これが噂に聞くモテ期なのか、と喜ぶ気分にもなれずベッドの上でただ時間だけが過ぎて行く。



河上神子

遊戯部部長 浩太に初めに告白してきた派手な美女。

赤茶色の長くふわふわとした髪が印象的で、道を歩けば誰もが振り返るだろう。


東郷小桃

可愛くて、守ってあげたくなるような小さい先輩。

赤いプラスチックの球体で髪を二つに縛った姿は、彼女を余計に幼く見せた。


真島絹代

男子たちの憧れの大和撫子。

白く華奢な身体、優しい微笑み、何もかもが完璧な美少女。




どうして、何故


そんな言葉ばかりが浩太の脳内を埋め尽くす。

自分は整った外見をしているわけでも、運動神経がいいわけでも、勉強ができるわけでもない。突出した才能もなく、どちらかといえば平凡な存在。だが彼女たちは浩太のことが好きだという。

出会った初日、もしくは翌日の告白。違和感、どうもしっくりこない。



「まぁ、しばらくすれば俺のことなんか忘れるだろ」



美少女たちの単なる気まぐれ。

そう思うことにしてベッドに寝そべり、浩太は瞼を閉じた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



絹代の告白騒ぎがあった次の日、遊戯部の部室にはいつものメンバーが集まっていた。しかし2日前に入部した沢村浩太の姿はそこにはない。

神子が無理矢理聞き出した浩太の携帯のメールアドレスに「本日の部活は中止!」と送信したため、彼は帰宅したはずだ。


「さて、沢村浩太についてだが」

一番奥の窓際に座っていた神子の声で、彩は意識をそちらに向けた。


「あの様子だと、まだ誰にも惚れていないようだな……審判としてどう思う、犬?」


犬、という言葉に一瞬反応したものの、否定したところで無駄だと分かっているのか三原はその部分に触れなかった。


「そうだな……、突然3人から告白されて戸惑ってるって感じか。他の男なら喜びそうな状況だけどな」

「手強いよねー、あたしチューまでしたのにー」

ぷぅっと頬を膨らませる小桃に、絹代が頷く。

「『この人です』だけではだめでしたね。もっと好きだと言った方が良かったのでしょうか?」

部屋にいる全員が口をつぐむ。それぞれ何か考えているようだ。



そもそも、恋とはそんなに簡単なものなのだろうか。

神子がこのゲームを提案したときから、彩の中では言葉にできない想いがぐるぐると渦を巻いている。

沢村浩太が自分のことをゲームの駒だと知らぬまま誰か1人を好きになったら?もしくは彼女たちが沢村浩太に惚れてしまったら?

ただの遊びごとの恋に真剣になって、友人たちに傷ついてほしくなかった。


神子を絶対とする彩は、彼女に反対することができない。

やんわりと注意することもあるが、本気で神子の意思を止めようとしたことはなかった。


「あの、神子様」


気がつくと、口が勝手に動いていた。そのことに自分でも驚きながら、真っ直ぐ彼女の瞳を見つめる。


「ん、どうした?」


「……もし、沢村が部員の誰かを好きになったらどうなさいますか?」


「決まってるだろ、惚れさせた者が勝ち。『部員全員に何でも一週間命令できる権利』を与える」


違う。そんな答えを求めてはいなかった。

神子に質問の意図が伝わらないことがひどくもどかしい。


「……そうではなく、彼が好きになったのが神子様だったら、神子様はどうなさるのですか?」


彼女は悩まなかった。そんな聞くまでもないことを聞いてどうする?と言いたげな様相ではっきりと言葉にする。




「浩太が私に告白してきたら、断るだろうな」




好きでもない奴と付き合えるか、と続けて、神子は2人の少女とどうやって浩太を惚れさせるか話し合いを始めた。







場合によっては幸せな結末が待っているかもしれない。

浩太が小桃か絹代のどちらかを好きになって、彼女たちのどちらかも彼のことを好きになれば何の問題もないのだ。

しかし片想いなら、『ゲーム』という辛い現実しか残らないだろう。


……神子はどちらもだめだ。

片想いも、両想いも。きっと逆らえない大きな存在に邪魔されてしまう。




どうか、誰も恋なんかしないで。


神子の始めた恋愛ゲームの行方は決められないと理解していたが、それでも彩は願わずにはいられなかった。

次からは第二章「遊戯部の日常」が始まる予定ですが…


予定は未定…良い言葉ですね。

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