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恋愛ゲーム  作者: 七度
遊戯部との出会い
8/23

07話「ハーレムだぞ」

「……そうですか」


誰も動こうとしないその空間で、最初に言葉を発したのはあの男子生徒だった。

諦めたように俯き、後頭部に押し付けられた黒光りする凶器からそっと離れる。その動きに気がついた彩が拳銃を下ろした。

「その、自分の事ばかりで……真島さんの話を聞こうとしないで、ごめんなさい。……どうぞお幸せに」

それだけ言って少年は駆け出す。彼が横を通り過ぎた時に、目が涙で光っているのが浩太には見えた。


本当に絹代のことが好きだったのだろう。

告白する姿は真剣で、自分の気持ちを伝えようと必死だった。

だが――……


「絹代、本気か?」


困惑、そんな感情を顔に張り付けて、神子は立ち尽くしている。

小桃と三原も同じような表情をしていた。


「いえ、わたしは遊戯部ですから」

ふんわりと髪を揺らしながら絹代は笑う。意味が理解できないでいる部活メンバーに、彼女は更に言葉を続けた。

「神子さんのゲームなら、全て参加します」


浩太にはさっぱり分からなかったが、神子たちはそれで何かを悟ったようだ。「そうか、じゃあ絹代もライバルだな」と、途端に上機嫌になる遊戯部部長。「うわぁー、あたしも負けてられないなー」と、何故か浩太の手をしっかり握る小桃。「頑張れ、沢村」と、引きつった顔の三原。彩は相変わらずの無表情だが、北校舎裏は部員たちの騒がしい声で満たされた。




「えーと、柚木先輩?」

怖いと思いながらも彼女に話しかけると、「彩で、構いません」と言われたので「彩先輩」と、もう一度名を呼ぶ。

「その拳銃、本物ですよね?」

本当はこんなこと聞きたくなかった。しかし、法律に違反しているような行為は見逃せない。……本音は、『法律に違反している人がいる部活にはいたくない』だが。



「ああ、これですか」


空からの光を浴び漆黒の凶器は鈍く輝いていた。容易に人の命を奪えるそれはどこまでも冷たく、楽しげな生徒たちで賑わうこの学園には似合わない。



「拳銃ではありません」


「……は?」


「ただの水鉄砲です」




みずでっぽう?

予想外の物の名に、改めて彼女の手にある黒い凶器を見遣る。

浩太に真実を教えるためか、彩は腕を少しだけ持ち上げ拳銃の引き金を引いた。


ぴゅっ


透明の液体が飛び出して灰色のコンクリートを濡らす。恐怖の武器と思い込んでいた物が子供の玩具だったことに驚いたが、それよりも何故そんな物を所持しているのか疑問がわいた。


「……何でそんなもの持っているんですか?」

「神子様を護るためです」


水鉄砲で人一人護れるのか怪しいものだが、彩の言葉はどこまでも真剣だ。その話には深く立ち入るのはやめて、昨日から心の中にあったもう一つの疑問を彼女に問うことにする。


「河上先輩と彩先輩は同級生ですよね?でも護衛って……」

その先は、「河上ではなく、下の名前で呼べ!」と神子に遮られた。どうしてここの部員は名字ではなく名前で呼ばれたがるのだろうか。



「ねぇねぇー浩太くん。『ウィート』って知ってる?」


今までの話の流れを切るように、浩太の手を握っている小桃に尋ねられた。質問の意味を考えてもよく分からなかったのでとりあえず返事をする。

「えっと、小桃先輩の言ってる『ウィート』ってファミレスのことですか?」


『ウィート』は全国的に有名なファミリーレストランだ。多彩な料理と手頃な価格から年齢や性別に関係なく多くの人に人気がある。それが一体どうしたというのだろうか。


「あのねー、神子ちゃんのお父さまはね『ウィート』とか他にもいっぱい飲食店を経営してるの。まぁ要するに、神子ちゃんは『お嬢様』ってことだね」


「カワカミグループトップの娘だから、必然的に護衛がいるんだ。こう見えても彩は強いぞ」



小桃、神子からとんでもない話を聞かされ、浩太の頭はパニック状態だった。

近場の飲食店は大抵カワカミグループの系列店だ。その一番偉い人の娘がまさかこんな近くにいるなんて考えるはずもない。

(そういえば、彼女の名字は河上か……)

だが同じカワカミだということに気がついていたとしても、神子とカワカミグループを結び付けることはなかっただろう。



「浩太、私と付き合えば色々とおいしい思いができるぞ?」

「神子ちゃんそれは卑怯だよー、浩太くんはあたしを選んでくれるよね?」

「浩太さん、わたしのこと好きになってくれませんか?」


左の腕にぐいぐい胸を押しつけてくる神子(思ったより胸がでかい)、右手にするっと指を絡めてくる小桃(ちっちゃくて守りたくなるような手だ)、正面からシャツをクイッと引っ張る絹代(上目づかいが非常に可愛い)。彼女たちに体を好きにされぐらぐらと揺れる視界の中で、助けてもらおうと他の2人の姿を探す。



「いやぁ、大変そうだな」

「そうですね」


自分たちは無関係だ、という顔をして少し離れたところに立っている三原と彩を発見した。

(たっ助けてください……)

目で訴えてみても2人はまったく動こうともしない。彩は興味なさそうにこちらを見つめ、三原はぐっと親指を立てて笑顔で言い放った。




「やったな沢村。ハーレムだぞ」




その言葉には羨む響きがまったく感じられなかった。

登場人物3


柚木 彩

(ゆずき あや)


遊戯部 部員

2年生

神子の護衛 武器は水鉄砲

好きなゲームは 将棋

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