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恋愛ゲーム  作者: 七度
遊戯部との出会い
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04話「本気だよー」

朝。見慣れた廊下を歩き教室のドアを開けたところで、異様な教室の空気に絹代は足を止めた。

「あら?」

何だかおかしい。教室の真ん中を囲むように男子たちが立っていて、女子は「関係無い」という顔で友人たちと話をしている。そして部屋の中心に見知った人物を発見し、絹代は声をかけた。

「どうしたのですか?」

戸惑ったようにこちらを見やる少年は、昨日遊戯部に加わった沢村浩太だ。

「真島さん……」

口を開いた彼の言葉を遮るように、クラスメイトの男子生徒たちが騒ぎだす。


「真島さん、こいつが『遊戯部』に入ったって本当ですか!?」

「どうしてそんなことに!?」

「嘘です…嘘だと言ってください!!」


なぜ彼らはそのことを知っているのだろうか。浩太の入部は部員しか知らないはずだし、特別誰かに教えた覚えはない。浩太自身が彼らに言ったのだろうか、と考えて絹代は男子たちに目を向けた。

「浩太さんの入部は神子さんが決めたことです。不服があるのでしたら彼女に直接どうぞ」

途端に彼らは黙ってしまう。名前だけで人を静かにさせてしまうのだからやっぱり神子さんは凄い。

「放課後、部室に集合してください、とのことです」

今朝送られてきた部長からのメールの内容を浩太に伝え、絹代は自分の席についた。


少しすると予鈴が鳴り、一人また一人と着席していく。一時間目の現代文の教科書を開いて今日の内容を確認しながら、ふと動きを止めた。

(それにしても……)

神子の提案したゲームには参加するつもりだ。彼女の考えにはいつだって賛成だし、拒否しようだなんて思ったことは一度もない。しかし、

(『誘惑』ってどうやってするのかしら?)

担任が教室に到着しホームルームが始まるまで、絹代はぼんやりと教科書を見つめていた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



放課後。大和撫子のお言葉で無事に授業を終えた浩太は、北校舎の階段を上っていた。あの後、男子たちからは文句を言われることは無かったが、冷たい目でずっと見られていたような気がする。まぁ、物騒なものが飛んでくるのに比べればずっとましだ。

昨日のように特別教室の前を通り過ぎて、突き当たりの戸の前で立ち止まる。ノックしようか一瞬考えたが、無理矢理連れて来られたときや無理矢理入部届けを書かされたときのことを思い出し、少しイラっとしたので力任せに戸を引っ張った。


「あっ浩太くんだー」

机の上に広げていた本やノートをバタバタしまいながら、幼い少女が嬉しそうに名を呼ぶ。どうみても小学生にしか見えない彼女は確か東郷小桃と名乗っていた。

「…えーと、東郷先輩?」

「のぉー!!小桃でいいって言ったのに」

怒ったように頬を膨らませて足をぱたぱたと振る様子はとても愛らしい。

「小桃先輩、あの、お一人ですか?」

部室には他に人がおらず、広めのこの部屋でぽつんと椅子に座っていたのは彼女だけだった。

「えへーそうだね。二人っきりだねー」

にっこりと笑いながら、立ち上がった小桃はジリジリとこちらに近づいてくる。言い知れぬ不安を感じ、話をそらすことにした。

「きっ聞きたいことがあるんですけど」

「聞きたいこと?」

「はい、…その、遊戯部に入部してから言うことじゃないんですが」

「なぁに?」

「……『遊戯部』って何する部活なんですか?」


昨日からずっと疑問だった。今まで耳にしたことのない部活名、自由すぎる部長、少ししか部活の様子を見ていないがまともに活動しているのか謎な部員たち。何かしら目的はあるのだろうが、まったくわからない。

「うーん、遊戯部はね」

そこで言葉を区切って腕を組んでから、小桃は思い出すように視線を上に向けた。

「世界中の遊戯…つまりゲームとか遊びの、歴史、ルール、面白さなどを調べ、より深く世界の事を知ろうって部活なんだけど。えーと異文化理解?みたいな?」


意外と普通だった。

もっと変な活動内容を言われるのではないかとドキドキしていたので、内心安堵する。


「でも基本はお茶飲みながら、オセロしたり将棋したりかな。ゆるい部活だよー」

それでいいのか、と思ったが今までそれで部活が続いているのだから何の問題も無いのだろう。

入口でそのまま立っていたら「入って」と小桃に言われ、素直に従った。


戸を開けた正面には大きな窓と淡い水色のカーテン、左右の壁には様々な色のファイルがぎっしり詰まった棚が並んでいる。真ん中に木でできた大きな楕円のテーブルが置いてあり、同じ素材の6脚の椅子が周りを囲んでいた。


小桃は先程自分の座っていた席に戻り、隣の椅子をぽんぽんと叩く。どうやらここに座れということらしい。鞄をテーブルの上に置いてから腰かけると、真剣な表情で彼女は浩太を見つめた。

「神子ちゃんに告白されたんでしょ?」

何故それを知っている!?

部員の前で『愛しい人』とか恥ずかしいことを言われたが、それだけで気がついたのか。

「神子ちゃんから聞いた」

まるで心を読んだかのように答えて、膝に乗せてあった手にそっと触れられる。

「返事はどうするの?」

「まだ、…考えて…ないです」

突然告白されても神子と出会ったのは昨日が初めてだ。それに一方的に好きだと言われただけで、返事をくれとは言われていない。このままではいけないと思うので、近々断るつもりでいる。

「そっか…ねぇ、あたしはどうかな?」

どうかな、の意味が理解できないで桃子の顔を凝視すると、ふふっと笑われた。

「あたしのこと、恋愛対象として見れない?」


え?


「……あの、冗談ですよね?」

「本気だよー」

座った浩太に、ぐっと体を近づけてくる。立ちあがった彼女より着席した自分の方が高くて、ちっちゃいなーこの人、とフワフワした頭でそんなことを考えた。

(いやいや、そんな、二日連続告白されるなんて……)

無い。絶対に無い。夢をみてるんだ。


小桃の顔がゆっくりと迫る。浩太の顔がゆっくりと引きつる。

「え、あ…えぇ!?」

口から変な言葉が漏れて、体が強張った。ああ、もう逃げられないかもしれない。


そのとき、部室のドアが勢いよく開けられた。



「浩太!!」



少し怒ったように入口に立っている河上神子。

その後ろには、興味なさそうにこちらを見つめる彩と、興味津津でこちらを見つめる三原。


「あれー早かったね、神子ちゃん」


小桃は無邪気にそう言うと、浩太の頬に唇を押し当てた。

登場人物2


沢村 浩太

(さわむら こうた)


主人公 1年生

遊戯部には無理矢理入部。

神子のせいでモテモテに。

好きなゲームは 脱出ゲーム

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