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恋愛ゲーム  作者: 七度
遊戯部の日常
18/23

17話「誰だ!?」

「―――ふざけるなっ!!」


叫んだ勢いで、神子は「山田」という名字らしい青年を振り払った。力はそんなに強くないはずだが、至近距離の大声に青年は驚き、腕を離してしまったらしい。

「ええぇ!?」

驚いている隙に、一番近かった右側の通路に飛び込む。

助けを求めることができる客がいないというのは残念だが、人のいないお陰で今の神子を邪魔するものはなかった。


(とにかく走って、外にでよう)


できるだけ速く、足を動かす。

体育の成績は良い方だ。後はあの男たちの足が遅いことを願うしかない。

右に左にと曲がりながら必死で出口を探し、時々背後を確認する。自分の足音や、ガサガサと草木を服が掠る音で分かりにくいが、追ってくる様子はないようだ。


「はぁ、はぁ、……はぁ」


息が苦しい。

誰か、誰かが助けにきてくれればいいのに―――……


普段とは違う弱気な自分に、呆れてしまう。

困ったら誰かが助けてくれるなんて考えは持つべきではない。

「いつまでも、……はぁ、……頼るわけには……」


1人の少女の顔が浮かんだ。

きっと物凄く心配しているだろう。今頃皆で自分のことを探しまわっているかもしれない。

早く戻らなければ、という思いが強まる。だって今日は、楽しいデートのはずだったのだから。



「…………ん?」



少し先の曲がり角に、青いひらひらした何かが落ちている。

青いひらひらした何かは、神子が走って近寄ると急にもぞもぞと動き出し、ひゅんと、角の先に消えた。

「なっ!?」

神子も慌ててその角を曲がると、また少し先のT字路の真ん中でそれは落ちていた。

何だろうと確認する前に青い物は左の道へ移動したので、神子も左の道へ飛び込む。

「あれは……」

近くで見ていないのでハッキリとは分からないが、ハンカチではないだろうか。

いや、ハンカチだとしても勝手に動くのはおかしい。動かしている誰かがいると考えるべきだ。しかし、その時の神子に冷静な判断はできなかった。


「はぁ、……はぁ、はぁ……」


もう、限界だ。

出口を教えてくれるならどんなことだってする。そんな気持ちがあの青い物を追いかけさせたのかもしれない。

ばさっばさっと、青い物が跳ねている。

『こっちへおいで』と誘っているようだ。



「ああ、出口ならどこまでだって行ってやるよ」



停止しそうになっている足に力を込め、神子は駆けだす。

細い糸が結ばれていた青いハンカチは、それに満足したように少し揺れた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「何をやっているんだ山田!!」

「すっすみませんっす!!!!」


女性の形をした像のそばで、背の高い青年「山田」はリーゼントの男に怒られていた。

河上神子を逃がしてしまい追いかけたが、彼女の足が速かったせいで捕まえることができなかったのだ。

河上神子を逃がしてしまったことは自分のせいだ。しかし山田にも言いたいことがあった。


「で、でも…悪井先輩も、ぼーっとしてたじゃないっすか!!」

「黙れ!!」

「ヒィッ!ごめんなさい、ごめんなさい!!」


山田は急いで頭を下げた。やはりこの先輩に逆らうのは無理なのか。

自分の目に涙がじわっと広がるのを感じて、それを手で拭う。怒られて泣くなんて子どものようだと思うが、出るもんは仕方がない。文句を言うのは止めて、悪井に怒りを静めてもらうことにした。


「で、でも大丈夫っすよ。他のやつらも巨大迷路の中でウロウロしてるんっすから。絶対に河上神子は捕まりますって!」

「む、そういえばそうか」


黒い服を着た仲間たちが、監視のために動いているのだ。巨大迷路は見通しが悪くとても広かったが、そこは人数でどうにかするしかない。河上神子や悪井の居る場所に、客が近づきそうになったら阻止する。そういう手筈になっていた。

計画通りにはならなかったが、人質にするはずの少女を見つければ、捕まえるぐらいはするだろう。


悪井は腕を組んで空を見上げている。

リーゼントは今日も立派に存在していて、周りの者を威圧しているようだ。

最初の頃、この髪型に憧れてチームの中にマネをする者もいたが、それに気がついた悪井はマネをしたものを片っ端から殴っていった。彼曰く「俺以外の野郎がこの髪型をすることは許さねぇ。目立たねぇだろうが!!」だそうだ。


「あの女を捕まえて、身代金をたっぷりもらったらお前はどう使うんだ?」

「んーそうっすねぇ……」


悪井の質問に、山田は自分の欲しい物を次々と思い浮かべていく。

買い物をするのもいいが、好きなものをあれこれと考えるのも楽しかった。現実には無理なものでも、手に入った気分になるからだろうか。


「色々欲しい物はあるっす。でも一番欲しいのは……」



途中で言葉が途切れた。

目を見開いて、口をぱくぱくと動かす山田を、悪井は怪訝そうな顔で見つめている。

「どうしたんだ?おい、山田?」

その声に答える余裕は、今の山田には無かった。

全身をぶるぶる震わせ、それでも必死にあることを伝えようと、山田は悪井の背後を指差す。


「……何だよ?後ろか?」




伝えるべきか、否か。

この場にいるもう一人の人物とばっちり目が合ってしまった悪井を見て、山田は伝えたことを少しだけ後悔した。

伝えなかったとしても、結果が変わることはないだろうが。


「誰だ!?」


引きつった表情で叫んだ瞬間、悪井は地面に転がっていた。

瞬間移動ではない。

謎の人物の足払いによって、悪井は倒れたのだ。あまりにも速すぎて止める暇もなかった。


「は、はははは……」


おかしくもないのに、口からは笑い声に似た何かが漏れた。

恐怖。

目の前の人物は武器も持っていないし、はっきり言ってしまえば悪井に足払いを食らわせただけだ。それなのに、今まで感じたことのない恐怖を山田は自覚していた。



次は、自分だ。




長い金髪と、冷めた瞳の持ち主がゆっくりとこちらに向かって来て、――――山田は意識を手放した。

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