表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛ゲーム  作者: 七度
遊戯部の日常
15/23

14話「どうかしましたか?」

食事中の方は、読まないほうがいいと思います。

「それじゃあ、いただきます!」

「いただきまーす」


昼時である。

恐怖のバンジージャンプを終えた浩太は、小桃に連れられるまま、園内にあるレストランへ向かった。そこで神子たちと再会し、昼食となったわけだが。


「いやあ、おいしーねぇ!ほら、浩太くんも、エビフライ食べる?」

ニコニコ顔で小桃がフォークに突き刺さったエビフライを差し出してきた。カラッと揚がったそれはとても美味しそうなのだが、今の浩太に食欲は全くない。

「い、いらないです」

食欲どころか、エビフライから漂う油の匂いで吐きそうだ。食事中なのでそのことを口にはしない。


やはり、先程のバンジージャンプのせいだろう。

お化け屋敷もそうとうキツかったが、バンジーはそれ以上だった。


「どうした浩太、食べないのか?」

カレーライスをスプーンで口に運びながら、正面に座る神子が話しかけてきた。

「あ、すみません。食欲なくて」

「別に謝らなくてもいい。まぁ、無理はするな。午後からは私とのデートだからな」

神子はそう言って残りのカレーライスを平らげ、すっと立ち上がった。


「トイレに、行ってくる!」


そんな偉そうに言うことでもないと思う。というか本人は偉そうに言ったつもりはないのかもしれない。

続いて彩が、音もなく立ち上がる。もしかして、神子に付いて行くのだろうか。

「……彩、トイレぐらい1人で行ける」

「しかし、神子様」

「い、い、か、ら、お前は座ってろ」

肩を押して彩を無理矢理イスに戻し、神子は去って行った。

以前、神子の護衛をしていると聞いたことがあるが、トイレまで一緒に行かなければならないのか。

「彩さんは、神子さんのことを本当に大切になさっていますよね」

絹代の言葉と同じものを、浩太も前々から感じていた。常に後ろに控え、何をするにも神子が一番。柚木彩の生活は、河上神子を中心にして回っていると言ってもいい。


「私は……護衛ですから」

神子の傍にいない彩は、少し寂しそうにみえた。表情は変わらないので、何となくそう思っただけだが。


「あれ?そういえば、ワンちゃんは?」

「え、三原先輩ですか?」

横を見れば、つい先程までカキフライをバクバクと食べていた三原がいない。どこへ行ったのか、その答えは彼の正面に座っていた少女が知っていた。


「三原さんなら、青い顔をして『すまん、オっオレはもうだめだ…』と言いながら、あちらに向かわれましたよ」


絹代の指差す先には、青い男子トイレのマーク。他のメンバーはそれで彼の状況を察することができた。


「大丈夫かな…三原先輩」

思わず口からそんな言葉が漏れる。

食べていたのはカキフライ。それが原因ならとんでもないことになるはずだ。店の責任問題にまで発展するかもしれない。


「……まぁ、いいか」

しかし、あの三原である。普段の生活を見ていると、遊戯部のメンバー(主に神子)に相当酷い仕打ちを受けている。きっと彼は丈夫だから、生きているんだ。そうに違いない。


他の部員たちもそう思っているのか、すでに興味は別のことに移っていた。

「あ、店員さーん!パフェ追加でー!」

小桃はエビフライ定食を完食し、次はデザートのようだ。彩も絹代も食事を続けている。

(気分も少し落ち着いてきたし、何か注文しようか)

浩太はテーブルの上のメニューに手を伸ばした。



うららかな午後だった。

子どものはしゃいだ声や、アトラクションから流れる曲が園内に満ち、みなが思い思いの時間を楽しんでいる。

本当にうららかな午後だったのだ。



その時までは。







突然、彩が立ち上がった。その勢いに、何事かと部員たちが注目する。

「私、神子様の様子を見てきます」

一言だけ残し、彩はトイレに向かって駆け出した。食事をする場所で走るのは良いことではないが、それを今気にするものはいなかった。

「確かに、遅いよね。ワンちゃんと同じ目的でトイレに行ったんじゃないんだし」

小桃の目の前には、空になったパフェの器が置かれている。つまり、それを食べ終わるまで、時間が経ったということだ。

「わっわたしも、神子さんが心配ですし、行ってきます」

絹代が彩の走って行った先へ向かおうとした時だった。

こちらへ戻ってくる彩が見えた。しかも走っている。


浩太たちのテーブルまでやってきた彩の顔色は悪かった。眉間に皺がよっている。

「彩先輩、あの…神子先輩は?」

自分の声が硬くなるのがわかった。楽しい話ではなさそうだ。



「神子様が…いません。……どこにも」



そして、事件は起こった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あのぉ……すみません」

トイレから出て席に戻ろうとした神子に、後ろから声がかけられた。

振り返ると、分厚いレンズの眼鏡とマスクをした年老いた女性が、こちらを見つめている。


「どうかしましたか?」

年上には、敬語。これは基本だ。

自分の奔放な態度を知っている友人たちは、何故か年上に対して敬語で喋る神子を見ると、変な顔をする。


「いやぁ、実は孫が、迷子になってしまったようで…見ませんでしたか?黄色い服を着た男の子を?」

「いえ、見ていませんが」

迷子か。この広い園内で、子ども1人を探すのは一苦労だろう。

「もし、よろしければ、探すのをお手伝いしましょうか?」

「本当ですかい?助かりますわぁ」

腰の曲がった老婆は、ペコペコと何度も頭を下げた。それにしても、お年寄りというのは小さいイメージがあるが、彼女は身体が大きい。やはり、日本人の体形が昔と変わってきているというのは真実なのか。


「お孫さんが行きそうな場所に、心当たりはありませんか?」

「そうだねぇ……そう言えば、巨大迷路に行きたいって、いってたねぇ」

「……巨大迷路」


巨大迷路は、昼から浩太と共にデートへ行こうと思っている候補の一つだ。

このレストランへ来る途中に見かけて興味を持った。下見を兼ねて行ってみるのもいいかもしれない。


「では、ここで待っていてください。お孫さんを探してきますから」

「いやいや、わたしゃ、まだまだ元気だからね。孫が見つかるまでは、歩けるよ」

お年寄りをあまり歩かせない方が良いと思ったのだが、祖母にとっては孫が一番なのだろう。


「じゃあ、行きましょうか」

神子は、年老いた女性に手を差し出す。

「……ありがとう…ございます」

お礼を言って触れてきた手は、ゴツゴツしていてとても大きかった。




この時、その手を振り払って逃げてしまえばよかったと、神子は後悔することになる。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ