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恋愛ゲーム  作者: 七度
遊戯部の日常
12/23

11話「行くぞ!」

その日浩太は、学校が休みなので家でごろごろ過ごす予定だった。


朝の光を感じながらも起き上がる気になれず、ごろんと寝返りを打つ。小鳥のさえずりが窓ガラスの外から響き、特に理由も考えないで「良い朝だ」と浩太は思った。

暖かなベッド、程よい眠気。もう一度夢の世界へ旅立とうと瞼を閉じる。


しかし、突然鳴り始めた携帯電話の着信音によって、意識は現実に引き戻された。


「……もしもし?」

画面も見ないまま耳に携帯を押しつける。誰だ…休日の朝早くから何の用だ。

「おはよう浩太、遊園地に行くぞ!」

「は?」

この声は聞いたことがある。美人で、強引で、浩太のことが好きらしい遊戯部部長の声。

「遊園地……ですか」

「ああ、学校近くの遊園地、知ってるだろ?そこに30分後に集合だ」


そこまで聞いて、「あの3人とデートに行って来い」という三原の言葉を思い出す。神子は楽しそうに遊園地デートについて計画を練っていたが、とうとう現実になるのか。


「えーと、どうしても行かないとだめですか?」

「もちろんだ。…浩太、自分の弱みが書かれているファイルを屋上からばらまかれたくはないだろう?」

「……わかりました、すぐ行きます」

「ああ、待ってる」




ベッドから立ち上がり身支度をすますと、携帯電話と財布を引っ掴んで家を出た。浩太の家は学園から近い場所にある。そして神子の言っていた『遊園地』は歩けば5分で着く場所にあった。

「あ、浩太くんだー!」

『ラッキーパーク』というダサい名の赤と黄色で書かれた看板が見えた時、幼い声が自分を呼んだ。きょろきょろと周囲を見回すと、入口付近で制服姿の5人を発見する。

「よし、今から出席をとるぞ!」

そう言って神子は浩太の手を取り、絹代と三原の間に押し込んだ。

一列に並んだ遊戯部のメンバー。遊園地に来ていた親子やカップルは不思議そうな顔でこちらを見ている。恥ずかしい。その視線から逃れるように浩太は下を向いた。


「小桃先輩」

「はーい、いまーす!」

小柄な少女がピョンピョンと飛び跳ねる。


「彩」

「はい」

落ち着いた少女が短く答える。


「絹代」

「はい、神子さん」

美しい少女が微笑んで返事をする。


「浩太!」

「……はい」


「犬!」

「犬じゃねぇよ!」


三原の言葉は無視して、「うん、これで全員だな」と満足そうに神子は笑った。そして彼女は鞄から緑色の紙を何枚か取り出し部員たちに配っていく。渡された紙にはでかでかとゴシック体で『遊園地デートのしおり』と書かれていた。

「…遠足のノリかよ…」

浩太の隣で三原が呆れたように呟く。

(てか、6人でデートっておかしいよな)

そのことについて聞くべきかどうか浩太が迷っていると、本日の予定について神子の説明が始まっていた。

「まず、絹代と浩太のデートで1時間。それから小桃先輩と浩太のデートで1時間。昼食休憩1時間を挟んで、私と浩太のデートで1時間だ」

「え、全員で遊ぶんじゃないんですか?」

「デートだぞ?二人っきりでするものだろう!」


デートって1時間ごとに女の子を変えてするものではないと思う。しかもそれに少女たちが納得しているのは何故だろうか。


「3人とのデートが終わったら、ラストデートだ。浩太が一緒に過ごしたい部員を選んで観覧車に乗る。いいか、ラストデートの相手が観覧車に乗れるんだからな!お試しデートの間は観覧車に行くなよ!」

きつめの口調で念を押し、神子はこちらに顔を向けた。

「以上だ。浩太、何か質問はあるか?」

「はいっ!」

元気よく手を上げたのは、左手に緑のしおりを握りしめた三原だった。

「デート中、オレはどうすればいいんですか!?残りのメンバーとデートしていいんですか!?」

「いいわけあるかっ!黙れ犬!」

がつんっと鈍い音。神子に殴られた箇所を押さえながら三原は顔をしかめた。

「痛いです、部長」

「当然だ、痛くしたからな。…まったくお前はバカか。朝、学校に集まってした打ち合わせで、残りのメンバーは別行動だと言っただろう。覚えてないのか?」


(ああだから全員制服なのか)

学園内へ私服で登校することは許されない。もちろん部活などで休日に学園に行ったとしてもだ。浩太は2人のやり取りを眺めながら、1人だけTシャツとジーパンは浮くよなぁと考えていた。


「ワンちゃん、そんなにデートの相手がほしいのー?」

三原の腕をぽんぽん、と軽く叩いて質問したのは小桃だった。「ワンちゃんはやめてください」と言いながらも彼の目は『デートの相手』と聞いた瞬間にきらっと光る。


「はい、どーぞ」

小桃が三原に手渡したのは河童のぬいぐるみだった。プラスチック製の皿は光沢があり、周りにギザギザに切られたフェルトが縫い付けてある。その下から覗く瞳は真っ黒で、ゴマを二粒並べたような鼻と、アヒルのような口がある顔はなんとも愛嬌があった。


「あたしの友達の、らくしゅみーばーいーちゃんだよ。彼女は照れ屋でーとっても可愛いの!しっかりエスコートしてあげてね!」

「…東郷先輩、どこからつっこめばいいかわからないです」


そう言いながらも、らくしゅみーばーいーちゃんを受け取った三原。

「もう、お前とデートするしかないよなぁ」

彼は寂しそうにぬいぐるみの頭を撫でていた。



「浩太さん」

絹代に名を呼ばれ返事をしようとしたとき、手に何か温かいものが触れた。ぎゅっと握ってくるそれは白く細い彼女の手で。


「最初はわたしとのデートです。行きましょうか?」


頬をほんのりと赤く染めて、絹代は指を絡める。

遊園地に来ていた客から注目された時とはまた別の恥ずかしさを感じて、浩太は下を向いてしまった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「…どの女だ?」

様々な色で溢れる遊園地で、黒ずくめの集団が神子たちをじっと見つめていた。

その不審な集まりの中心にいた男が、もう一度声を上げる。

「おい、誰か写真とか持ってねぇのか?」

「あ、持ってるっす!」

男の左側から飛び出してきた青年は、携帯電話を開いてボタンを操作した後画面を差し出した。

「これが河上神子っすよ。紅葉学園にいるやつから写真を送ってもらったんですけど、実物の方が美人っすねー」

「ふぅん」

画面の中の少女から数人と歩いている神子へ視線を移し、男は二ヤリと笑う。

「お前ら、作戦はわかってるな?あの女が一人になった所を狙うぞ」

周りにいた何人もの男たちが心得たように頷く。そのとき、傍を通りかかった少年が集団の真ん中にいる男を指差してこう言った。



「おにいちゃん、へんなあたまー」



「こっこらっ!そんなこと言っちゃあいけないっす!」

青年が青ざめて叫び、無言で動かない人物にそっと顔を向ける。青年以外のメンバーも指差された男を窺っていた。

「おい、ガキ」

静かな声が全員の耳に届く。きょとんとした表情で少年は声の主を見上げていた。

「これのどこが変な頭に見えんだよ?」

一歩、一歩、少年に近づきながら、男の頭上のそれは太陽の光を浴びて輝き、存在を主張している。

「古くから愛され、純真な男たちのハートをがっちり掴んできたそんな髪型。いいか、これはな…」

すっと息を吸い込み、少年の耳元で至高の髪型の名を男は囁く。



「リーゼントって言うんだよ」


登場人物5


真島 絹代

(まじま きぬよ)


遊戯部 部員

1年生

男子たちの憧れ 大和撫子

好きなゲームは トランプを使ってのゲーム(ポーカー、ブラックジャックなど)


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