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一人百物語 2

ぎっしり

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/20


私の父の同僚の牟田さんが昔、観光バスの運転手をしていた頃の話。

ある年の夏。

観光旅行の業務でその日宿泊する旅館に着くと、牟田さんともう一人の同僚は自分たちの部屋に案内された。

その部屋は宿泊客用に使われている部屋ではない、旅館母屋の端っこの、六畳程の小さな部屋だった。

が、運転手や添乗員がその様な部屋をあてがわれるのはいつもの事で、牟田さんたちは気にもせず食事と風呂を済ませると早々と寝てしまった。

深夜。

何時頃かはわからないが、牟田さんはふと目を覚ました。

何やら人の声がしていた。

それも、何人かの人間が口々に話している様なザワザワとした声が。

(?)

まだお客が宴会でもしてるのかな、と思った。

そして隣を見れば、そこに寝ていたはずの同僚の姿が無かった。

それも布団ごと。

「どこ行ったんだ?あいつ?」

まだ半分寝ぼけている頭で牟田さんはつぶやいた。

ざわめく声はまだ続いていた。

それは自分の部屋の押し入れの方から聞こえてきていた。

「……」

牟田さんは押し入れを開けた。

暗い押し入れの中には。

衣服を着ていない、真っ白な肌をした沢山の人たちがぎっしりと詰まっていた。

それらは牟田さんを見ると目をむいた必死の形相で口々に騒ぎたて、それぞれの腕をのばして牟田さんを掴もうとしてきた。

牟田さんはその場で気を失った。

翌朝、牟田さんは押し入れの前で倒れているところを同僚に起こされた。

同僚は呑気にも牟田さんに

「暑いからって布団からはみ出してあんなところで寝て。寝相悪いんだな」

などと言った。

それに牟田さんは押し入れの中に見たものを話し、お前こそどこに行ってたんだ、と言うと。

同僚もどこかから聞こえてくる声に目を覚まし、うるさかったので布団を廊下に持ち出して廊下で寝た、と言った。

押し入れは開いたままになっていた。

もちろん中には布団しか入っていなかった。


後日会社で他の同僚にもその旅館の部屋の事を聞いたが、何かのいわく等があるのかはわからなかった。

それから牟田さんは路線バス運転手に転職し、後の事は知らないという。



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