1話
「どこに行った」
「南地区、空間魔術で捜索中。現状、見つかっていません」
「魔力を隠匿している可能性がある。目視で探せ」
……だいぶ近くまで探されているな。早く離れなければ。
「グッ、……いてぇな」
赤い血で染まった腹部を押さえながら、水たまりを蹴って路地裏に逃げ込む。
「どこに行こうとしているんだい?」
心臓が跳ねた。
声を聞いただけでわかる。
「……お久しぶりですね、セラフィナ捜査官」
引き攣った笑みを浮かべながら、土砂降りの先に立つ白髪の女を睨む。
「久しぶりだね。この前君と戦った時以来だ。まさか、あれで逃げられるとは」
「運が良かっただけですよ」
「そう謙遜するな。君は強い」
逃げ切れるか? いや、今の負傷と魔力残量では、彼女から逃げるのは不可能だろうな。
「……本題に入りましょう。見逃してはくれないですよね?」
「無理だね」
即答かよ。
「君のような強者を逃がしたりはできないかな。おとなしく死んでくれ」
そう言いながら、彼女は美しい笑顔で杖をこちらに向ける。
「あの時は無傷で引き分け。だが、それを盗む時に十人の手練れを相手にした今の君じゃ……私の相手は務まらない」
あぁ……やるしかない。生きるために。
杖を握りしめた瞬間、彼女の魔力が膨れ上がる。
「おとなしく、消えてくれ」
『雷系統第七階位――収束する雷』
刹那、路地裏が閃光に塗りつぶされる。
『空間系統第六階位――空間の反転』
空間の座標を入れ替える魔術を咄嗟に発動し、数センチの差で回避する。
「あっぶねぇな! 街中でぶっ放す規模の魔術じゃないだろ」
魔力も節約したいが、出し惜しみしていたら殺される。
「考え事かい? 隙だらけだよ」
背後。いつの間に――!?
『氷系統第九階位――万物を凍らせる氷』
発動された瞬間、自分の右腕が勢いよく凍ってゆく。
まずい、これ以上広がるのは致命的だ。
そう判断した瞬間に、術式を展開した。
『斬撃系統第六階位――見えぬ斬撃』
――ズバッ!
その音と共に、凍りついた右腕が宙を舞う。血が勢いよく噴き出した。
「すごいね、君は」
セラフィナが感心したように、そして美しい笑顔で囁いた。
「……ざっけんな、クソ痛いんだよッ!」
魔力が残り少ない。長くは戦えない。 どうする? 片腕を失い、腹にも重傷。相手は逃がしてくれない。
……あぁ、一つだけあるじゃねぇか。
だが、やっていいのか?
いや、やるしかねぇ。
覚悟を決め、古い義手を亜空間から取り出す。
「なぜ盗んだものを……。まさか!」
「そのまさかだッ!」
義手に魔力を流し込む。次の瞬間、義手が無くなった右腕の断面に強引に吸着した。 神経が焼き切れるような激痛が走る。
『――Hello, "New Master".』
頭の中に直接響く声。
『お困りのことはございませんか?』
喋った? いや、そんなことはどうでもいい。 「この場から離脱する方法を教えろ!」
頼れるものは何でも頼ってやる。
『魔力残量計算中……完了。『空間系統第六階位ーー|空間の反転(スペース・ウムケーア』を推奨します。演算は私が行います。術式を展開してください』
セラフィナがさらなる魔術を練り上げてゆく。 『来ます。展開を!』
あぁ、くそ。どうにでもなれ!
『空間系統第六階位――空間の反転』
『雷系統第九階位――神の……』
彼女の声が聞こえた瞬間、俺はどこか遠くへ飛ばされた。




