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この気持ちが報われなくても  作者:
日常

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いつものバイト先


「いらっしゃいませ」


 ハスキーな声で浮かべる笑顔は、隣の私とは似ても似つかない。

 ここはよくあるチェーン店のファミリーレストランだ。店長以外はほぼバイトでまわしている。

 男性は裏方で料理を盛り付ける仕事のが多いが、彼は間違いなくホール向きだろう。

 今日も同年代の女の子たちの視線が耐えない。

「今日はかっこいい店員さんいたよ~」

「この前会えなかったもんね」

 少し猫っ毛の薄茶色の髪に、すらりとした体躯と滑らかな肌、茶目っけのある笑顔は老若男女に好かれそうな顔立ちをしている。

 彼目当てにやってきているお客さんは多い。

 同年代の女子たちの浮わついた声が聞こえているのかいないのか、澄ました顔で帰ってきた。

「そろそろ混みそうだな」

 小声で話しかけてくる彼の名前は遠野朝日。

 同じ学校の同学年だ。とはいえクラスも違うし、このバイトで一緒にならなかったらきっと会話もしなかったと思うけど。

「雪野、今の客オーダーとってきてくんない?」

「なんでよ。あなた目当てのお客さんでしょ」

「この前連絡先渡されたけど連絡してないし、なんか言われるの面倒じゃん」

「お得意の笑顔で売り上げに貢献してきたら?」

 なんとも冷たい返答になってしまった。どうして私はこう可愛げがないのか。

「いいじゃん!お願い!」

 そしてどうしてこっちは男の癖にこんなに可愛げがあるのか。この顔にお願いされて断れたためしがないのを、本人は気付いてやっているんだろうか。

「仕方ないわね」

 女子たちの残念そうな顔が目に浮かぶけど、仕方ない。これも仕事だ。

「その代わり変なクレーマーは遠野君が担当だからね」

「わかってるって」

 ニッと嬉しそうに笑う彼の表情とは裏腹に、自分の表情が無になるのがわかった。こんな顔されたら仕方ないじゃない。別にこの顔に弱い訳じゃないから。


ピンポーン


 呼び出しベルが鳴ると、彼は笑って手をヒラヒラさせ裏に引っ込んだ。後は任せた、といった様子か。

「ご注文お決まりでしょうか」

「あ!えーと、その…」

 片方の女子高生が何か言いたげに口ごもる。

「ポテトと、ドリンクバー2つで」

 少し悩んだ様子で、それでも注文を口にした。

「かしこまりました」

 彼と話したかったんだろうな。明らかにガッカリした表情ではあったけど、さすがに口には出さなかった。

(良い子そうだな……)

 赤らんだ顔を期待でいっぱいにして、彼を見つけると目で追っている。オーダーを伝えて近くのテーブルを片付けていると聞くとはなしに彼女たちの会話が耳に入った。

「忙しそうだね」

「うん、でも今日はちょっと顔見れただけでもいいかも」

「可愛い~」

「やめてよ。ってかやっぱり迷惑だったかな…」

「そんなことないよ!勇気だしたじゃん」

 キラキラしてる。

 恋する女の子の可愛さだろうか。うちの学校の制服じゃないから、本当にバイト先で顔を見ることくらいしか出来ないだろうな。同じ学校の私だって校内で話すことなんてほとんどないのに。この子は彼に恋して少しでも顔を覚えて貰いたくて何度も通って話しかけて、勇気を出して連絡先を渡したのだろう。女の私だって可愛いと思うわよ。

(オーダーくらい取りに来て上げたら良いじゃない。罪な男ね)

 さっと片付けて料理を運ぶ。

 恋する女の子は今まさに世界の中心で、私はその子の背景だ。

 キラキラした世界とは無縁のモブ。

 ハズレのほうの店員さん。

 脇役は脇役らしく真面目に働きましょう。


   ◇◇◇


「いや~、今日も疲れたな」

 定時のタイムカードを切ると、ぐぃっと背伸びをして遠野君が言った。

 常に定時で上がる彼とは違い、いつもなら私はもう少し働いていくけれどもうすぐテストだ。今日は同じ時間に上がる。

「遠野君が避けた子達、結構真面目そうだったじゃない?ちょっと話くらいしてあげたら良いのに」

 仕事終わりの休憩室は丁度2人だけだった。

「いや、真面目そうだからじゃん。その気もないのに気を持たせるような事したくないし、でもお客さんだから愛想よくしなきゃいけないし、そう言うのが…何て言うか…」 

「モテる男の悩みってやつ?腹立つわね」

「お前、言い方…」

 ぺしょん、と眉を下げた遠野君が口を尖らせた。

「……誰にモテたって、好きなやつにモテなきゃ意味ねぇだろ」

 私じゃなかったら誤解するような発言だな。

 残念ながら私は彼の好きな人を知っているか。と言うか、多分彼の周囲のほとんどの人が知っている。

 遠野朝日にはお付き合い秒読みの幼馴染みがいることを。




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