第五話 本領発揮
その日の補修クラスは、異様な空気に包まれていた。
理由は簡単だ。
俺が“うっかり”ポチを吹き飛ばしたからである。
「……なあ増男」
シュンが、さっきからやけに距離を取りながら話しかけてくる。
「お前さ、今までそんな危ない能力隠してたの?」
「隠してねぇよ! 俺も今知ったんだよ!」
ポチは腹をさすりながら言った。
「でもさ、確かにあれ……攻撃だったよね?」
「不本意にな」
ゴンはというと、壁に寄りかかりながらニヤついている。
そこへ、鬼教官が近づいてきた
「反動増男」
「はい」
「今の現象、再現できるか」
「……たぶん」
教官は無言で、訓練用のマーカーを床に置いた。
「ここから、あそこに向けてやってみろ」
距離は五メートルほど。
普通に走った方が早い。
全員の視線が集まる。
(後ろ向きに……力を出す)
俺は深呼吸して、背中をマーカーに向けた。
そして、軽く――本当に軽く、拳を振る。
――ドン。
「うわっ!」
体が後ろ向きに吹っ飛び、1メートルほど進む。
さっきまでと、明らかに違う。
「おお……」
ポチが目を丸くする。
「増男、そんなんじゃなかったろ」
「たぶん……出力、めちゃくちゃ抑えてる」
もう一度。
――ドン。
今度は四メートル。
三度目。
――ドン!
「ちょ、速っ!」
止まりきれず、壁に肩をぶつけた。
「イッテ!」
でも――骨は折れてない。
教官が腕を組んだ。
「反動を“移動”に変換している」
「……はい」
「通常の殴打では、自分が吹き飛ぶ。
だが、後ろ向きなら推進になる」
シュンが首を傾げる。
「なんで今までそうならなかったんだ?」
「簡単だ」と教官。
「誰も、“後ろ向きに戦う”発想をしないからだ」
……確かに。
俺はずっと、“前に殴れない能力”だと思ってた。
前しか見てなかった。
教官が続ける。
「まだ制御は甘い。
使い続ければ身体は壊れる」
「……はい」
「だが」
一瞬、教官の口元が緩んだ。
「補修クラスにしては、面白い能力だ」
その一言で、胸の奥が少しだけ熱くなった。
落ちこぼれ。
雑魚能力。
自滅系。
そう言われ続けてきた力に、
初めて“評価”がついた気がした。
俺は、後ろ向きのまま立つ。
「……もう一回、やっていいですか」
「許可する」
――ドン。
今度は、ちゃんと止まれた。
少しずつでいい。
前を向いて殴れなくても。
俺は、後ろ向きのまま進める。




