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三題噺もどき4

息抜き

作者: 狐彪
掲載日:2025/12/23

三題噺もどき―ななひゃくきゅうじゅうろく。

 




 今日は静かな夜だ。

 昨日の風が嘘のように吹き止み、夜空には細い三日月が浮かんでいる。

 雲も晴れているのか、星々が綺麗に見えて、これまた見事だ。

「……」

 開けた窓から、冷たい風が入ってくる。

 ちょっと空気の入れ替えでもと思ったけれど、もうそろそろ閉めてしまおうか。

 ―そう思いながら、いくらか時間が経っていた。

 暖房がついていたはずの部屋は、もう既に冷え切っている。夜空が晴れていようが、風が吹いていなかろうが、寒いことに変わりはない。

 季節は、冬だ。当たり前のことだな。

「……」

 寝室の、ベッドの上に座っていた。

 ベッドメイキングもされずに、私の抜け殻のような毛布の塊があるその上に。足元だけ、いつの間にか布団の中に突っ込んでいた。寒いからな。

「……」

 仕事がひと段落して、まだ休憩の時間にはかなり余裕があって。

 気にせずリビングに行ってしまってよかったのだけど、それもなんだかなぁと思って。私は、この部屋にアイツが呼びに来るのが結構好きなので。

 それに今日は、また散歩に出たりしたから……久しぶりだとさすがに疲れる。

「……、」

 もちろん、アイツ―家の従者も連れて行った。

 本人は初めは渋ったが……その割には準備も万端だったし、いつの間にかブーツを自分の分まで引っ張り出していた。昨日の買い物のときは、スニーカーを履いていたのに。

 まぁ、そういうフリをしただけだろう。人には言うが、アイツもアイツで意地っ張りだ。

「……」

 なんだか、あんなに外に出られずにいたのが嘘のように、足が動いた。

 あぁ、もちろん、アレの手紙にあった公園には行っていない。そこにいる遊具たちには申し訳ないが、まだそれは……まぁ、そのうち。だ。

「……」

 ただその辺を、ぶらぶら歩いただけ。

 それもそれで、いつも通りの散歩なのだけど。

 ほんの少し外に出なかっただけで、こんなに景色が変わるものかと思ってしまった。

「……」

 まぁ、隣にアイツが居たのもあるだろうけど。

「……」

 庭に咲く花が変わっていた。

 外に居たはずの犬が家の中に居た。

 毎夜電気がついていた部屋が今日は真っ暗だった。

 眩しいほどに光っていた街灯が、チカチカと点滅していた。

 月は変わらずそこに居て、星は変わらず輝いていたけれど。

「……」

 なんだか、もったいないことをしていたような気分になる。

 アレのせいで……アレごときのせいで外に出られなかったと言うのが、今更になって後悔を呼び起こす。あの頃の私を引っ張り出すことは出来ないが、せめてもう少し早く外に出ていればよかったなんて思ってしまう。

「……」

 そんなことを言ったところでもう遅いのだけど。

 それもこれも。もう終わりそうだから気にすることでもない。

 案外外に出てしまえば、何も起きないし、いつも通りの、今まで通りの静かな散歩ができることが分かった。

 ……公園に行くのもさっさと済ませてしまおうかな。これ以上長引かせるのも彼らに申し訳ない。あの犬もいるし。

「……ご主人」

 なんてまぁ、外を眺めながらぼうっとしていたら、声がかかった。

 振り向けば、部屋の戸を開き、外の廊下の光を背に受けながら立っている姿があった。

 腰に巻くタイプの……あのカフェの店員スタイルみたいなエプロンをしていて、あれだとまるでスカートを履いているように見える。端にキャンデイのアップリケみたいのがついていて、これまた可愛い。いつまでたっても、こいつのエプロンのセンスは分からない。

「……なにしてるんですか」

「……ちょっと休憩」

 まぁ、それはそうだ。

 既に部屋は冷蔵庫の中みたいに冷え切っていた。

 そんな中で、いつもいるはずの机ではなく、ベッドの上に座って外を眺めていたのだ。

 何をしているんだとしか思えないだろう。

「……休憩にしますよ」

「ん……」

 つい先ほどまでの時間は休憩じゃないのかというのは、まぁ。

 ちょっと、ぼうっとしていただけだ。

 休憩は、今から。





「……明日も散歩に行くんですか」

「あぁ、うん。公園に」

「……分かりました」











 お題:キャンデイ・スカート・ブーツ

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