表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交界記 ―二つの世界の物語―  作者: なぎゃなぎ
第三章~失望と幻滅の先にあるもの~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/194

89話 ~食糧支援~

挿絵(By みてみん)

一度降り出した雨は止むことを知らず、次第に勢いを増していった。

濡れた外を憂鬱そうに見つめる一行の中で、ただ1人、優人だけはその雨に感謝していた。


エナはようやく落ち着きを取り戻し、ガルーダのアジトの洞窟内で温かいお茶を口にしている。

周囲にはガルーダの部下たち。その数、およそ100人。

大半は、エアルの処刑に憤って騎士を捨てた元・上級騎士たちだった。

これほどの援軍が加わったことに、クラインもエナも胸を撫で下ろす。


先ほどのエナの暴走と、それを受け止めた優人の立ち回りを見たガルーダは、

「エアル団長の気持ちを汲んでくれたことに感謝する」と言って、

この作戦に全面的な協力を約束してくれたのだ。


この洞窟からなら砦の中が一望できる。

優人は、ここから大砲を撃ち込むことが可能だと判断していた。


「なぁ、ガルーダ。この位置からなら砦に大砲を撃ち込めるか?」

わかり切ったことだが、優人はあえて直接ガルーダの口から聞きたくて尋ねる。


「ああ、できるが……砦に大砲を撃つとは、どういうつもりだ?」

訝しむガルーダに、優人は指をさした。


「鉄の弾や炸裂弾じゃなく、これだ。プラムを詰めてくれ。」


「プラム……?」

ガルーダはその果物を見て、一拍置き、すぐに察したように笑った。


「なるほど。食糧支援か。面白い発想だ。」


「だが、大砲の音でこの場所がスールムにばれないか?」

クラインが慎重に異を唱える。


「大丈夫だ。この雨だ。音は雨音にかき消される。しかも今は皆テントにこもっている。気づかれにくい。」


「なるほど……だから雨を見て嬉しそうにしていたのですね?」


「ああ。……それだけじゃないけどな。」

意味深に返しながら、優人はプラムを布で束ね、木枠に詰め釘で固定していく。

すぐにガルーダや山賊たちも加わり、作業は進んだ。


準備が整うと、大砲が火を噴く。


ドォン――!


プラムを詰めた砲弾は、見事に砦の内部へと届く。

続けて山賊たちが双眼鏡で中を監視した。


「負傷者なし。……プラムの周りに人だかりができています!」

「おう。」ガルーダが短く返す。


「おい、女と……子どももいるぞ!」

その報告に、誰よりも早く反応したのは優人だった。


「双眼鏡を貸せ。」


息を呑みながら覗き込む。――そこにいた。


「……綾菜だ。」


人垣の中に、不釣り合いな2人の女性と、2人の子ども。

一人は司祭の格好。そしてもう一人は、見間違えるはずがない顔。


2か月と少し――天上界に来てからまだそれだけしか経っていない。

あまりに多くのことがありすぎて、もっと長い時間が経った気がする。

まさか、こんなに早く再会することになるとは。


プラムを手に取った綾菜は、周囲の騎士たちが警戒する中、迷いなくかぶりつき、笑って見せる。

そしてもう一つを手に取り、子どもに渡し、次には騎士に投げていた。


「……馬鹿野郎。」

優人は双眼鏡越しに、懐かしいその顔を見つめてつぶやく。


空腹で、辛いはずなのに。

笑って、みんなを気遣って――地上界にいたときと何も変わらない。

湿っぽい雰囲気が嫌いで、いつだって明るく振る舞っていた。


―10年前に死別した婚約者を、ずっと待っているくせに。


あのメイドの言葉が頭をよぎる。

優人は視線を落とし、唇を噛んだ。


「……待ってるなら、安全な場所で大人しくしてろよ。馬鹿あや……。」


そして小さく、決意のように呟く。


「もうすぐ助けに行くから。……あと少しだけ待ってろ。」


力強く双眼鏡を置いた優人は、振り返り、ガルーダたちに声を放った。


「これから戦闘準備に入る。……もう一度、俺の口から頼む。みんな――力を貸してくれ!!」


その声に、洞窟中から大きな歓声が沸き起こる。


ガルーダ山賊団は、国を愛しながらも背を向けざるを得なかった者たち。

心の奥底には、まだ国を守りたいという誇りが残っていた。


――迷いはもう、ない。


「で、優人よ。どう攻める? 敵は8,000。砦に800。ここに100。900人しかいない。」



「それを踏まえての作戦だ。聞いてくれ。」

優人の声は低く、しかし熱かった。


「まず、絵里、クライン、エナを含む全員で、この丘の上にある湖にダムを作ってほしい。」


「ダム? この雨の中に? それって危なくない?」

絵里がすぐに眉をひそめる。


「風水魔法で水の流れを一時的に止めて、その間に木を組めばなんとかなるはずだ。」

優人は迷いなく答える。


「簡単に言うけど、湖の河口を塞ぐなんて相当な魔力がいるのよ? 私1人じゃ無理だからね?」

絵里が不満を漏らすと、クラインが静かに前に出た。


「では、私が協力します。湖程度なら、私の力でもせき止められます。」


驚いて目を見張る絵里に、クラインが苦笑いを浮かべる。

「……私、一応は五英雄の一人で、風水魔法だけで宮廷魔術師を務めているんですけどね。」


そのやり取りに、ガルーダが鼻で笑い、優人へ視線を戻す。

「ダムを作って、どうするつもりだ?」


「ダムで川を止めれば流れが弱まる。

そこを利用して、ガルーダ山賊団に川を渡って奇襲をかけてもらう。

敵は大橋以外からの襲撃なんて想定していないだろう?」


「なるほど……普通なら橋以外は考えないな。だが、それで8,000をどうにかできるのか?」


「いや、目的は殲滅じゃない。まずは救出だ。

夜明け前、俺が橋から単独で潜入し、暗殺と情報操作で混乱を起こす。

その隙にガルーダ山賊団は川を渡って砦に合流、騎士たちを川から撤退させる。

撤退が終わったらダムを壊し、渡ってくるスールム兵を一気に濁流で押し流す。」


ガルーダの目が鋭くなる。

「……なるほどな。この大雨だ。 

水量は膨れ上がり、この丘全体が水に沈む。

しかし、それでも8,000人殲滅には届かんだろう… 本当に何を考えてやがる?」


「ああ……察しがいいな、ガルーダ。」

優人の目が細められる。


「……おい。まさかお前――」


「そうだ。撤退したあとスールム兵は大橋から村を狙ってくるかもしれない。

だから俺は、殲最後の保険として、ここで全てを終わらせる。」


「バカな! そんな作戦を騎士が許すはずがない! 

そのやり方は、騎士の誇りを根底から否定するものだぞ!!」

ガルーダの声が低く震える。


「ちょっとちょっと!」

険悪な空気に、絵里が慌てて割って入る。

「なんでダム作りがそんな大ごとになるのよ?」


絵里の問いに、ガルーダはしばらく黙り込む。


優人が代わりに口を開いた。

「……スールム兵を全滅させる最終段階の仕掛けは、まだ言えない。

だがその後、俺が責任を持ってフォローする。

最終的にはジールド・ルーンの国力も上がるし、ガルーダたちも悪いようにはしない。

今は……信じてくれとしか言えない。」


「この作戦は、砦の救出さえ成功すればそれで勝ちだ。

最悪の場合でも、俺たちごとスールム兵を押し流せる。――殲滅は確定している。」


ガルーダは唇を噛みしめながら、それを聞いていた。


「……ふん。分かった。お前の作戦に乗ってやる。交渉は砦の責任者アレスと直接やれ。」


「助かる。」

優人の瞳には迷いがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ