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交界記 ―二つの世界の物語―  作者: なぎゃなぎ
第二章~大国の宮廷魔術師~

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72話~砦攻略戦~

挿絵(By みてみん)

行軍開始から5日目。

山道を進んでいた一行だったが、突如行軍が止まった。

伝令兵の報告と、会議で聞かされていた情報が食い違っているらしい。


綾菜とシリアはシノとミルフィーユを馬車に残し、先頭列へ向かう。

そこではすでにヨシュアや総大将クルトたちが険しい顔で議論していた。


――スールム兵は、3000のはずが500しか見当たらない。


疑念と不安が飛び交う中、最終的にクルトは前進を決断。

綾菜は胸に引っかかる予感を覚えながらも、その決断に従った。


やがて一行は川に出る。

馬車が1台通れるほどの石橋を渡った先、広場には無数のテントと兵影が広がっていた。


「この橋を渡った先が――」

クルトの言葉を最後まで聞かず、綾菜は駆け出していた。


「おいっ!?」

ヨシュアとシリアが慌てて追い、その後ろにクルトも続く。


「コール・サンダー!」


綾菜の左手に魔法陣が浮かび、雷球が生まれる。

そのまま雷を溜め込み、次の呪文を紡いだ。


「バクーム!」


轟音とともに爆風が前方へ走り、雷球を巻き込む。

さらに綾菜は両手を構え、融合の詠唱を叫んだ。


「融合魔法――サンダーライン!」


爆風に乗った雷球が破裂し、無数の雷撃となって広範囲を薙ぎ払う。


ピシャッ――!


白光が一瞬で戦場を覆い、スールム兵が次々と黒焦げになって倒れた。

直撃を免れた者も全身を痺れに支配され、膝をつく。


本来、誰も扱おうとしなかった雷。

威力は絶大だが、軌道が予測できないからだ。


だが綾菜は地上界の知識を応用していた。

雷は真空を通る――。


バクームで空気を弾き、狙う方向に真空の道を作ることで、雷を操ることに成功したのである。


自然現象最強の力を自在に振るう、綾菜の奥の手。

戦場に立つ誰もが、その光景に息を呑んでいた。


「な……なんだ、今の……」

ヨシュアだけでなく、騎士たち全員が目を見開き、呆然としていた。


「何してるの!? 百人くらい黒焦げにしたけど、まだ残ってるでしょ!

今なら痺れて動けないんだから、一気に攻め込んで!」


綾菜の怒声に、騎士たちはハッと我に返り、一斉に進軍を開始した。


「聖騎士は100人で先頭! 敵兵を討ち漏らすな!

上級騎士・下級騎士は馬車を護衛! 馬車は砦の門まで一気に走れ!」


クルトの指示が瞬く間に全軍へと伝わり、整然とした動きが広がる。

訓練を積み上げた騎士団は、声を上げながら見事な統率で前進した。


痺れた敵兵は、次々と聖騎士に斬り伏せられていく。

残存兵はおよそ100。だが300の精鋭騎士に電撃の奇襲を受け、抗う術はなかった。


追いすがろうとしたスールム兵を前に、クルトが叫ぶ。


「開門! 増援部隊を入れろ! 聖騎士は外で待機し、追撃してくる敵を迎え撃て!」


聖騎士たちは即座に砦の門前へ散開し、円陣を組んで防衛線を敷く。


――動きが整いすぎて、逆に不気味なくらい。


綾菜は思わず心の中でつぶやいた。

指示一つで100人の騎士が迷わず陣形を完成させる光景に、背筋が寒くなる。


確かに統率は圧巻だ。だが同時に、個性を殺された人間たちの弱さも垣間見える。

緊急時に自分の判断ができず、ただ命令を待つだけになるのではないか――。


地上界で見てきた、火事の最中に会議を始めようとした工場長の顔が脳裏をよぎる。

あの時は優人が怒鳴らなければ、命すら失われていたはずだ。


綾菜は聖騎士の強みと同時に、最大の弱点も見た気がした。


やがて砦の門が閉じられる頃には、スールム兵残党100はすでに殲滅されていた。


――砦突破戦の結果。

聖騎士側の負傷30名。

スールム兵の死者、500。


圧倒的勝利で幕を下ろした。


* * *


砦の中は、想像以上に悲惨な有様だった。

騎士たちは鎧を脱ぎ捨て、洋服姿のまま道端に座り込み、あるいは横たわり、うつむいている。

援軍を歓迎する声どころか、反応すら返せないほどに衰弱しきっていた。


「おーい! アレス! 飯を持ってきたぞ!」

砦に入るなり、クルトが大声で仲間の名を呼ぶ。


クルトがアレスを探して砦の奥へ歩いていく間、綾菜たちはぐったりとした騎士たちに水や食料を配って回った。


「お前たち……すまん!!」

不意に、一人の聖騎士がクルトの前で膝をつき、土下座をした。


「ど、どうしたアレス?」

驚いたクルトが問いかける。


「これは罠だ……もう砦からは脱出できない。」

アレスと呼ばれた男は頭を地にこすりつけ、不吉な言葉を告げた。


「敵は殲滅した。心配するな。」

クルトは戦果を報告するが、アレスは首を振り、物見塔へと案内する。


「……!?」

塔の上から砦の周囲を見渡した瞬間、一同に衝撃が走った。

3000人と聞かされていた敵兵は、遥かに上回っていた。

数え切れぬほどの軍勢が、砦を取り囲んでいたのだ。


「こ、これは……」

力なくクルトがつぶやくと、アレスが答える。


「……敵兵、およそ8000。お前らの進軍を察知し、ここで共倒れにする作戦だ。」


「な、なんだと!?」


「でも、どうしてそんな回りくどい真似を? 数があるなら正面から叩けばいいじゃん!

ていうか、こんな大軍どこに隠してたの!?」

綾菜が率直な疑問を投げかける。


「宮廷魔術師様ですね。やつらは聖騎士との正面戦を避けたいのです。

聖騎士の防御力と殲滅力は世界的に知られていますから。

2か月も籠城させれば、200の聖騎士を削りきれる。

――あの8000は、暗黒魔導士の『ダークルーム』に隠れていました。」


ダークルーム。

悪魔が用いる、別次元の広間。

無限とも言える空間を生み出し、自由に出入りできる禁忌の魔法だ。


「……うわぁ、せこっ。」

綾菜は小さく呟いた。


「ところで、食料はどれほど持ってきた?」

アレスがクルトに問う。


「500人の兵士が、1か月食いつなげる分だ。」


「……800人分だと、切り詰めても1か月。どこかで討って出るしかないな。」

アレスは深いため息をついた。


綾菜は黙って、砦を包囲する8000の軍勢をじっと見据えていた。

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