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交界記 ―二つの世界の物語―  作者: なぎゃなぎ
第六章~白と黒の戦い~

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190話~遺跡探索①~

挿絵(By みてみん)

カツン……。

カツン……。


暗闇の中、優人とアレスは下へ続く階段を探しながら通路を歩いていた。

足音が響くたび、湿った空気がゆらりと揺れる。


優人は歩きながら、この地下遺跡についていくつもの仮説を立てていた。


この遺跡は、かつて魔神イフリートを祭る神殿だった。

そこを暗黒騎士の一派らしき連中が、隠れ家として利用していた――。


そして先ほど遭遇した剣士2人。

そのうち1人が、自爆スイッチのような装置を起動した。


ここまでの情報を整理すると――

この遺跡に、彼ら以外の仲間がいる可能性は低い。


もし他にも仲間がいるなら、自爆スイッチを押す必要はない。

――と言うか押せない。

あのスイッチは“最後の手段”だったはずだ。


もっとも、あれが本来「遺跡全体を破壊するためのスイッチ」だったと仮定しての話だが……。

しかし優人は、その仮説にある程度の確信を持っている。


あの2人にとって最大の脅威は、自分とアレス。

あの時点でリッシュとシリアは何もしていないし、下手をしたら存在すら気付かれていなかったはず――

つまり、破壊の目的は“自分たちの抹殺”

だが実際に崩壊したのは礼拝堂のみ。

自分とアレスがいた通路は無傷だった。


そこから導き出されるのは――劣化。

恐らく、スイッチは長い年月で機能の大半を失っていた。


となると、この遺跡を利用していた組織の中に、

遺跡そのものの構造を知る人間――つまり、魔神イフリート信仰に関わる者がいた可能性が高い。


でなければ、王都のすぐ近くにこんな遺跡があることを知っているはずがない。

自爆装置の存在なんてなおさらだ。


――十中八九、暗黒魔法使いの組織。


そして、あの時点で自爆スイッチを押したということは、

彼らが「見つかると困る何か」をここに隠しているということも想像出来る。


優人は、シリアたちと合流した際に伝えようと決めていた。

この探索の目的は――“彼らが隠した真実”を見つけ出すことだ……と。


まずは、シリアの回復を最優先に。

それが済んだ後に、本格的な探索に入る。


そう考えながら、通路の左右に並ぶ扉には目もくれず、階段を探し続けた。


* * *


階段は通路の突き当たりにあり、思いのほか簡単に見つかった。

しかし、階段を降りても同じような通路が続き、地下3階へ降りる階段は見当たらなかった。


「ちっ……。こっちのパターンか。」

優人は小さく舌打ちする。


「こっちのパターン? 優人は何を想像していたんだ?」

アレスが首を傾げた。


「ん? いや、人が住む建物なら“使いやすい構造”にするだろ?

複数階あるなら、階段は一ヶ所にまとめて移動しやすくする。」


「……なるほど。確かに移動はしやすい。

だが、それでは攻め込まれやすくもなるな。」


アレスの言葉に、優人は頷いた。

その通り。

階段をあえて分散すれば、敵の侵入を妨げることができる。


つまり――この遺跡は、生活のためではなく防衛を重視して造られたということだ。

ならば当然、罠の存在も考えられる。


そう考えていた矢先、地下2階の通路のすぐ脇の壁に“スイッチのようなもの”が見えた。

隣には鉄製の扉がある。


「スイッチか……。」

優人は光を当て、慎重に観察する。


「スイッチなんて罠じゃないのか?」

アレスが警戒するように言う。


「罠なら、もっと目立たない場所に仕掛けるだろ?

こんな分かりやすい位置にあるのは不自然だ。」


スイッチの形状は、どこか地上界の“電灯スイッチ”に似ていた。

優人は眉をひそめたまま観察を続ける。


「お前……そんな1つ1つに考えすぎると疲れないか?」

アレスが呆れたように言った。


「……正直、疲れる。」

優人は苦笑する。


確かに、何事も疑ってかかるのは神経が磨り減る。

だが、未知の世界では一瞬の油断が命取りになる。

――考えすぎるくらいが、ちょうどいい。


カチッ。


優人の思考をよそに、アレスがスイッチを押した。


「あっ!」

思わず優人が声を上げる。


「何か起きるなら、起きてから対処すればいい。これでお前も満足だろ?」

アレスは周囲を警戒しながら肩をすくめた。


ブオーン――。


数秒後、モーターのような音が響き、

通路と階段全体が明るく照らされた。


優人の読みは的中だった。

スイッチは“明かりをつけるため”のものだったのだ。


照らされた通路は、床一面が埃で真っ白だった。

長い間、人が通っていない。


「……。」

優人は何かに気づいたように眉を寄せ、踵を返すと階段を駆け上がった。


「おい! どうした!?」

アレスが慌てて追いかける。


地下1階の通路――

床の端には埃が積もっているが、中央部分は人の通った跡があり、埃が薄い。


「やっぱりな。地下2階以降には人が入っていない。

組織の連中が使っていたのは地下1階だけだ。」


優人が言うと、アレスが不機嫌そうに返した。

「それがどうした? そんなことに何の意味がある?」


「ひとつ気になることがある。さっきのスイッチ横の扉、調べてみよう。」

アレスの返事を待たずに、再び階段を下りていく。


後ろからアレスのため息が聞こえた。

「……はぁ。まったく、お前は本当に落ち着かないやつだ。」

どうやらシリアのことを案じているらしい。

普段ならこんな愚痴は言わない男だ。


* * *


ガチャ。


優人は地下2階のスイッチの横にあった扉を開けた。

中は3メートル四方の正方形の部屋。


中央の床には魔方陣が描かれ、

壁一面には魔神イフリートを象った壁画が彫られている。

異様な雰囲気が漂っていた。


優人は魔方陣に近づき、しゃがみ込んで注意深く観察する。


「これは……イフリートを呼び出す魔方陣か?」

アレスが近づきながら尋ねてきた。


「いや、俺はここが――この遺跡の“玄関”じゃないかと思ってる。」

優人が静かに言う。


「玄関!? ここは地下2階だぞ?」

アレスが呆れ気味に言い返す。


優人は仮説の根拠を説明し始めた。


「俺たちが入ってきた入り口……。

あそこが見つかったのは、“暗黒騎士らしき連中が出入りしているのを誰かが見たから”だろ?」


「ああ、そうだ。」


「なら、逆に聞く。今まで誰も気づかなかったのはなぜだ?」


「使われていなかったから、だろ?」


「そう。だが、この遺跡を最初に使っていた“魔神イフリート信仰者”たちは?

彼らはどうやって出入りしていた?」


アレスは言葉を詰まらせた。


「礼拝堂ほどの規模なら、利用者はかなりいたはずだ。

しかも“悪魔信仰”が禁忌とされていた時代なら、とっくに発見され、襲撃されていてもおかしくない。

なのに、この遺跡は今まで無傷で残っている。」


「それは……。」

アレスが口ごもる。


優人はさらに続けた。


「それに、さっきの“明かりのスイッチ”。

遺跡全体の照明をつける装置が、なぜこの部屋の隣にある?

俺たちが入ってきた場所が本当の入口なら、こんな位置に設置する意味がないだろ。」


アレスが少し考え込み、首を振った。

「……確かに理屈は通るが、ここを玄関とするには無理がある。

どうやって、いきなり地下2階から入る?」


「次元移動だよ。」


その時――


後方から声が響いた。

振り返ると、そこにはリッシュの姿があった。

薄暗い光の中、彼はいたずらっぽく微笑んでいた。

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