190話~遺跡探索①~
カツン……。
カツン……。
暗闇の中、優人とアレスは下へ続く階段を探しながら通路を歩いていた。
足音が響くたび、湿った空気がゆらりと揺れる。
優人は歩きながら、この地下遺跡についていくつもの仮説を立てていた。
この遺跡は、かつて魔神イフリートを祭る神殿だった。
そこを暗黒騎士の一派らしき連中が、隠れ家として利用していた――。
そして先ほど遭遇した剣士2人。
そのうち1人が、自爆スイッチのような装置を起動した。
ここまでの情報を整理すると――
この遺跡に、彼ら以外の仲間がいる可能性は低い。
もし他にも仲間がいるなら、自爆スイッチを押す必要はない。
――と言うか押せない。
あのスイッチは“最後の手段”だったはずだ。
もっとも、あれが本来「遺跡全体を破壊するためのスイッチ」だったと仮定しての話だが……。
しかし優人は、その仮説にある程度の確信を持っている。
あの2人にとって最大の脅威は、自分とアレス。
あの時点でリッシュとシリアは何もしていないし、下手をしたら存在すら気付かれていなかったはず――
つまり、破壊の目的は“自分たちの抹殺”
だが実際に崩壊したのは礼拝堂のみ。
自分とアレスがいた通路は無傷だった。
そこから導き出されるのは――劣化。
恐らく、スイッチは長い年月で機能の大半を失っていた。
となると、この遺跡を利用していた組織の中に、
遺跡そのものの構造を知る人間――つまり、魔神イフリート信仰に関わる者がいた可能性が高い。
でなければ、王都のすぐ近くにこんな遺跡があることを知っているはずがない。
自爆装置の存在なんてなおさらだ。
――十中八九、暗黒魔法使いの組織。
そして、あの時点で自爆スイッチを押したということは、
彼らが「見つかると困る何か」をここに隠しているということも想像出来る。
優人は、シリアたちと合流した際に伝えようと決めていた。
この探索の目的は――“彼らが隠した真実”を見つけ出すことだ……と。
まずは、シリアの回復を最優先に。
それが済んだ後に、本格的な探索に入る。
そう考えながら、通路の左右に並ぶ扉には目もくれず、階段を探し続けた。
* * *
階段は通路の突き当たりにあり、思いのほか簡単に見つかった。
しかし、階段を降りても同じような通路が続き、地下3階へ降りる階段は見当たらなかった。
「ちっ……。こっちのパターンか。」
優人は小さく舌打ちする。
「こっちのパターン? 優人は何を想像していたんだ?」
アレスが首を傾げた。
「ん? いや、人が住む建物なら“使いやすい構造”にするだろ?
複数階あるなら、階段は一ヶ所にまとめて移動しやすくする。」
「……なるほど。確かに移動はしやすい。
だが、それでは攻め込まれやすくもなるな。」
アレスの言葉に、優人は頷いた。
その通り。
階段をあえて分散すれば、敵の侵入を妨げることができる。
つまり――この遺跡は、生活のためではなく防衛を重視して造られたということだ。
ならば当然、罠の存在も考えられる。
そう考えていた矢先、地下2階の通路のすぐ脇の壁に“スイッチのようなもの”が見えた。
隣には鉄製の扉がある。
「スイッチか……。」
優人は光を当て、慎重に観察する。
「スイッチなんて罠じゃないのか?」
アレスが警戒するように言う。
「罠なら、もっと目立たない場所に仕掛けるだろ?
こんな分かりやすい位置にあるのは不自然だ。」
スイッチの形状は、どこか地上界の“電灯スイッチ”に似ていた。
優人は眉をひそめたまま観察を続ける。
「お前……そんな1つ1つに考えすぎると疲れないか?」
アレスが呆れたように言った。
「……正直、疲れる。」
優人は苦笑する。
確かに、何事も疑ってかかるのは神経が磨り減る。
だが、未知の世界では一瞬の油断が命取りになる。
――考えすぎるくらいが、ちょうどいい。
カチッ。
優人の思考をよそに、アレスがスイッチを押した。
「あっ!」
思わず優人が声を上げる。
「何か起きるなら、起きてから対処すればいい。これでお前も満足だろ?」
アレスは周囲を警戒しながら肩をすくめた。
ブオーン――。
数秒後、モーターのような音が響き、
通路と階段全体が明るく照らされた。
優人の読みは的中だった。
スイッチは“明かりをつけるため”のものだったのだ。
照らされた通路は、床一面が埃で真っ白だった。
長い間、人が通っていない。
「……。」
優人は何かに気づいたように眉を寄せ、踵を返すと階段を駆け上がった。
「おい! どうした!?」
アレスが慌てて追いかける。
地下1階の通路――
床の端には埃が積もっているが、中央部分は人の通った跡があり、埃が薄い。
「やっぱりな。地下2階以降には人が入っていない。
組織の連中が使っていたのは地下1階だけだ。」
優人が言うと、アレスが不機嫌そうに返した。
「それがどうした? そんなことに何の意味がある?」
「ひとつ気になることがある。さっきのスイッチ横の扉、調べてみよう。」
アレスの返事を待たずに、再び階段を下りていく。
後ろからアレスのため息が聞こえた。
「……はぁ。まったく、お前は本当に落ち着かないやつだ。」
どうやらシリアのことを案じているらしい。
普段ならこんな愚痴は言わない男だ。
* * *
ガチャ。
優人は地下2階のスイッチの横にあった扉を開けた。
中は3メートル四方の正方形の部屋。
中央の床には魔方陣が描かれ、
壁一面には魔神イフリートを象った壁画が彫られている。
異様な雰囲気が漂っていた。
優人は魔方陣に近づき、しゃがみ込んで注意深く観察する。
「これは……イフリートを呼び出す魔方陣か?」
アレスが近づきながら尋ねてきた。
「いや、俺はここが――この遺跡の“玄関”じゃないかと思ってる。」
優人が静かに言う。
「玄関!? ここは地下2階だぞ?」
アレスが呆れ気味に言い返す。
優人は仮説の根拠を説明し始めた。
「俺たちが入ってきた入り口……。
あそこが見つかったのは、“暗黒騎士らしき連中が出入りしているのを誰かが見たから”だろ?」
「ああ、そうだ。」
「なら、逆に聞く。今まで誰も気づかなかったのはなぜだ?」
「使われていなかったから、だろ?」
「そう。だが、この遺跡を最初に使っていた“魔神イフリート信仰者”たちは?
彼らはどうやって出入りしていた?」
アレスは言葉を詰まらせた。
「礼拝堂ほどの規模なら、利用者はかなりいたはずだ。
しかも“悪魔信仰”が禁忌とされていた時代なら、とっくに発見され、襲撃されていてもおかしくない。
なのに、この遺跡は今まで無傷で残っている。」
「それは……。」
アレスが口ごもる。
優人はさらに続けた。
「それに、さっきの“明かりのスイッチ”。
遺跡全体の照明をつける装置が、なぜこの部屋の隣にある?
俺たちが入ってきた場所が本当の入口なら、こんな位置に設置する意味がないだろ。」
アレスが少し考え込み、首を振った。
「……確かに理屈は通るが、ここを玄関とするには無理がある。
どうやって、いきなり地下2階から入る?」
「次元移動だよ。」
その時――
後方から声が響いた。
振り返ると、そこにはリッシュの姿があった。
薄暗い光の中、彼はいたずらっぽく微笑んでいた。




