番外編 本当の呪いの人形 4
こんな日々がいつまで続くのだろう。
寝不足のソフィアが家族と朝食を摂っている時、
父があの大商会の男が、
邸宅の火事で死んだことを話した。
父は母と兄たちに話しかけていたが、
ソフィアも静かに聞いていた。
末娘の彼女には、決して教えてくれない話題だったからである。
続けて父の話を聞いていると、燃えた邸宅の書斎から裏帳簿が見つかり、
違法薬物を売りさばいていた事も分かった。
やっぱり悪人だったな。
ソフィアは自分の見たものが正しかった事を知った。
あの男、あの夢の中に出て来た人形に殺されたのか。
じゃあ何故今も私に、あんな夢を見せるのだろうか。
もうあの男は、あの人形の物なのに。
そう考えると益々納得がいかないソフィアだった。
思わず父に尋ねてしまった。
「あの男の人形はどうなったの?」
食堂にいる家族全員が、一瞬で黙った。
普段からソフィアは、家族に殆ど話しかけることをしない子供だったからである家族皆ソフィアに注目した。
特にソフィアの父は、
心臓の鼓動が跳ね上がっていた。
知る由もない男の人形の事を尋ねてきたからである。
男の体に抱きついていた人形の事は、
公にされていない。
その事を知っているのは、
男の身内か一部の関係者だけだった。
ソフィアの父は男の葬儀に出席していた。
その際に偶然にも男の身内と親族が話しているのを聞いて知ったことだった。
『娘が男の人形の事を知るはずがない』
『何故知っているのか。』
父は逆にソフィアに質問した。
「何故そんなことを尋ねる。」
ソフィアは答えた。
「毎晩夢の中で、
炎に巻かれた男にしがみつく人形が、
私に怨み言を言うの。
それで目が覚めて眠れないの。」
父と家族は、ソフィアの夢の話にゾッとした。
その日直ぐに父はソフィアを聖母教会へ連れて行き、
神官に事情を説明して、急ぎ浄化の祈祷をお願いした。
その日の夜からソフィアは悪夢を見なくなった。
翌日父にその事を報告すると、
心底ホッとした顔でソフィアを優しく抱きしめてくれた。
この父の予想外な反応にソフィアは困惑する。
今までこんな風に私を抱きしめてくれた事などなかったのに…。
ソフィアは生まれて初めて感じる、
胸の中の温かいものが何なのか不思議に思ったのだった。
彼女はいつも、
自分の中に感じるものが何なのか疑問に思っていた
でも、
誰もその答えを彼女に教えてくれる人はおらず、
感情というものが分からないまま成長していた。
ソフィアは感情表現が、自然に出来ない子供になっていた。
その後悪夢は見なくなり、寝不足を解消出来たソフィア。
しかし、彼女は疑念を抱いていた。
あの人形が存在する限り、
人形の呪いが終わらないのではないか。
ソフィアは、自分の中に警戒心が残っているのを感じていた。