ウェルギリウス 指輪の管理者 1
『貴方に、この人は渡さない。』
『この人が愛する人形は私だけよ!』
子供大の美しい人形が
商人の男を抱きしめる姿が現れる。
『お前なんか、死んでいなくなれ!』
吐き捨てるように叫ぶ
人形の声が
頭に響きわたる。
身体中汗だくで
ベッドで
目が覚めるソフィア。
一時、聖母教会の浄化の祈りで
悪夢は見なくなっていたが、
1ヶ月も経たない内に
また、悪夢に悩まされる
ようになっていた。
同じ夢を毎日
見続けているソフィア。
『父には、もう心配をかけたくない。』
家族の誰にも言わず
一人で耐えていた。
だが、
いい加減うんざりしていた。
『なぜ私があの人形に、恨まれるのか』
『悪いのは、あの商人の男だ。
私じゃない。』
ソフィアを《生き人形》として
ある大商会の主が
買い取ろうとした事があった。
『この悪夢、どうにかしなければ。』
しかし、
大商会の主は、既に
火事で焼け死んでいた。
主にしがみついていた
人形の行方を
ソフィアは知らない。
毎夜、
寝るのが嫌になって来たソフィア。
或る夜
『どうせ寝ると
あの悪夢を見るに決まっている。
起きられるだけ、起きてやろう。』と
夜更かしをした。
数日前
父と王都に出掛けた時に、
図書館へ連れて行ってもらった。
その時ソフィアは
【呪術】の本を借りて来ていた。
何とか
この人形の悪夢を
見なくする
解決策を探す為に
借りて来た本だった。
本を読み進み
人間の欲望について
書かれている文章の中
ある呪文のようなくだりが
目に入った。
《我を呼び出し、助けを求めよ。
お前を欲望の黒い渦から解放し
お前の旅の安寧を約束しよう。》
難しい言葉は、
一文字一文字ゆっくりと
口に出して読んでいるソフィア。
発音出来ても
言葉の意味が解らなかった。
『これって、どういう事だろう?』
そんなことを考えていた時、
「☆▲◎、◎☆▲◎!」
「※□☆☆◎。」
何者かの声がしてきた。
「誰!!」
ソフィアは大きな声を出した。
すると、目の前に
深くフードを被る
黒づくめの影の姿があった。
「お前、何者だ。」
影は黙ったまま、立っている。
『まさか、この本のせい?』
ソフィアは、影に問いかけた。
「この本の
この呪文を口にしたから
お前は、出て来たのか。」
影は、答えた。
「そうだ。」
ソフィアは少し考え
その影に、再び問いかけた。
「お前は誰だ、何のため
私の前に出て来た。」
影は、答えた。
「私は、ヴェルギリウス。
お前が私を呼び出した。」
「私は、お前の旅を助ける者だ。」




