番外編 本当の呪いの人形 3
その頃、出所が分からない火と煙で
邸宅内は大騒ぎになっていた。
やっと来た王都消防隊により
出火場所の地下室を消火し
火事騒ぎが沈静化したのは
次の日の明け方だった。
消防隊が出火の原因を調べる為に地下室へ行くと、
あれだけの大火の割には燃えたのは、
コレクタールームだけだった。
部屋に入るなり消防隊は、
その異様な光景に息を呑んだ。
燃えて黒焦げになった部屋の中央に、
邸宅の主人であるベンジャミンが倒れていた。
大きく美しい人形に正面から抱きつかれた姿で、死んでいたのである。
しかも少しも焼けておらずベンジャミンも人形もきれいな状態だった。
「これは一体どういうことなんだ。
火事で死んだのではないのか。
しかも、この人形は何だ。」
その場にいた誰しもが、そう思った。
その後、葬儀の際に彼の身内が、
人形を遺体から離そうとしたが、
どうしても離れなかった。
仕方がないので棺には人形に抱きつかれたままのベンジャミンの遺体を入れ、
そのまま墓地に埋葬する事にした。
今回の出来事を彼の身内も関わった人たちも、一切触れずに葬儀を行った。
人形が、怖かったからである。
ただ棺と共に葬ることで全てを忘れたかったのだ。
ベンジャミンの葬儀の後、
身内の者と商会の従業員たちが、
彼の書斎で書類整理をしている時、
隠し棚にあった裏取り引きの帳簿を見つけた。
直ぐに王国へ申し出て、処分を待った。
ベンジャミン・ザブロックの裏の顔が暴露され、
彼の悪事が王国中に知られることとなった。
ソフィアの家、フェンロール子爵家は、商会との取り引きが保留中だった為に、何の被害もなく、
災難から逃れたのであった。
だが、ソフィアはそんな事どうでも良かった。
彼女は自分に今起きている出来事に納得がいかなかったからである。
ベンジャミン・ザブロックが帰ったその日の夜から、ソフィアは毎晩悪夢に悩まされていた。
子供の女の子に模した美しい人形が、
炎に包まれ苦しむベンジャミンを抱きしめ、ソフィアに暴言をはくのだ。
彼女は怖いという感情はなかった。
ただ、睡眠を邪魔するのを止めさせたかった。
悪夢の中でソフィアは
『その男に興味も関心もない!』
と叫び目が覚める毎日だった。