呪いの人形姫と戦場の殺人鬼 26
魂が完全に壊れたらどうなるのか
エンニ王子はウェルギリウスに尋ねた。
「お前やソフィアの魂が完全に壊れると
人格を形成していた核が破壊される。
つまり、心や意思を持たない
生きた屍になるのだ。」
「生きているが人としての魂が無い。
まるで、生きた人形になると言う事か」
レント王子がボソッと言った。
ソフィアがいない世界など生きる意味が無い。
エンニ王子は己を鼓舞し、覚悟を決めた。
「私はソフィアを助けます。
どうすれば良いウェルギリウス!」
ウェルギリウスはエンニ王子の
青く澄んだ瞳の中に
熱く断固たる決意を見た。
「よろしい。
それではソフィアを連れて来よう。
だがその前に
レント王子には退室を願おうか。」
「えっ?」
「これから先は
とても繊細な作業になる。
出来るだけ、邪魔な要素は排除する。」
『邪魔者? 僕が?
僕は兄とソフィアが心配なのに…。』
しょんぼりするレント王子に
エンニ王子が真剣な顔で話した。
「もし、失敗したら、
私とソフィアが
生きた屍になってしまったら…。
延命はせず
そのまま私を墓に埋めてくれ。
ソフィアはフェンロール子爵家に
引き取って…」
ウェルギリウスが話を遮る。
「私がお前達2人の命を終わらせてやる。」
彼は氷のような冷たい視線を2人向け
エンニ王子とソフィアの
脱け殻になった身体から命を抜くと言った。
「ソフィアはエンニ王子と共にいる事を
望むだろう。
だから一緒に埋葬するが良い。」
レント王子は承知した。
彼は此から起きる事の重大さを十分に
理解していた。
自然に手が足が震えて来る。
レント王子は兄エンニ王子に
複雑な思いで別れを告げた。
そして退室し、自分の部屋へ戻り
2人が無事に戻る事を願い祈るのだった。
ウェルギリウスは
ソフィアを抱きかかえ現れると
エンニ王子の寝室のベッドに寝かせた。
彼は、部屋に結界を張った。
そしてエンニ王子に
ソフィアの隣で横になるように言った。
肩が触れ合うほどの側にソフィアがいる。
エンニ王子は彼女の顔を見た。
閉じた目から赤い涙が滲み出てくる。
『ソフィアの部屋の血の跡はこれだったのか。』
彼は理由が分かり、少しほっとした。
「いいかエンニ王子。
失敗などと余計な事を考えるな!
ソフィアを助ける事に集中しろ!」
ウェルギリウスは語気を荒げた。
そして彼に手をつなぐように指示した。
「今から、ソフィアの魂と接触させる。
彼女にお前の心の底からの気持ちを
丁寧に真摯な態度で伝えろ。」
ウェルギリウスはエンニ王子に目を閉じ
数字を10から1へと逆に数えるように
言った。
エンニ王子が数える。
「10、9、8、7、…3、2、1」
気付くとエンニ王子は、薄暗い空間に
立っていた。
目の前で、ぼうっと光が浮かぶ。
ソフィアが誕生した時の映像が映し出される。
「この子鳴き声をあげないぞ!」
次の映像が映し出される。
周りに数人の男女が立っている。
「この子笑わないわ。」
「愛想が無い娘だ。」
幼い頃の記憶が次々と映し出される。
「貴女は呪いの人形姫よ!」
イーダが息巻いている場面。
イーダとエンニ王子の婚約発表の
新聞記事を読んでいる映像。
ひどく落ち込み
暗い部屋のベッドに座っている場面。
いくつものソフィアの人生の経験が
映し出され、消えて行く。
エンニ王子と夕食会での再会。
呪いを解呪している場面。
エンニ王子と抱擁している映像。
そして…。
「私を1人にしてくれ。
部屋から出て行ってくれ!」
エンニ王子がソフィアに怒鳴っている。
その後は真っ暗になった。
次の瞬間、眩しい光に包まれ
いきなり白く広い空間の中に
エンニ王子は立っていた。
気付くと白い空間の中央に
椅子に座ったソフィアがいた。
急いで近寄ると
彼女はまるで本物の人形のように
瞬きもせず動かなかった。
彼女の目は、命の光が消えていた。
彼女の前に立ち、跪く。
彼女の目は何処も見ておらず、目線が合わなかった。
絶望的な気持ちに襲われるエンニ王子。
するとソフィアの顔に小さな亀裂が
現れる。
ぎょっとするエンニ王子。
このままだとソフィアがひび割れて
壊れてしまう。
彼は急いで気持ちを伝えようと焦り出した。
ウェルギリウスの声が聞こえる。
「落ち着けエンニ王子よ。
気持ちが乱れれば
かえってひび割れが進行する。
お前の心の声を
彼女の心に語りかけるのだ。」
エンニ王子は深呼吸し、目を閉じた。
自分の心の声に耳を傾け
ソフィアへの気持ちを語り出した。




