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冒険者になった男の子 1

「ファイアーボール!!」


 俺の目の前を火球が飛んでいく。


(あれ?おかしいな……)


「マチス、後少し耐えてください!!」

「任せろ!!」


(俺は何をしていたんだっけ?確か草原でマリーと……)


「グラジオ!!グラジオ!!しっかりしてください!!」

「ハッ!!」


 俺は体を強く揺さぶられて意識が覚醒した。


「すまん、何秒気を失ってた!?」

「10秒です!今すぐバフをかけます!すぐに前衛に戻ってください!マチスがもちません!」

「了解!!」


 俺はクレマの話と自分の目で今の状況を理解した。


「フィジカルブースト!!」

「ありがとう!」


 全ての身体能力を上げるフィジカルブースト。

 強力な魔法ゆえに、消費魔力も大きい。

 おそらくクレマの魔力はもう底をついただろう。


「エーデル!!一瞬でいい、あいつの動きを止めてくれ!!」

「本当に一瞬でいいのね!?」

「あぁ、それで充分だ!!」


 エーデルが魔法の詠唱を始めたのを確認し、俺は前へと走り出す。


「マチス!!俺を上へ跳ね飛ばしてくれ!!」

「了解!!」


 マチスの返事と同時にエーデルの魔法の準備が整った。


「ブリザードランス!!」


 猛吹雪が魔物を包み込み、エーデルの杖から放たれた五本の氷の槍が魔物に突き刺さった。


「今だ!!」

「任せろ!!」


 俺は盾を構えたマチスに飛び込む。

  

「いっけぇぇーー!!」


 盾に乗った俺をマチスは上へと弾け飛ばした。


「火の精霊なんて言われているが、所詮はトカゲだろ!!俺たちを倒したければ、竜でも連れてくるんだな!!」


 俺は氷によって動きを封じられたサラマンダーの頭に剣を突き刺した。



---



「「乾杯ーー!!」」


 四人のグラスがぶつかりいい音が鳴った。


「いやー、俺たちもついに銀級冒険者かー」

「冒険者になって2年で銀級。まさにスピード出世だな!!」

「何調子のいいこと言ってんの。やっと銀級なんだから」

「エーデルさんは相変わらず意識が高いですね」

「当たり前じゃない!!私が目指しているのは魔王討伐軍なんだから!!」

「魔王討伐軍ねー」


 魔王討伐軍、それは選ばれし金級冒険者だけがなれるものだ。

 5年前、突如として現れた魔王に対抗する戦力を集めるために、冒険者ギルドがつくられた。

 それまでの冒険者は、自由気ままに魔物を狩る者たちだった。

 だが、今の冒険者は皆ギルドに所属している。

 冒険者は銅、銀、金のランクに分けられ、金級の冒険者は魔王討伐軍に入ることができるのだ。

 もちろん強制ではないが、安定して高い給料が入る魔王討伐軍を目指している冒険者は少なくない。


「私の夢への道は順調だけど、マチスはどうなのよ」

「俺も順調だよ」

「確かマチスは、病気の母親の治療費のために冒険者になったんだったな」

「あぁ、俺の母はかなり重い病を患っている。数年前まで不治の病と言われてたものだ。だが今は、薬が作られて治らない病ではなくなった。まぁ、その薬の値段がバカにならねぇんだがな」


 マチスの母親が患った病は、不治の病と言われていたものだ。

 魔王が現れ、魔物が活性化したことで貴重な素材が手に入り、特効薬が市場に出回るようになったのだ。



「マチスさんは立派ですよ。それに比べて私なんて……」


 クレマは頭を下げながら呟いた。


「いやいや、あんたも立派でしょ!実家を建て直すために冒険者やってるなんて凄いことだよ!!」

「エーデルさん……ありがとう」


 クレマの実家は祖父の代までは貴族の家系だったらしい。

 だが、今はいろいろあって借金を抱えってしまったそうだ。

 そんな実家を建て直すために、彼女は冒険者となったのだ。

 命に危険がある分、魔物の素材次第でかなりの金額が手に入るのが冒険者。

 彼女はその道に自ら進んだ。

 これは充分誇るべき事だ。


「そういや、グラジオはなんで冒険者やってんだ?」

「あっ、確かに聞いたことないかも」

「私も知らないです」

「……別に大した理由じゃないさ」


 彼らと出会ったのは、俺が冒険者になってすぐの頃だ。

 同時期に冒険者になった四人でパーティーを組み、これまでやってきた。


「俺の出身はパルスなんだ」

「マジかよ!?」

「パルスってあの『竜殺し』の街でしょ!」

「そうだったんですね、初めて聞きました」


 俺の頭の中には、懐かしいあの街の景色が浮かんでくる。

 走り回った草原。

 よじ登って怒られた門。

 剣を振り続けたあの丘。

 そして、石でできた小さな教会。


(マリー、元気にしてるかな……)


 パルスを出たのは俺が15になった日だ。

 あれから2年、教会は少しは大きくなっただろうか……


「……ジオ、グラジオ!!」

「あっ、すまん」

「急に静かになるなんて、お前らしくないな」

「いや、ちょっと昔のことを思い出してただけだよ」

「昔のこと?それがお前が冒険者になった理由と関係してるのか?」

「あぁ」


 俺は腰から鞘にしまわれた剣を外し、机の上へと置いた。


「これは俺が10歳の誕生日に貰ったものだ」

「へぇー、そうだったんだ」

「……それにしちゃあ、随分と使い込まれてないか?」


 マチスが指摘した通り、剣は剣身以外に傷が目立っている。

 鞘もかなり傷んでいる箇所がある。


「これは父と母の形見なんだ」

「えっ、」

「剣は父のもの。鞘は母のものを加工してつくられている」

「そうだったんだ」

「あれ?でも、グラジオは前にママに会いたいって言ってなかった?」

「ちょっと待て、俺がいつそんなこと言った?」

「あぁ!そう言えば言ってたな!俺たちが出会ったばかりの頃に」

「確か、グラジオさんが大怪我を負った後のことでしたね。三人でグラジオさんの寝言を聞いたんですよ」

「あぁ、こいつにも可愛いところがあるなーって思ったもんだぜ」


 俺は気付かぬうちに仲間に恥ずかしいところを見られていたようだ。


「えーと、つまりあの時のは亡くなった母親に会いたいって意味だったの?」

「あー、おそらく違うと思う。俺が会いたがっていたのは、実の母親じゃない」


 自分のことだから、自分が一番よくわかる。

 おそらく俺が会いたがっていたのは、


「俺が会いたがっていたのは……たぶん、パルスにいる一人の聖女だよ」

「えっ!もしかして!?」

「エーデルさん、多分違いますよ。ママ呼びしてるので、流石に……違いますよね?」

「その人は、俺より17も上だ」

「いや、年齢なんて小さな問題よ!!」

「はぁー、話がややこしくなっちまった。グラジオ、その聖女さんはお前の育ての親ってことだろ?」

「あぁ、そう言う意味だよ。逆に、それ以外何があるっていうんだよ」


 エーデルとクレマのせいで妙な空気になっていたところをマチスが締めてくれた。


「俺は3歳の時に両親二人を失っている。それからはずっと教会暮らしだ」

「へぇー、あんたにそう言う過去があったなんて意外ね」

「そうか?案外こいつは信仰深いところがあったから、俺はなんとなく気がついていたぜ」

「はい、私も模範的なエリーゼ教徒だと思っていました」


 確かに今も朝礼や食事前の祈りなど、マリーに教えてもらったことを習慣的に行なっている。

 冒険者でこれだけ信仰深いのは珍しいのかもしれない。


「えーと、それで結局あんたが冒険者になった理由はなんなの?」

「……笑うなよ」

「笑うわけないじゃん」

「……竜を、竜を倒せるぐらい強くなるためだよ」

「「はぁ!?」」


 三人は驚きの声を上げた。


「竜、竜って、」

「おい、笑うなって言っただろ」

「そうですよ、エーデルさん。グラジオさんはパルス出身ですから、『竜殺し』に憧れていても不思議じゃありません!」

「いや、別に『竜殺し』に憧れているわけじゃない」

「なら、なんで竜を倒すなんて目標を立ててんだ?」


 そうだ、俺は別に『竜殺し』になりたいわけじゃない。

 ただ、俺にとっての絶望の象徵が竜なだけだ。

 あの日、まだ幼かった俺でもはっきりと覚えている。

 あの悲しくて、辛くて、どうしようもない思いを必死に顔に出さないようにしていたマリーの姿を。

 父の顔も、母の顔もはっきりとは思い出せない。

 ただ、あの日のマリーの顔だけは今でもはっきりと脳裏に焼き付いている。

 だからもう二度と、あんな顔をさせないために俺は強くなりたいんだ。


「大切な街を、人を守れる力が欲しかったんだ。たとえ竜が現れても、誰も犠牲にならずに済むぐらいの」

「……そう、なら私と同じじゃない。私は魔王討伐軍に入れるくらい強くなる。あんたも竜を倒せるぐらい強くなる。ほら、同じじゃない」

「あぁ、そうだな。俺も金を稼ぐためにもっと強くなる!」

「私も、もっと強くならないとですね!」

「……そうだな、俺たちは冒険者だ。強さを求める者たちだ。これからも共に強くなろう!」

「「おう!!」」


 俺の横には最高の冒険者たちがいる。



---



 魔物を狩る。

 魔物を狩る。

 たまに、ギルドの指示を受ける。

 そしてまた魔物を狩る。


 そんな生活が続いていたある日。


「今日は何を狩りに行こうか……」


 俺はギルドに貼られた魔物リストと睨めっこをしながら、これから狩りに行く魔物を決めようとしていた。


「それにしてもあいつら遅いな」


 狩りにいく魔物を決める時は、いつも全員揃っている。

 だが今日は何故か誰も集合時間に集まんなかった。


「エーデルならまだしも、クレマとマチスまで遅れている。これは弛んでいるな。おれが一発ビシッと言う時が来たか」

「おっ、いたいた!!」


 おれの背中側から馴染みのある声が聞こえた。


「はぁー、お前ら時間通りに……」


 俺は振り返りながら、注意の言葉を発しようとした。

 だが、想像もしていなかった光景に言葉が止まった。


「はっ?えっ、ちょっと待て。なんでお前ら私服なんだよ?」


 俺の後ろに立っていた三人は何故か皆私服だった。


「グラジオ、今日の魔物狩りは中止よ!!」

「いや、それは別にいいけどよ。突然なんで中止なんだ?」


 まぁ、魔物狩りが中止になること自体は特に問題ない。

 俺以外の三人が私服なのだから、きっと何かしら理由があるのだろう。


「グラジオ、今日は買い物に行くぞ!」

「買い物!?」


 おおよそ、マチスの口から発せられたとは思えない言葉に俺は困惑した。


「それじゃあ、さっさと行くぞ!!」

「ちょっ、ちょっと待て!!」 


 俺は何事もなかったかのように外に出て行こうとした三人を呼び止めた。


「流石に詳しい事情を教えてくれ」


 仲間を信用していないわけではないが、詳しい事情は聞いておきたい。


「はぁー、流石にここが限界みたいだぜ」

「もう少し秘密にしときたかったんだけどなー」

「これ以上はグラジオさんが可哀想です」


 三人は何かコソコソと話したあと、俺の前に一枚の紙を突き出した。

 どうやら依頼書のようだ。


「えーと……これって」


 俺はその依頼書に書かれた内容を間にと通した。

 そしてもう一度目を通した。


 そこには俺がよく知る場所の名前が書かれていた。


「パルスの教会への護衛?」

「そう、次の依頼はこれを受けるわ!!」


 パルスの教会への護衛。

 おそらく教会が出したものだろう。

 聖都からパルスに向かう途中で何かが起き、この街で依頼を出したのだろう。


「偶然この依頼書を見つけた時は、本当に驚きました」

「あぁ、前にグラジオの出身地を聞いておいて良かったな」


 俺は依頼書を握りしめながら三人を見た。


「皆んな、ありがとう!!だけどいいのか?この依頼にはかなり時間がかかるが……」

「気にすんな。俺は前から『竜殺し』の街に興味があったから、ちょうどいい機会だ」

「それにこの依頼、かなり報酬が良いんですよ!!」

「まぁ、魔王討伐軍に入るにはコネが役立つかもしれないしね」

「依頼は明日からだ。今日は買い物と準備に行くぞ」

「了解」


 久しぶりにマリーに会うのだ。

 色々とお土産を買っていこう。

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