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新婚旅行のハズでした  作者: もんどうぃま
第一章 夫の災難
6/30

6 真偽


モニーク・シーラッハ子爵令嬢のことはハッキリしないまま終わらせることになってしまいました。先日支配人を使って勝手に部屋に入り込んでいたお嬢さんですわ。リオネルの婚約者だと名乗り、リオネルを混乱させた女性。


リオネルは初めて会ったという認識です。自分は結婚しているのに、自分の婚約者だと名乗る女性が現れてかなり驚いていました。しかもご本人は嘘をついているようには見えず、信じ切っているご様子。


結論から申し上げますと、モニーク嬢はパトリックの恋人です。ただ、御本人はシェーンベルグ家の次男、リオネルの婚約者だと思い込んでいました。


その頃なかなか会えない日が続いていたリオネルがクリスタルホテルに宿泊すると聞きつけ、宿泊先の部屋で彼を待っていました。子どもは早い方が、という噂が招いた結果です。


あり得ないことが起きています。ホテルの従業員がお客様の情報を流すなど以ての外(もってのほか)。お金を積まれて口外、脅迫されて口外。可能性は様々ですが、信用というものは些細な出来事で簡単に揺らいでしまうものでしょう?


ジャン=リュックことパトリックはリオネルの名を騙り、モニークさんの恋人の座に収まっていました。ただ恋人が欲しかったのか、伯爵家を乗っ取る手段だったのかは結局分かりませんでした。もしかしたら本当に愛していたのかもしれません。


本当のことを語っているのか、そうでないのか、判断材料に乏しく、モニークさんの憔悴も激しく、追及しきれませんでした。今回の一番の被害者はモニークさんなのかもしれません。彼女は今はケアの段階です。


さて、バスチアンが黙らせた偽支配人はこのままここで拘束することになりました。ここはホテルの一室です。お部屋、使いたい放題空いてますから。それはもう悲しくなるほどです。


体格のいいバスチアンの部下と迎えが来るまでの時間を過ごしてもらいます。念のため室内には騎士をさらに二人配置します。ないとは思いますが、黒幕に奪還されると厄介ですし。


シェーンベルグ支店の収益、今年は本当に厳しそうです。ホテルの異変に気付いた宿泊者の皆さんからの声も握りつぶされていました。前世のように口コミサイトがあれば、もっと早く気づけたのかもしれません。


不愉快な体験をされた方々に謝罪したいですわ。残念ながら顧客名簿もなく、それは叶いません。偽支配人に悪用されないように燃やしたのだそうです。


これまでに培ったものを失うのは惜しかったそうですが、個人情報が書き込まれていたそれを放置できなかったのだそうです。それ以降の記録はあってないような状態でした。


この後もう偽支配人と会うこともないでしょう。全てはバスチアンの胸三寸です。バスチアンは色々あった時に知り合ったその筋の方々と未だに交流があるのです。


偽支配人はバスチアンの知り合いのその筋の方と因縁があったようなのです。耳元で囁いたのはその方のお名前。怖いので聞きませんけれども。


朝が来て、いつもの三人とお義父様は屋敷へ向かいます。お義兄様にはお義母様のケアをお願いしました。とても不安定な状態でいらっしゃいます。正直なことを申し上げますと、着いてこられると面倒なのです。お口がスムーズですし、荒事になったらきっと淑女よろしく悲鳴をあげるでしょうし。


明るくて良い方ではありますし、最愛の夫をこの世に産んでくださった方でもあります。でもやっぱり向き不向きはありますでしょう?置いて行くことにしましたの。本来なら次期伯爵のお義兄様は成り行きを見届けた方が良いのですけれど、仕方ありません。


残念ながら、侍女だとお義母様を止められないのです。身分が上の方を体を張って止めるのは難しいですし、お義母様は意外とパワフルでいらっしゃいます。


お義兄様が体を張ってお義母様をお止めするのが一番問題が少ないと思うのです。今は領地の未来がかかっていると言っても過言ではありません。それに……いえ、この先はコトが済んでからにいたしましょう。


シェーンベルグの屋敷に入ると、お義父様とリオネルは小洒落た見た目に変化したエントランスをご覧になって言葉を失っていました。大きく変化させたわけではありません。元々あった物を入れ替えたり、小物を置いて視線を誘導したり。


期間が数日でしたから劇的な変化は難しいのですが、知識とセンスのある者が少し工夫をすれば見違えるように変わるのです。室内も変わっています。お義父様とリオネルはウキウキした様子で執務室の扉を開けました。気に入っていただけたようです。


執務室には椅子に縛られた男が一人。猿ぐつわをかまされています。そうです。バスチアンの部下のお仕事ですわ。リオネルとお義父様のウキウキは一瞬で消え去り、二人は硬い表情を浮かべました。


「パット?」

流石お義父様です。領地には偶にしかいらっしゃらないのに、お屋敷の庭師の顔も覚えていらっしゃいます。大変記憶力の良い方です。バスチアンが彼の猿ぐつわを外しました。


「俺は侯爵家の人間だ。こんなことをしてタダで済むと思うなよ?たかが伯爵の分際で!」

「あらあら。庭師ではありませんでしたの?」

私がクスクスと笑いながら声をかけると、彼は馬鹿にしたように笑いました。


「バカが!女は黙ってろよ。爵位も継げないクズが!」

リオネルが私を庇うように前に立ちます。嬉しい。前世では一人で闘っていましたけれど、今世では守ろうとしてくれる方がいます。喜びを噛み締めているとまたあの男が声を荒げます。


「こんな家俺が貰ってやるからさっさと出ていけよ。おい!イヴォンヌを連れて来い!また俺様が慰めてやるからよ」


お義父様は顔面蒼白です。

「まさか無理矢理?」

「合意に決まってるだろ?」

庭師のパットは下衆に笑いました。


「あのババアよりもモニークの方が良いと思うだろう?なかなかそうでもないんだよ」

彼はその後も卑猥な言葉を並べます。バスチアンからの報告でこれが懸念されたこともあって、お義母様はお留守番という判断になりました。お聞かせすることにならなくて本当に良かったですわ。


ニヤニヤと笑うパットの頬にお義父様の拳がめり込みました。パットは椅子ごと吹っ飛びました。あら、お義父様は以外とパワフルでいらっしゃるのね。


バスチアンがパットを椅子ごと起こしました。バスチアンは細身ですが意外と力持ちなのです。バスチアンはまた猿ぐつわをかませました。パットはうーうーと唸っています。


「パトリック・エンリッヒ侯爵令息、あなたをシェーンベルグ伯爵家を乗っ取ろうとした罪で訴えます」

彼を真っ直ぐに見てそう伝えた私を、庭師のパット改め、パトリックは煽るような目で見てきます。できるもんならやってみろ、そんな表情です。


この国で家を乗っ取ろうとするとどんな罪になるのでしょうか。軽いもので鞭打ち、重いもので死罪。ただ、家格が上のものが下のものを乗っ取ろうとした場合、お金を払って終わり、という前例がいくつかあります。全てお金で解決するパターンですわね。


「加えて、クレンベルグでの流言の流布、クリスタルホテル乗っ取りの罪でも訴えます。クリスタルホテルはクリスタル公爵家の持ち物ですから、クリスタル公爵家への敵対です。則ち、ここにいるバスチアンへの敵対でもあります。彼は私の執事ですから」


パトリックは混乱しているようです。猿ぐつわが緩かったのか外れてしまいました。

「執事と敵対した程度でどうなるっていうんだ!バカが!」


スッと近付いたバスチアンがパトリックの耳元で何かを囁きました。一瞬で顔の色を失い、ハッとした様子でバスチアンを目で追うパトリック。人ってあんなに素早く動くものなのですわね。驚きましたわ。


裁判にはしません。バスチアンが処理を手伝います。彼はオリビア至上主義者。私を不快にさせた者には容赦がありません。喋らなくなったパトリックは椅子ごとどこかへ運ばれて行きました。


「お義父様、彼がお義母様のことを侮辱したことが表に出ないようにさせていただいてもかまいませんか?乗っ取りにあいかけたと知られるのも不都合ですし、このまま彼はいなかったことにさせていただいても?」


シェーンベルグの弱みを曝け出すことになりますし、もっと上手な人間が出てこないともかぎりません。


「そうですね。こちらとしてはそれが理想的ではありますが、エンリッヒ侯爵家にはどう説明されますか?」

お義父様のお顔が曇りました。


「エンリッヒ侯爵家のジゼール様をご存知ですか?」

「奥方のお名前が確か」

「そうです。ジゼール様には連絡済みです。パトリックはジゼール様のお子さまではありません」


「え?まさか、庶子……」

「クレンベルグ市長と市井の方との息子さんだそうです。その母親がクレンベルグ在住でして、今回の騒動の()()ですわ」


「エンリッヒ侯爵のお子様ではなく、よりによってクレンベルグの……」

「クレンベルグ市長が鍵なのですわ。お義父様」




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― 新着の感想 ―
連載、楽しく読ませて頂いてます。 エンリッヒ侯爵家の奥方様がジゼール様。それとは別にジゼール侯爵という方がいらっしゃるんですか? 庶子とはエンリッヒ侯爵の隠し子だと思ってました。 オリビア様の占い凄…
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