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新婚旅行のハズでした  作者: もんどうぃま
第三章 追憶の彼方

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28 鬱憤


「ジェシカ!」

通された部屋でユミリア従叔母様(おばさま)を待っていた私たちは従叔母様の悲痛な呼び声で一斉に振り向きました。


ユミリア様は驚きを瞬時に隠し、毅然とした表情で私たちの方へ悠然と歩いていらっしゃいました。リラックスして過ごせるはずの私室ですら妃の仮面を外すことができないのです。従叔母様の過酷な環境に胸が痛みます。


「王国の星、ユミリア様にオリビア・クリスタルがご挨拶を申し上げます」

私たちはカーテシーで従叔母様をお迎えしました。男性二人はボウ・アンド・スクレープ。前世で伝え聞いた高貴な方の礼と同じ動きをします。今世ではどちらもカーテシーと呼ばれています。


「まあ、オリビア、お久しぶり。隣の方が旦那様かしら」

「ご挨拶が遅れました。リオネル・クリスタルと申します。以後お見知りおきを」

リオネルが礼を深くします。


「私の従姪(じゅうてつ)を大切にしてくださいね」

従叔母様は少し切なさが滲んだ微笑みでリオネルに話しかけました。


「心に刻み込みます」

ここまでは決まったやり取りです。ただ、この先も会話には気をつけないといけません。

「オリビア、その髪型とお化粧、素敵ね。私も試したいわ」


従叔母様には私の意図が伝わっているようです。

「今日はこの髪型とお化粧が得意な侍女を連れてまいりましたわ。ユミリア様さえ宜しかったら、しばらくお側に置いていただけないでしょうか」


「まあ、素敵!私も別人のようになれるかしら。お化粧って不思議よね。化粧をする侍女によって全く変わってしまうんですもの」


夜会などの場で、ユミリア様は本来の美しさを貶めるような化粧をされていることが多々ありました。正妃様の手の者が入り込んでいるのです。まさに今この時にも。


毒を盛られたり直接的に襲うと言うような目立つことはされていないようですが、ドレスの格を下げられたり、化粧に手を加えられたりと地味な嫌がらせが続いているようです。もちろんバスチアン調べです。


「ぜひぜひ、結婚のご報告が遅れてしまったお詫びに三人の侍女を従叔母様のお側に。人を贈り物にするなんて不謹慎かもしれませんが、化粧職人と呼んでも良いのでは?という人財なのです。ぜひユミリア様の下に彼女たちを」


「分かったわ。私の侍女として預かるわ。侍女頭を呼んでくださる?」

私たちは、侍女頭が部屋に来るまで、私がお土産という名目で持ち込んだ紅茶やお菓子を愉しみました。もちろんバスチアンの給仕です。


「美味しい」

ユミリア様は珍しく驚きを隠しませんでした。

「彼も私の下に置きたいわ」

バスチアンは無言で礼をしました。

「従叔母様、困りますわ」

「ふふ。冗談よ」

「バスチアンが本気にしてしまいます」

「まあ、オリビアは可愛らしいのね」

うふふ、あはは、と時間を過ごしていると侍女頭が部屋への入室の許可を求めました。


「お待たせして申し訳ございません」

さあ、侍女頭は味方なのでしょうか、敵なのでしょうか。彼女は従叔母様の乳姉妹、一緒に後宮に上がり、独身を貫いている女傑です。彼女がいたからこの後宮で生きていられた、と言っても過言ではありません。


そう、答えは味方です。

「オリビアが彼女の侍女を三人、私の下へ預けてくれたわ。あなたにお任せしても構わない?」

「承知しました。人員を少し整理させていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんよ。お仕事が上手く回るように配慮してちょうだい」


「かしこまりました。では早速」

「お願いね」

「それでは失礼いたします」

侍女頭は頭を下げて部屋から出て行きました。


「早速、オリビアとお姉様と、お化粧をお揃いにしたいわ。化粧をしてくださる?まあ、鬘もあるのね。そうそう、殿方お二人には別室にチェスを用意させたから、そちらでお愉しみいただけるかしら」


「ご配慮ありがとうございます。では」

部屋に残っていた侍女はリオネルとバスチアンに微笑みかけられて顔を赤くしています。幾人かの侍女を引き連れて彼らが部屋を出て行くと、これで全員関係者のみです。


侍女が従叔母様にジェシカ様風メイクをしているのを眺めながら、計画を手短に話します。従叔母様の役割はジェシカ様風メイクを流行らせていただくことです。もちろん私たちも。


部屋の外が慌ただしくなりました。想定通り、あのお方のご登場です。部屋にはジェシカ様風メイクの三人がいます。従叔母様のメイクが間に合うかどうかは未知数でしたが、想定よりも良いタイミングです。


「ユミリア、あなた侍女を入れ替えたそうね。なぜかしら」

正妃のオデット様は部屋に入る前から憤っていらっしゃいました。

「ひぃっ」

私たちを見て、貴族らしからぬ悲鳴を上げるオデット様。どうやら彼女もジェシカ様の件に関わりがあるようです。


アーレンスの後妻はオデット様の取り巻きだったと聞きました。アーレンス伯爵家のアコギな商売の儲けの辿り着く先が一部掴めなかったのですが、確信ができました。


「王国の月、正妃様にオリビア・クリスタルがご挨拶申し上げます」

私はカーテシーをしました。ちなみに国王は太陽です。

「遅ればせながら、従叔母(おば)に結婚の挨拶をしにまいりました。私の思いついた贈り物が侍女三人ですので、正妃様にご心配をおかけすることとなり、心よりお詫び申し上げます」


「そうなの。あなたからの贈り物なら仕方ないわ。オリビア・クリスタルは優秀な人材を育てると有名ですもの。私のところでも何人か預かってあげてもよろしくてよ」

「よろしいのですか?光栄です。四人お願いいたします」

「四人も良いの?」

「ええ。本日は準備が整っておりませんが、五人ほど目処がありますので」

「あら、五人全員連れていらっしゃいな。歓迎するわ」


「ありがとうございます。正妃様にお仕えできると知れば侍女も喜びます」

「では人員調整は侍女頭に頼んでおくわ」

「よろしくお願いいたします」

正妃はご機嫌で帰って行きましたわ。


「オリビアは恐ろしいわ。あっという間に五人も送り込むなんて」

「有難いことです」

「人員の層が厚いのもあるわね」


「従叔母様、二人は必ずお側にいますから、少しはお休みになれるかと。睡眠不足は肌の不調に繋がりますから、春の訪れを祝う夜会の夜までに整えませんと」


「その前にお茶会を開催しないと、間に合わないわね。肌を整えるの、急ぐわ」

「侍女たちの気質は職人ですから、厳しいかもしれませんが、お一人で戦うワケではありませんわ」

「分かったわ」


伯母様と従叔母様はそっとハグをした頃、リオネルとバスチアンがタイミングよく戻ってきました。金魚のフンよろしく数名の侍女を連れています。


自棄になったバスチアンはここではお話しできないような様々な経験を積んでいますから、若い彼女たちはチョチョイと手のひらの上で転がすようなものでしょう。リオネルは苦笑したまま私をチラリと見ました。帰宅後、面白い話が聞けそうですわ。


それから私たちはジェシカ様風メイクを拡めるために様々なお茶会へ顔を出しました。侍女からの報告を聞くと、正妃様はアーレンスの後妻との関係を隠すつもりはないようです。今まで上手くいき過ぎていて、気が緩んでいるのかもしれません。


ただ、アーレンスからの上納金が減少傾向にあるようで、正妃様の権力に翳りが出たようです。お金の繋がりは無くなってしまったら縁も切れてしまうと言いますものね。


アーレンスの経済への圧力をかけているのはご想像通り私とバスチアンです。収入の半分がみかじめ料でしたから、納める人員、なんでしたら領民もさらに減りました。人が減れば収入も減ります。その結果正妃様へ流れるお金も少しずつ減っていきます。きっと今頃お二人はギスギスしていることでしょう。


領内で最大の集団だった、先日私を誘拐をした組織にバスチアンが違う仕事を依頼しました。もう彼らは犯罪で生計を立ててはいません。それぞれの適性に合わせて様々な仕事に就いてもらいました。


成功報酬は確かに大きいですが、逆を言えば生活が不安定です。ヒリツキを求める彼らが満足するようなお仕事で、安定した収入に加えて、働けば働く程収入も上がる。バスチアンの手配は天才的でした。具体的なお仕事内容は秘密にさせてください。


私たちの計画が着々と進んでいました。


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