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新婚旅行のハズでした  作者: もんどうぃま
第二章 夫の留学

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20/30

20 本音


「美味しい。マノン、また上達した?」

久しぶりだからそう思うのか、本当に上達したのか、正直分かりませんでした。


「後宮で教えてくださった方がいらしたのです。今はもういらっしゃいませんけれど」

「儚くなってしまわれたの?」

「はい。後ろ盾もなく後宮に入れられた私を守ってくださいました。先代の王妃マリエッタ様です」


「……そう。良かった」

「マリエッタ様のおかげであの王子からも守られました」

「あなたは彼を愛していない、自由になりたいということでよろしくて?」

「はい。その通りです。口にするのも悍ましいです」


「私、マノンを買い取るためにここへ来たの」

「……あの王子、私にいくらの値段を?」

「五億よ」

「それはダメです。払い過ぎです。一生かかっても返せません」

「信じて。はるかが大丈夫だと言っているわ」

「はるかさんが?……分かり、ました。では遠慮しません。帰りたい気持ちは曲げません」


「良かった。それだけが不安だったの」

私たちは固く握手をしました。

「さあ、セイラのお話をしてちょうだい。あなたは今どういう状況に置かれているの?」


「皆さまと別れた後、舞台の上で主催者の方に感想を聞かれました。その時例のあの王子様が通りかかったのです。ヴィクトル様は顔色を変えて私を隠そうとし、バスチアン様も私が隠れるように立ってあの王子様から守ろうとしてくださったのです。ですが、あの告白を聞いていたようで、ヴィクトル様を揶揄った後、ご自分の後宮に入れてやろうかと仰ったのです」


「信じられない発想だわ」

「冗談だとしても悪趣味ですわ」

「幸せの絶頂にいる二人になんて事を!不粋ですわ」

侍女たちがお互い頷きあいながら憤っています。もう仲良くなっていますわね。さすがマノンね。懐に入るのが上手いわ。


「バスチアン様がこう仰ったのです。オリビア様の許可を頂きませんと、と」

「ジュリアン殿下は何と俺のことは覚えていなかったんです」

バスチアンが呆れたような顔で言いました。


「あらあら。マノンの事であんなに抗議したのに。馬耳東風ですわね」

マノンが肩を震わせて笑っています。他の侍女は知らない言葉で笑うマノンを不思議そうに見ています。クララは「これは伝説の!」と一人盛り上がっているようです。


私もマノンがいると前世の言葉を使ってしまいがちです。気をつけないといけませんわ。


「最後通告は書面でしましたから」

バスチアンがニヤリと笑います。

「私も明日になれば要求された五億を現金で揃えられるわ」

私もニヤリと笑います。

「なんか始まったみたいだね」

リオネルは困ったように笑いました。


「全ては明日ですね」

「ええ」

私とバスチアンから黒い何かが立ち昇ったように見えた、と後日リオネルから聞かされましたわ。私たちはきっと負けず嫌いなのでしょうね。


その前にセイラの意向を聞きます。今回一番大切だと言っても過言ではありません。

「セイラ、あなたはどうしたいかしら。あなたの選択肢は三つよ。このままヴィクトル様とこの国で暮らす、私たちの国でヴィクトル様と暮らす、ヴィクトル様とはお別れする、この三つが大きな選択肢ね」


「私たちは可能ならアダマンテ王国で暮らしたいと考えています。彼はこの国の第二王子ですが、ご母堂は側妃様で、すでにお亡くなりになっていらっしゃるのです」


「エリザベット様です。ヴィクトル様が二十歳になられた頃、ヴィクトル様に盛られた毒杯を代わりに飲まれて。証拠がなくて不問になったのですが、ジュリアン殿下かそのお母上が、と後宮では噂されていました。あくまでも噂ですが」


「ではジュリアン殿下のお母上が正妃様なの?」

「はい。王太子のマチアス殿下とジュリアン殿下がご兄弟で、その間にヴィクトル殿下が入ります。マチアス殿下とジュリアン殿下は似ていらっしゃらないので、マチアス殿下とヴィクトル殿下がご兄弟だと思われる方も多いのです」


「なるほど」

「オリビア様、ヴィクトル様は正妃様にはよくして頂いた、と言っていましたわ。でも、王宮で何度か命を狙われたことも事実、そこに私を住まわせるのは不安だ、と仰っていました」

セイラが心配そうに言いました。ハンカチを握りしめています。今は公務に出ているヴィクトル様が心配なのでしょう。


「マリエッタ様とエリザベット様がいらっしゃらない後宮は権力争いで混乱必至ですわ。今はまだ拮抗していて一見上手くいっているように見えてはいますが、崩壊間近だとも思われます。ジュリアン殿下が後宮に入れた方の間で特に争いが多いです。お手付きになったと自称する方々は数名、私のように難を逃れた方も数名います。ご寵愛がハッキリしないと言いますか、王妃になれそうでなれない方が多いと言いますか……」

マノンが言いました。恐ろしいところですわ。そんな世界を生き抜いてこれたのは、本当に運が良かったのね。


「全ては明日決まります。マノンの未来も、セイラの未来も、私たちの未来も。今日はしっかり食べて、ゆっくり眠りましょう」


「ではお料理いたしますね。注射器などありませんし、食材に薬を塗るなんて発想はこの国にはないのでご安心ください」

「マノン、よろしくね」

(マノン、注射器はまだこの世界にはありませんよ)


「承知しました」

(ごめんて)


私とマノンは表情だけで裏の会話をしながら、食事の準備を始めました。私が料理をすることはこの場ではセイラ以外皆知っています。


「オリビア様はお料理もできるんですか?私も見習いたいです。無事国に帰れたら私も料理ができるようになりたいですわ」

セイラの本音が漏れ出ています。アダマンテ王国で暮らしたいのですね。その希望を叶える方向へ進みましょう!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


朝になりました。昨夜はまるで前世の修学旅行のようでした。皆で食事を食べ、お酒こそありませんでしたが、言葉のゲームをしたり、小説のシーンを再現したりして遊びました。


途中で公務を終えたヴィクトル様が合流した時は驚きました。ダマンスイーツ店に居るのかと錯覚するような本当の意味での無礼講で、たくさん笑い合って過ごしました。


深夜、私とヴィクトル様は二人で話し合う時間を貰いました。警備上バスチアンが無言で立ち会っています。

「オリビア様、セイラからお聞きになったかもしれませんが、可能ならば私はアダマンテ王国で暮らしたいのです」

ヴィクトル様が少し諦めた表情で私に言いました。


「ヴィクトル様、セイラの家には弟がいます。ただまだ後を継げる年齢ではありません。理想的な未来としては外交官としてアダマンテ王国に滞在、もしくはセイラの家、伯爵家に婿養子に、降婿(こうせい)とでも言うのでしょうか。ヴィクトル様が自由になれるカタチです。一番望まない未来は別々の人生を歩むことでしょうか」


「どちらもあまり現実的ではありませんね。最後まで足掻こうとは思いますが」

ヴィクトル様は暗い顔で俯きました。

「ジュリアン殿下の本当の父親をご存知ですか?」

「ああ、噂なら聞いたことがありますよ。王妃の騎士だとか。確かに顔は似ていますが、王妃と騎士は従兄妹同士ですから、似ていてもおかしく、ありま、せん……まさか?」


ヴィクトルはゆっくりと私を見ました。

「占いの結果をお知りになりたいですか?」

「あなたは、明日何をしようとしているのですか?」

「私もバスチアンも負けず嫌いなのです。マノンを返してもらおうと思っているだけですよ。そしてセイラの希望も叶えたいのです」


「恐ろしい方だ」

「あなたはどの身分になっても構いませんか?それとも貴族でいたいですか?」

「セイラと暮らせればそれで構わないが、私たちが市井に、となると断種される可能性があるだろう?それは避けたい。セイラの子どもを見る可能性を残したいと思う」


「承知しました。ご期待通りの結果にならなかった場合は、私の提案を断って頂いても構いません」

「今夜眠れるだろうか……」

「バスチアンと飲み明かしますか?」

「ははっ。それも良いな」

「寝不足では判断が鈍るかもしれませんよ?」

「いっそその方が良いのかもしれないな」



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