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新婚旅行のハズでした  作者: もんどうぃま
第一章 夫の災難
1/30

1 異変


みなさま、お久しぶりですわ。いえ、はじめまして、かしらね。最愛の夫と旅をしていた、前世も今世も占い師、オリビア・クリスタル・ベルガーですわ。


クリスタル公爵家の次女として生まれた私は、昭和の女、小原はるかとしての記憶を持ったまま成長しましたの。いわゆる異世界転生、ですわね。


どこにいるのかは分かりませんけれど、前世の私と今世の私はなぜか頭の中で会話をすることができました。同じ記憶を保つ別々の私たち。揉めることも多々ありましたが、かけがえの無いパートナーでした。


ところが私の行動に満足したはるかは「ありがとう」と感謝の言葉を残して消えてしまいました。はるかとの思い出を胸に占い師としての経験を積んでいたある日、突然鳴り響いた稲妻の轟音と共に再来。愛しの夫リオネルとの出会いのきっかけを作ってくれました。


シェーンベルグ伯爵家の次男だった彼は継ぐものもなく、騎士でもなく、ないない尽くしのお見合い二十連敗。心に大きな傷を負った男でした。葛藤は多々あれど物事を真っ直ぐに捉え、優しくて話をしっかりと聞いてくれる。私にとっては理想の男性です。


恋愛と縁遠かったはるかは、良い出会いがないまま大往生。それもあってか、今世の私にとっては彼の陽だまりのような愛情がとても心地よいのです。


彼は貴族ではありますが、継ぐものがない焦り、見えない未来、厳しい現実を知っています。若い頃から貯蓄に励んでいた彼は、学ぶことが何よりのご褒美という好奇心旺盛な男性です。


公爵家のお小遣い使用ノルマとはるかの手助けのおかげで、ドレス販売、ホテルや保育所の経営、宝石や鉱石の加工業、各種養成学校運営などを通して、私もひと財産築いてまいりました。


彼は最初、私と二人で市井で働きながら生活するつもりでいたそうです。何としても愛する人を幸せにする、と悲壮な覚悟をしていたのだそう。クリスタル公爵家は姉が継ぎますから、爵位のない自分と結婚するとなると市井に、と考えていたのだそうです。


数年前から私が実業家として生計を立てていると知った時、彼が流した涙にはどんな想いが含まれていたのか、今となっては分かりません。それに私はベルガー侯爵家の後継者に指名されていましたから、街で暮らす未来はありませんでした。


交際が始まった時に伝え忘れてしまったようなのです。愛しのリオネルを無駄に不安にさせたこと、反省していますわ。


そうそう、ベルガー侯爵家というのは、私の母方の伯父の家です。紆余曲折ありまして、ご夫婦お二人で侯爵家を守っていらっしゃるのですが、姪の私にベルガーを継いでほしい、と仰ってくださったのです。


最初は継ぐものを持たなかった第二子の私と夫。あと数年したら侯爵家の養子に入り、侯爵家を継ぐ手続きに入ります。引き継ぎ、というやつですわね。ほんと、人生って何があるか分かりませんわね。


伯父様ご夫婦はまだまだお元気ですし、若いうちに夫婦二人の時間を持った方がいいと後押しをしてくださいまして、夫と私は旅に出ることにしました。


侯爵家の発展のための視察という名目で夫婦で隣国へ行き、観光はもちろんのこと、数ヶ月滞在して現地での日常生活を楽しむのが今回の旅行の目的でした。


留学が夢だった、行ってみたい国がある、というリオネルは大学の聴講生、多くの方を占ってみたい私は占い師。二人の時間も大切にしながら、やってみたいことをしよう、と盛り上がっておりました。


それに私にとっては前世で憧れだった新婚旅行のようなもの。それはそれは楽しみにしておりましたの。でも、まるでお約束事かのように、トラブルが降りかかってきたのです。最初の異変はシェーンベルグ伯爵領を旅していた時に起こりました。


王都で出会って王都で結婚した私たちは、国外に出る前に夫の故郷を最初の旅行先として選びました。結婚に伴って、夫の生まれ育ったシェーンベルグにもドレスのお店と占いの館の支店を出すことになったからでもありますわ。


出店場所や支店長の選出、縫い子さんや保育所での働き手の募集、占い師養成所から誰を派遣するのか、などと私がとにかく忙しくしていた時のことでした。


シェーンベルグ領の屋敷に里帰りした夫、リオネル・クリスタル、そうなんです。婿養子に入っていただいたんです。愛しの夫リオネルが、私が滞在しているホテルに戻ってきたその時、最初の異変を感じたのです。


実家に帰って家族との団欒を堪能し、親孝行に勤しんだハズの彼。シェーンベルグ伯爵家の家族仲はとても良いのです。和らいだ顔で帰ってくるとばかり思っていた私は、忙しさを理由に夫に同行しなかったことを悔やみましたわ。帰省中に何かあったに違いないのです。


「オリビアには筒抜けだと思うから、正直に言うね」

夫のこういう真摯なところが堪らなく好きです。そう。隠すだけ無駄なのです。私には最強のアドバイザーはるかがいるのです。はるかは私の知らぬどこか彼方から水晶玉を通して私にメッセージを送ってくれます。


残念ながら具体的なことは伝えてはきませんが、前世の知識を共有している私には読み解きやすいメッセージ。幼い時は会話もできたのですけれど、今は水晶玉を通してメッセージを受け取るのみ。少し寂しいですが、仕方ありません。


さて、最愛の夫はその後こう続けたのです。

「最初のお見合い相手で、僕を罵倒して帰った挙句、有る事無い事言いふらしたシャンタルという女性がいるんだけど、その人が僕がベルガー侯爵を継ぐと思い込んで何か企んでいるらしいんだ」


そう言えば、縫い子さんや保育所の働き手のことで打ち合わせていた時に、何か変な空気が流れたことがありましたわ。市井に何か噂を流したのかもしれません。


「シャンタルという方は市井の方?」

「さすがオリビア!そうなんだ。シェーンベルグで一番大きな街、クレンベルグの市長さんのご息女なんだ。当時は貴族になれると思って僕とのお見合いに来たらしくて、僕が家を継ぐ気はないと聞いた途端に僕のことを罵倒して帰った気性の激しい女性なんだ。その後も嘘つきだの性格が悪いだのと本当にしつこかった。僕は嫌われていると思って気にしていなかったんだけど、何故か今の僕と結婚する気満々なんだって。僕にはもう最愛の妻がいるのにね」


真っ赤な顔でリオネルがそう言うものですから、私の顔も赤くなってしまいました。夫のこういうところも好きですわ。私への想いを真っ直ぐに伝えてくれます。


それに嫌な事をした方を恨んだり嫌ったりしない懐の大きさ。私は心の中でウジウジ考えてしまう方ですから、夫が心底羨ましいですわ。切り替えも早いですし。


「それは災難でしたわね。久しぶりのご家族との大切な時間でしたのに」

「うん。伯爵家にもしつこく訪ねて来たようで、何度説明しても分かってもらえなかったそうなんだ。それで、オリビアが忙しいところ申し訳ないんだけど、一度伯爵家に顔を出してもらえないだろうか」


「もちろんですわ。元々ご挨拶に伺おうと思っていたところですし、大切なあなたのご家族ですもの。早いうちに」


「早速で悪いけど、明日にでもお願いできるだろうか。明日兄と少し家から離れた所に行かなくてはならないんだ。兄によると、母はかなり参ってしまったそうなんだ。僕の前では明るく振る舞っていたけれど、今回の騒ぎで当時僕がどんな嫌がらせを受けたのか知ってしまって」


「お義母様のお気持ち、お察ししますわ。息子が受けた仕打ちを後から知った辛さ、隠していた息子のいじらしさ、日常を揺るがす狂気の女性。お辛いでしょうね」


「今回は偶々兄が領地にいる時で助かったよ。母は短い夏を楽しむために領地に戻ったというのに、気の毒で」


「分かりましたわ。実は、伯爵領で展開する事業の件でお邪魔しさせていただこうと思って、元々仕事の予定にも入っていたのです。善は急げですわ。バスチアンと相談してまいります」


「ありがとう。心強いよ。バスチアンにもよろしく伝えてくれ。ああ、彼に領地のブランデーを贈らせて」

「お心遣いありがとうございます。もうすっかりリオの方が彼の好みを熟知していますわ。ふふ。ではのちほど」


バスチアンというのは、私の有能な執事ですの。彼は諸々の調査も上手で、得難い私の右腕です。最近ではチラッと目線を送っただけで私の意図を読む、なんて芸当も身に付けています。ある意味恐ろしい男です。


彼は私とリオネルよりも数年早く生まれた方で、貴族の家の出身です。色々あって市井に出奔。そこでもまた色々ありまして、なぜかオリビア至上主義者になりましたの。


最初は空回りしてこれまた色々ありましたけれど、今では有能執事。成長力が半端ありませんでしたわ。今では人脈が豊かなカリスマ執事。彼に何があったのかはいずれまたお話しますわね。

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