83 戦争と周辺諸国
「で、なんでこうなった?」
カインズのギルドの個室でギルドマスター、女サイクロプスことマルディローズがライトに聞く。
「怪我していたから助けた」
「まあ、そうだろうな」
こともなげに言うライトにマルディローズが呆れのため息を一つ漏らし、
既にカモフラージュを解いているエルフことオカリナに視線を戻す。
「一応聞くが、紅星流のエルフ、オカリナだよな」
「ああ、かつて人の子等にそう呼ばれたこともあったやもしれぬな」
「くれないせいりゅう?」
「えええぇぇ!たしか、開国の王に助力したエルフの2つ名だヨ」
「昔のことだ」
オカリナが鼻で笑う。
「どういうこと?」
「この国が帝国から独立するときに争いが起きないよう何かあったらメテオを落として協力するってエルフがいたらしいヨ」
「オカリナがそのエルフってこと」
「そういうことだ、今でも王都の近くにその岩がある」
マルディローズが引き継ぎ続ける。
「あんたが動いて来たってことはそういうタイミングってことだな」
「タイミングとは?」
「ああ、先日、エミドラル公国の辺境の小領がゴルドヴェルナ聖教国に飲み込まれた」
「戦争ってこと?」
ヨークが戦慄を覚え質問する。
「まあ戦争だが、戦いにすらなってない、10倍以上の兵力差で文字通り飲み込まれた」
「10倍ってなんでそんなに・・・」
「貴族や兵隊だけじゃなく、農民兵も多く加わっているからな・・・
何か関係あるんだろう?」
マルディローズがライトに説明し、今度はそっちの番だと言わんばかりにオカリナを見る。
「いかにも、聖教国の輩が我らエルフに手出ししておるが、それだけではないな」
マルディローズが頷いて一呼吸置いてから口を開く。
「奴らはリ・コンクエストを叫んでいるらしい」
「愚かな・・・」
オカリナが怪訝な表情をする。
「リ・コンクエストって?」
ライトがマルディローズに聞きく。
「領土再奪還、最悪な侵略戦争だ」
「普通の戦争とどう違うの?」
今度はヨークが聞く。
「普通の戦争があるかわからんが、貴族がいる場合は領土的野心のみで住民を殺さず兵士だけが戦う、
民族紛争や今回の戦争では侵略した土地の人々は男は殺戮と良くて奴隷、女は子供を産むために使われる。
ミズガルズ大陸の元々の意味は人が住む場所と言う意味だ。
先の大戦もそうだったが、
全ての土地を取り戻すまで兵士が死ぬまで狂信的に際限なく戦い続け、
ほおっておいたら、エルフ、ドワーフ、獣人たちを殺し続けるだろう」
その言葉にその場にいる全員が背筋に冷たいものを感じた。
マルディローズの説明によると、
ここ数年、大陸の最北に位置するゴルドヴェルナ聖教国の民は重税と食糧難に苦しんでいて、
その不満を土地を奪って北に追いやった南方諸国やエルフ、獣人の所為だと言い出し、
春小麦の収穫時期を見計らって攻め込んできたのではないかとのこと。
「ふん、くだらぬな」
オカリナが切り捨てる。
「ああ、こいつは建前で裏がある。
そう言うことでトゥトに探らせているが・・・・」
「為政者の扇動じゃ」
「恐らくな、それも含めてのリ・コンクエストだ」
「大方、人が多くなり過ぎたか、おのが短命に臆したのだろう」
「どういうこと?」
「エルフは世界樹の実を食べることで長寿になったといわれているんだヨ」
今度はヨークが教えてくれた。
「人が多くなると食糧が多く必要になるわな、それを自国で賄えないとなると」
「戦争になる・・・とどうなるの?」
ライトが2人の大人に問う。
「飢えた軍が戦争に勝ったためしはないが今回は被害が大きくなりそうだ」
「理を弁えん愚者を排除せねば愚行を繰り返す」
「簡単に言うとゴルドヴェルナ聖教国の王さまがバカだってこと?」
黙って聞いていたリータが焦れたように聞くと
「「そうだ」」
エルフとギルマスの声が揃った。
「ミズガルズ大陸?」
「そうだヨ、この大陸にいくつもの国があって私達が住んでいるのがリンカーナ王国」
ギルマスとの会合のあとに地理の勉強をすることになった。
「その北に帝国があるんだよな」
ケリーが知識を披露する。
「うん、ヴァンダル帝国だヨ」
「他にどんな国があるの?」
ライトの問に
「帝国の北に位置するのがゴルドヴェルナ聖教国、その南西にエミドラル公国、
その南にセェヘ・ニューベーメン、西に進めば我がハイドランドがある。
帝国の東にノヴゴロゴ自治区があり、その南にファーレン小国群がある」
オカリナが丁寧に教えてくれる。
「かつて、ミズガルズ大陸には人族だけが住んでいたんだヨ
ある時ゾルティアルっていうお星さまが4っつの欠片を落として行って、
それぞれの欠片が北に光、南に闇、東に争い、西に命の源になったって言われているヨ」
「神話じゃな」
「そうそう、その欠片が元で魔力が生まれ、北はそのまま人族に、南は闇の魔族、東は火と土を司るドワーフ、西は水と風を司る長命のエルフになったってわけだヨ」
「獣人は?」
「他の大陸から渡ってきたとか、魔族とエルフが魔法で生み出したとか言われてるヨ」
「へー!ヨークは物知りだね」
「最近、勉強しただけだヨ」
「ヨークは我に古エルフ語もよく学びに来るぞ」
ヨークが2方向から褒められて少し赤くなる。
「エルフは風と水を司るのにオカリナはなんでメテオを使えるの?」
ライトが疑問をオカリナに投げかける。
「お、良くぞ気づいたな、我の母上の父君がドワーフでな、
その血が色濃く出たようで目が紅色のエルフは我一族以外にそうは居らんじゃろうて」
オカリナは愉快そうに笑みを浮かべ、
「だからギルマスはすぐにわかったのか」
ライトも納得して笑顔になる。
「じゃあ、まとめだヨ
人族がリンカーナ王国、帝国、ゴルドヴェルナ聖教国、攻め込まれたエミドラル公国。
ドワーフがノヴゴロゴ自治区、
エルフがハイドランド、
獣人族がセェヘ・ニューベーメン、
魔族と人族が共生しているのがファーレン小国群だヨ」
ヨークが手書きで地図を書きながら位置関係と種族を書き込んでいる。
書きあがった地図の最南端をオカリナが指さし
「ここに魔族の都、リヴァがある」
と意味ありげに告げた。




