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80 6度目

「母さん!」「お母さん」

ライトが叫び、ティファが駆け寄りエレナの手を握る。


「産まれそう・・・」

エレナが呻くように絞り出す。


「陣痛が始まったな、ベットへ

ライトはルー婆さんを呼んで来い!」

タイラーがエレナを支えながらライトに指示を出し、

ティファはエレナの手をゆっくりと引いていく。


「わかった!」

ライトは駆け出していく。


「手伝います」

ヨークがタイラーの後を追いながら言うと

「お湯をたくさん沸かしておいてくれ」

「わかったヨ」

ヨークは了解し、キッチンに向かう。



「テーブルを片付けるぞ」

アルマンドの言葉にリータが無言で頷き動き出す。

残った肉は一つの大皿にまとめ、空いた皿をケリーが回収している。



ダンダン!

ライトが木の扉を叩く

「お婆さん!母さんが産気づいた!」

扉が開くのを待たずにライトが家の中に向かって叫ぶ。


扉が開くとしわくちゃなお婆さんが出てきて、

「おや、ライト、帰ってたのかい」

「うん、それより、母さんが!」


ライトはその場で足踏みをしながら待っているが

「予定より少し早いね。

慌てなさんな、そうすぐに産まれたりしないよ。

準備するから、ちょっと待っといで」

ルー婆さんはマイペースなのでライトとの温度差が凄い。



ライトが家の外で足をバタバタさせながら待っていると、

お婆さんは家の中から椅子を運び出してきた。


「それは?」

「分娩椅子さね、これに腰掛けて子供を産むんだよ」

ライトが知らなくても仕方がないが、ライトの目から見ても綺麗に見えない。


「ちょっと綺麗にしてもいい?」

「ん?」

お婆さんの返事も待たず、ライトは椅子を外に出してクリンの魔法を使用する。


「おお、なんだいそれは!」

「綺麗にする魔法」


椅子は3度、水流に流されて温風によって乾かされる。

使用した水が汚れで濁っていたので、ライトは綺麗になったことに安堵する。


「あれま、便利な魔法だね」

「おばあちゃんも綺麗にする?」

「やだよ、恐ろしい」

「じゃあ、手だけでも」

そう言ってライトはお婆さんの両手を引っ張り、肘までクリンの魔法を使用すると、

目に見えて肘から先が綺麗になる。


「おや、これは気持ちいいね」

ルー婆さんも喜んでいる。


「椅子を運べばいい?」

「ああ、よろしく頼むよ」

ようやっと家に向けて出発である。



バン!

ライトは片手で家の扉を開け、椅子を中に引き入れる。


「母さんは?」

「ベットに移動したヨ」


ライトは椅子を持つ反対の手でお婆さんの手を引いてベットルームに向かって行く。


「ライト、綺麗な布をたくさん出して」

後ろからヨークの声が投げかけられた。


「わかった」

ライトは前を向いたまま、口だけで返事をする。



部屋に入るとエレナがベットで汗をかいて苦しそうに呼吸をしている。

その右手をタイラーが左手をティファが握っている。


ライトは椅子を置き、ルー婆さんを母親の前に押し出すように手を放し、

マジックバックから布をたくさん取り出して、ベットの横のテーブルに重ねて置いていく。


「さあ、男どもは邪魔だから出ておいき」

お婆さんがタイラーとライトを見ながら言い、

タイラーが

「ティファも出るぞ」

と声を掛けると

「や!でない」

そう言って母親の手を握って顔をじっと見ている。


「ティファは良い、母を元気づけてやれ、あと、さっきの元気な娘を呼んどくれ」

「元気?」

「布を出せと言った白もじゃの娘じゃよ」

「あ、はい」

そう言ってライトはベットルームからでる時に母親の顔をもう一度見るが、

息も絶え絶えに苦しそうにしている。


「いくぞ、ライト」

タイラーに促されて、追われるように部屋を出る。


「父さん・・・」

いたたまれず、父にすがるように視線を向けると

「エレナは大丈夫だ、慣れてるからな」

寂しげな笑顔が帰って来た。

「慣れてるって僕とティファの2回でしょ」

「いや・・・・今回で6度目だ」

「え?」

ライトは意味が解らない。

タイラーはそのまま歩みを進め、皆のいる部屋へと戻っていく。

ライトは思考が停止したまま、おぼつかない足取りでみんなと合流する。

「「ライト」」「主」

そんなライトの姿を見てパーティーメンバーが声を掛けてくる。


「ああ。ヨーク、ルー婆さんが呼んでる」

「え、私・・・わかったヨ」

「自分も」

そう言ってヨークとケリーがお婆さんの手伝いに行った。


ライトがふと壁の方を見るとケリーに少し似た女性が立っていた。

目が合うと

「ライト、我だ」

「・・・オカリナ?」

「わたしのお母さんに似てると村の人が驚くでしょ」


偽装魔法(カモフラージュ)の経緯をリータが説明してくれたが、ライトはやや上の空だ。


「じゃあ、私たちは家に戻るわ

手が必要ならいつでも言ってよね」

それだけ言うとリータは父親を伴って帰って行った。


ライトは我慢できず、確信に迫るために口を開く

「父さん、6度目ってどういうこと?!」

いつになく口調が強くなってしまう。


椅子に座り、テーブルに肘をつき、頭を抱えるようにしていたタイラーが

重々しい口から


「最初の子は死産だった


2人目は冬を越えられなかった


3人目はお前だ


4人目は流産した


5人目がティファ


今回が6度目だ」


タイラーはゆっくりと過去を振り返るようにライトに伝える。


ライトは知らなかった事実を聞かされたが、心が追いつかない。


いつの間にか背後からオカリナが近づき、ライトの肩にそっと手を置いてくれた。


ライトの心に急に感じたことのない不安が広がり、通路の奥の扉を見る。


視界には暗闇の先の閉ざされた扉が映っていた。

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