9 ウリ坊
「ライト、さっきのアレはなに?」
ひとしきり泣きはらし落ち着きを取り戻したリータがライトに疑問を投げかける。
「魔法、本当は内緒なんだ」
「あのデカ物を一撃でたおせるなんて凄い威力だよ」
話はじめるとますます興味がわいてくる。
「うーん」
ライトは顎に手を当てて思案顔だ。
「何よライト、さっさと全部吐いちゃいなさいよ」
リータはすっきりしたのかもうほとんど完全復調だ。
「とりあえず装備と採取籠を回収しない」
ライトは一旦話を棚上げして別の提案をしてみた。
「いいけど、簡単には逃がさないわよ」
リータはニタニタ笑顔でライトの瞳を射抜くように見つめる。
「うん、そうだね」
ライトは曖昧な返事をして投げ出してきた背負い籠のほうに歩きだす。
幸いにリータの弓と矢筒は損傷もなく回収できた。
二人で背負い籠の近くまで行くと籠が独りでにゆさゆさと揺れている。
リータに緊張が走り、猫足立ち腰を屈め背負い籠の周辺を凝視する。
「あ、ウリ坊だ」
緊張感の欠片もなくライトが隣でそう言って駆け出す。
「ちょっと!」
リータは右手を伸ばしかけ注意喚起のつもりで言おうとしたがあまり意味はなさそうなのでライトの後を追う。
籠に付かづくとライトの手のひらよりも少し大きいウリ坊が二匹籠に鼻を擦り付けている。
「おいしそう」
ライトの目が輝く
「あんた!何言ってるのよ、て、そうかあのデカ物はこの子達を守る為に、、お母さんだったんだね」
リータの母親はリータが産まれてしばらくして亡くなっているのでお母さんという単語には敏感に反応してしまうところがある。
リータはライトの機先を制して籠に近づくと一匹はリータに気づき驚いて距離を取る。
もう一匹は何が起こったかわからなかったかのようにリータの顔を一度見てもまた籠に鼻を擦り寄せている。
「これが欲しいの?」
そう言って勝手知ったる他人の籠の中からブラックベリーを取り出してウリ坊の鼻先に差し出す。
ウリ坊は鼻先で一度スンっと匂いを嗅ぐとハムハムとブラックベリーを食べてすぐにリータの顔を見る
「お腹空いているのね」
そう言ってリータは籠の中からブラックベリーをわしっと掴み上げ一つまた一つとウリ坊に食べさせていく。
それを見ていたもう一匹のウリ坊も警戒心を持ちつつも少しづつ近づいてきた。
「ほらあなたもおいで」
そう言って手のひらにブラックベリーをおいてもう一匹のウリ坊の前に差し出す。
恐る恐る近づいてくるウリ坊をリータは優しく見守っている。
近づき離れてを数回繰り返して二匹目もようやくブラックベリーを食べ始めた。
「ほらライトも」
そう言ってリータはライトに向かってブラックベリーを差し出す。
「僕が採取したやつだよ」
ちょっとだけ抗議のニュアンスを込めて言ってはみたけど多分意味はない。
ライトもウリ坊にブラックベリーをあげながら自分の口の中にもいくつか放り込む。
「すっぱぁ」
プチプチとした食感の直後に強い酸味がし後味に少しだけベリー特有の甘さと香りが鼻に抜ける。
「リータ、ちょっと相談があるんだけど」
ライトはリータに目を合わさずにウリ坊のほうを見たまま告げる。
逆にリータはライトの方に身を乗り出す勢いで
「お姉ちゃんになんでも話してみなさい」
そう応えた。
お腹一杯になったのか二匹のウリ坊はリータの隣で寄り添うように眠っている。
リータはそんな二匹の背中を撫でながらライトに言う。
「大体の話はわかったわ、で、これからどうするの?」
ライトはムーとの出会いと一連の出来事をリータに話して聞かせた。
「あのデカ物を放置はできないからね、父さんを呼んで荷車を牽いてくるよ、上手い言い訳があるといいけど」
村の食糧としての価値を考えるとあのデカ物を倒して放置することはできない。
ではどうやって倒したかと聞かれるとライトにはごまかし方が思いつかない。
「それならこういうのはどう?」
リータがニイィと悪い顔をしながら考えを教えてくれる。
「流石いたずらっ子」
「なによ、あんたの為に考えたんじゃない」
腕を組み顎をそらしながらいう。
「うん、ありがとうリータ」
ライトは素直にお礼を言うとリータは顔をそらしたままだったが耳が少し赤くなっていた。
「そうと決まれば!」
照れを振り払うようにリータは腰の解体用ナイフを抜き放つ。
「できる限り血抜きをしとかなきゃ、ライトは一人で村まで戻れる?」
「全然平気、ここも庭みたいなもんだよ」
「じゃあひとっ走り村までいっておじさんと荷車をお願い」
「うん、わかった、そっちこそ一人で平気?」
「バッカにしないでよ村一番の狩人の娘よ」
二人はある程度の打ち合わせをして肘をぶつけ合って別れた。
籠の中はブラックベリーを一旦全部だして今はウリ坊が二匹お休み中だ。
シュタタタタ
なんだろうか、足取りが軽い。
リータが秘め事を聞いてくれたからだろうか
たくさん泣いたからだろうか
本当のところはライトにはわからなかったが心が軽く初夏の空気もいつもより澄んでいる気さえする。
魔法を使っても先日ほどの重苦しさは全然ない。
「魔法は使うほど魔力は増える」
どんどん魔法を使ってもっと魔力を増やしたいなぁ
あのデカ物をやっつけられるなら次はどんな奴をやっつけられるんだろう。
などと自分の未来にワクワクしながら思いを馳せる。
そんなことを考えているとあっという間に村の入り口が見えてくる。
ライトはまったく減速せずに自分の家の前まで走って来ると勢いそのままにドアを開ける。
「ただいま!父さんいる?」
「おかえりライト、父さんなら納屋で道具の手入れをしてると思うわよ」
「お兄ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
母親とティファは豆を皮から取り出す作業をしていた。
「急いでるから話はあとで!ティファこれの面倒見ておいて」
ライトはそう言って籠の中からウリ坊二匹を取り出しティファに渡す。
「わー、おいしそうなウリ坊!」
ティファのテンションが上がる。
「今日の夜はカラアゲ鳥ともしかしたらもっとご馳走がでるかもよ」
それだけ言ってライトは駆け出していくのだった。
世話係就任のティファはウリ坊たちの名前を考え中