73 キノコと魔法陣
夜の街道を魔獣と冒険者パーティーが走る。
魔獣の上には足に傷を負ったエルフ、オカリナが跨っている。
リータが先行し人目を避けての移動だが、まるで人気はない。
田舎の農村では日の出と共に行動を開始し、日暮れと共に仕事を終え、夕食を食べて暗くなれば寝るのが普通である。
「傷は大丈夫?」
ライトがポポの上のオカリナに尋ねる。
「我もポポも大事ない、ライト達の手当のお陰だ」
「ガウ」
オカリナとポポが返事をする。
「それなら良かった、あと村3つ分だからね」
狼の遠吠えが聞こえる。
森を抜け、丘を越え、小川を跨いで、街道沿いの村を迂回して走る。
先行するリータの足が止まり、ライトの足もゆっくりになる。
「アカマット村の匂いだ!」
ライトは大きく息を吸い、胸の中にその匂いを取り込むと僅か1年足らずで帰って来たのに
懐かしさを感じる。
「ここがライトの村?」
「そうだよ、ようこそアカマット村へ」
「主が育った場所か~」
「まだ、村の外れよ」
「多くの精霊が住まう良い森だ」
「ガウガウ~」
寝ていないせいもあるのか、皆のテンションが高い。
だが、すぐには村に入らず、ポポの居場所を確保するために森の奥へと向かう。
「ここまで来れば・・・ライト」
生活魔法のライトを使って明かりを灯す。
「私、夜の森に入るの初めてだわ」
「僕もだよ」
リータとライトの2人にとっては歩き慣れた道のはずだが、見慣れない世界へと続く道に感じられた。
お互い、1人では怖くて歩けないとは言わない。
ただ、夜の森は驚くほど静かなのは野生の本能が魔獣を感じて息を殺しているからだろう。
一応、迷うことなくキノコの絨毯まで行くことができたので、ポポを招待する。
「こっちだよ」
「ガウ~」
呼ぶとマンティコアの巨体が藪を飛び越えて絨毯に着地する。
「好きに食べていいからね」
そういうライトにポポは主人のオカリナの方を見る。
「頂きなさい」
オカリナの声を聞くとポポはライトに歩みより顔を擦り付けて感謝の意を表す。
「ガウゥ」
「ライト!」
ヨークがライトを呼ぶ。
ヨークが指さす先にマジックプルチーニ茸がある。
暗闇の中でも、目敏く・・・いや、片眼鏡を使って見つけたようだ。
オカリナも近づいて来て自身のポーチから瓶を取り出すと
「エルフの水の残量からして、飲み薬を3本ほど作れる」
それを聞いたヨークの顔に花が咲いたような笑みがこぼれ、指を組み、きょろきょろと赤魔茸を探し始める。
オカリナもキノコの豊富さに目を見張り、見分をしていたが
「ライト!」
今度はオカリナがライトを呼ぶ。
オカリナの指さす先の大きな岩が棚のようになっている場所に網状の笠に包まれるようなキノコがある。
「何?」
「プリンセスギリンザーグ・・・」
DKの女性陣もやってくる。
「ギリンザーグ姫茸だヨ」
ヨークが片眼鏡に手を掛けながら言うと同時に
「ライト殿、頂いてもよろしいか?」
オカリナがライトの肩を掴んで聞く
「いいよ」
「かたじけない」
オカリナはそう言って手で感謝のポーズを作り目を閉じる。
「これは何につかうの?」
ヨークが聞くと
「秘伝なので他言無用で願う、エリクサーの材料の一つだ」
「えりくひゃー」
ヨークがのけ反って倒れそうなのをライトは支え
「エリクサーって?」
「万能薬の上位互換、全能回復だ」
「究極の薬だヨ、無くした腕でも足でも生えてくるヨ」
「ただ、人族には劇薬だ、粗悪品だと短命が更に縮む」
「そうなんだ」
脳筋の2人が向こうで大型猫と戯れている。
「オカリナは作れるの?」
ヨークが問う。
「いや、材料が数種、足りず、戦後に作られた実績は我らにはない」
「・・・そうか~だから、ムーが欲しがったのか~」
あっけらかんとライトが話すがオカリナの目の色が変わる。
「これらの素材を欲した?」
「うん、師匠の師匠が探して来いって言ったらしいよ」
「恐らく、それは人の子ではあるまい・・・」
「それってライトに魔法をくれた師匠の話?」
「そうだよ」
「魔法をくれた??」
「ライトの魔法は特殊なんだヨ」
ヨークが左手を伸ばしライトの真似をする。
ライトもヨークと同じ格好で闇夜の虚空に向けて魔法を放つ。
「サンダーボルト」
「な!?」
オカリナがライトの左手に光る魔法陣を見て驚愕の声を上げライトの手を取る。
オカリナの握る手からは何らかの魔力が流されていてライトの左手の魔法陣が浮かび上がっている。
オカリナはしばらくその魔法陣を眺めていたが
ファーっと大きく息を漏らしライトに向かい直る。
「この魔法陣は我らエルフの物よりも数段階、緻密かつ精工に創られている」
そう言ってフルフルと震えている。
オカリナの話では人避けの結界で用いた魔法陣の5倍くらいの容量があり、保管の術式も組み込まれているという。
「どれほどの研究が進んだというのか見当もつかない」
そのことがオカリナは恐怖だと零す様に言った。




