72 エルフの事情
夏に向けて、日が伸びて行くのを感じる夕暮れ
スエビの森の峰の裏
翼と鬣を持つ大きな猫の様な魔獣、マンティコアのポルポローネが前足を投げ出し、
顎を地に着けて目を閉じて、寝息を立てている。
その鬣の後ろに背をあずけ金髪、長い耳、全面の空いた異国の緑の服を着たエルフ、オカリナが休んでいる。
「これで全部ね」
リータが2か所の人避けの結界から魔石を回収して来た。
「おつかれ~」
ケリーが歩哨に立ち、ヨークはオカリナとポポを看て、ライトは料理をしていた。
以前、リンドンで食べたタンシチューが美味しかったので、
真似てキノコとグレートボアのタンシチューに挑戦中である。
ライトが食材に赤魔茸とマジックプルチーニ茸を使おうとしたらヨークに
「お願いだヨ」
と涙目で止められたのでシチューには入れられなかった。
ライトは何度も味見をしながら入念に味を調え、
「出来た!7種のキノコとボアのタンシチュー!」
そう言って人数分の皿にシチューを盛り付ける。
「良い匂いだヨ」「腹減った」「ライトにしては美味しそう」
そう言って女性陣が寄ってくるので皿と匙とパンを手渡して、
オカリナの所にも料理を届ける。
「食べれますか?」
ライトが声を掛けるとオカリナは目を開けて
「ああ、頂くとしよう」
そう言って皿を受け取り、切れ長の目を丸くする。
「美味そうだが、次からは半分で充分だ」
と言う。
ライトの盛り付けは元々多い冒険者食よりも更に多いので細身のエルフには似合わない絵面である。
オカリナを囲むようにみんなで座り、話をしながらシチューを食べる。
「ハァ、身に染みるヨ」「森の香りがするな」「ゴロゴロの肉がいいわね」
「食物の滋養が濃密で混然と調和が愉快な料理だ」
女性陣には概ね好評のようだ。
ケリーとリータはお替りをして、オカリナは半分ポポに手伝ってもらっていた。
腹もくちくなったので話題はオカリナの話へとなっていく。
「200年前の戦争から僅かに増加していた人口が近年のエルフ狩りや人族の浸食により激減している」
「戦争」「エルフ狩り・・・」
ライト達の聞きなれない言葉ばかりだ。
「戦争って種族間大戦?」
「ああそうだ、エルフ、ドワーフ、獣人族、魔族、そして人族との大戦争
そして、戦後の約定を違えてエルフの森に踏み込む輩が非道の限りを尽くしている」
「約定?」
「我らエルフと人族は不戦不干渉だったのだが新しい王や国ができてからは守られていない」
中でもゴルドヴェルナ聖教国からの迫害が酷いらしい。
「それで王さまに謁見したいんだね」
「いかにも」
「王さまって何処にいるの?」
「リンカーナ王国の王都リンカーだヨ」
戦争、迫害、王都・・・オカリナに出会わなければ、ライトの知らないことばかりだった。
「何で戦争って起きるんだろう?」
ふとライトが口に出す。
「欲」
エルフが短く答える。
「欲?」
「ああ、森にも畑にも食物が無く半月後に死ぬことがわかっていたら座して死を選ぶことはできまい」
「隣の村から奪おうとする奴がいるな」
ケリーが応える。
「そう弱肉強食。国が大きくなり善政を敷けば分け合うこともできるだろうが、隣国で金が沢山取れるようになる、豊かな土地がある等、それを奪い合う戦争や侵略が始まる」
「国の武力、軍事力が大きくなるヨ」
「そうだ、優秀な武具を制作するドワーフの国は初は富を得、後に危険視されて攻め滅ぼされる」
「それが200年前の大戦争・・・」
ライトの言葉にエルフが無言で頷く。
「生きる為、飢えを凌ぐ為ならば仕方なかろう、生けるもの全てそうだ、だが、守る為、奪う為を理由に武力を使うならば滅びるまで争うしかなくなる」
「でも戦争はエルフが勝ったんだよね」
「どうだろうな、沢山の同胞、我が両親も戦争で死んだ」
沈黙と冷たい風が身を刺す。
「どうやって戦争は終わったの?」
「エルフが魔法で王宮を吹き飛ばしたんだヨ」
ライトの質問をヨークが答え、
「軍を吹き飛ばしても、街を焼いても、戦争は終わらなかった・・・愚王の身に危険が迫るまで・・・両者の犠牲は大きい」
オカリナが真実を証言する。
「我らは長命ゆえ、争いは好まん、魔力も多く魔法も強力だ
しかし、長命が為、繫殖力が乏しく同胞は増えづらい
人族は短命で繫殖力が旺盛で膨大に増え膨大に死ぬ
生き急ぎ死に急ぐ、他よりも奪い合い殺し合う」
「わかる気がするヨ」
「守る為って言って森の動物を狩りつくしたら森が滅びるわね」
「奪われない為に守れっていつも父さんが言っていた」
そう言ったライトだが、強い力を使わないマルディローズのイメージが湧いてきた。
「オカリナの両親が戦争でってことはオカリナは戦前産まれってこと?」
ケリーの質問にはオカリナは不敵な笑みを返すのみだった。
「すげー200歳以上ってこと!」
ライトの言葉にヨークの肘とリータの蹴りがライトを襲った。




