閑話 俺のねーちゃん
俺だけのねーちゃんがある日を境に女になった。
母さんが体の具合を悪くしてから、何かと必死に家事や採取をしていたんだが、
最近は、ボーっと空中を眺め、突然、ニヤニヤしている時がある。
気に入らねー
それもこれもあの鹿の骨野郎の所為だ。
ねーちゃんがアイツと出会ってから確かに食事は良くなって毎日のように肉を食べられるようになった。
そのおかげで母さんの体調が少しよくなったんだが、
ねーちゃんが色気づきだしやがった。
楽しそうに身だしなみを整えて、出かけるときもなんかイソイソとしてやがる。
そして、帰ってくると、いつもアイツのことを凄い魔法使いだの、強くて優しいだのと母さんに報告してやがる。
笑顔が増えて、可愛いさも増したんだけど、男の為だと思うとむしゃくしゃする・・・
母さんも母さんだ、貰ってもらえないかだなんて・・・
ねーちゃんはものじゃねえっつーの。
ある時聞いてみた。
「母さんはねーちゃんがアイツと結婚したほうがいいと思うの?」
「母さんはヨークに幸せになってもらいたいんだよ。アレは頭は良いけど、不器用だからね」
「アイツはねーちゃんを幸せにできるの?」
「幸せってのはね、してもらうんじゃなくて、なるもんなんだよ」
(ねーちゃんの幸せ・・・考えたこともなかった)
「俺はどうすれば、ねーちゃんが幸せになるかな?」
「そんなの簡単さ、ヨークより強くなってしっかり金を稼ぐことだよ」
「ねーちゃんより強く??」
「ああ、アレは父さんが大好きだったからね、強い男が好きなんだよ」
「わかった」
俺はその日から父さんの槍を持って川に行き、自己流で槍を振った。
大木を打ったり、川で魚を突いたり・・・
最初は身体があちこち痛かったがねーちゃんが強い男が好きだと聞いて頑張った。
そうすると、日に日に身体が強くなっていくのが自分でもわかった。
振れる回数が増え、突きが鋭くなっていく。
楽しい!強くなるのが。
冬も終わりそうなある日
遠征から帰ってきたねーちゃんに声を掛ける。
「ねーちゃん!勝負しよ」
「どうしたのホーク?」
「ねーちゃんを倒す!」
「ホークには無理だヨ」
「やってみなけりゃわからないだろ!」
「はいはい」
久しぶりにちゃんと話をしたけど、なんか大人っぽくなってないか・・・・?
でも、勝負だ!
俺は槍を持って外に行く。
ねーちゃんは手ぶらで付いてくる。
「ねーちゃん、盾とメイスは?」
「なくても問題ないヨ」
「あんまり舐めてると痛い目にあうよ」
「あったら考えるヨ」
俺が門の外まで行こうとしたら、ねーちゃんが寒いからそこの空き地でいいヨと言ってきた。
完全になめられてる・・・
「いくぜ!」
「いつでもいいヨ」
ねーちゃんは右手だけ前に出して手招きをする。
「ハ!」
俺は地面を蹴って腰を落とし、槍を引く。
「あれ、思ったより、ちゃんとした構えだヨ」
「今ごろ気づいても、もう遅い・・ぜ!」
突くのは気が引けたので横薙ぎで打つ。
パシっ
ねーちゃんは前に出していた右手の掌だけで槍の勢いを止める。
俺は槍を引いて今度は遠慮せずに突きを繰り出した。
「ハ!」
「遅いヨ」
ねーちゃんはまたしても右手一本で今度は槍を掴み、捻りながら左右に振って俺から槍を取り上げた。
「おねーちゃんにはいいけど、他の人に槍を向けちゃ駄目だヨ」
そう言って槍の柄でコツンと頭を叩かれた。
「イデっ!」
俺は両手で打たれた頭を押さえ蹲る。
「おねーちゃんはこれでもE級冒険者だからね、十年早いヨ」
「十年って2つしか変わらないだろ!」
「そう思うならいつでも挑戦してきなヨ」
そう言ってねーちゃんは笑顔で手を差し出してくれる。
「次は勝つからな!」
負け惜しみを言いながらその手を借りて立ち上がるが・・・
手が硬かった。
俺も何度か手の皮が剥けて少しは厚くなったと思ったけど、全然違った。
モンスターと命のやり取りをしている本物の冒険者なんだと思い知った。
「なんで・・・・」
「ん?」
「なんで、そんなに強くなったんだよ?」
「うふふ」
「なんだよ、笑って誤魔化すなよ」
「だって、ホークにはちょっと早いんじゃないかな」
「子供扱いするなよ!」
「一緒にいたいからだヨ」
少し俯き、少し顔を赤くしながら・・・でも、嬉しそうにねーちゃんはそう言った。
決定的な一言だった。
一緒にいたいから、一緒にいれて、幸せなのか・・・・
俺だって一緒にいたい。
でも、俺のそれとは違う・・・気がする。
俺のは子供のそれだ・・・
「色ボケしやがって!次は絶対勝つ」
ゴン!
「イデっ!!」
さっきよりも強く柄で叩かれた。
「ホーク、今、なんていったのかな、おねーちゃんにもう一回、いってみてヨ」
背筋がぞくっとして腕に鳥肌が立つ。
「誰?俺のねーちゃんは?」
「ここにいるヨ、でも、ホークには教育が必要みたいだヨ」
俺は人生で初めて、本当の恐怖を知った・・・。
俺をいたぶる度に変な笑顔で・・・いや、あれは・・・忘れよう。
12歳になった日
俺は母さんの勧めで衛兵の見習いに志願することとなった。
少しでも早く、ねーちゃんより強くなって守れるように・・・なる・・・のだろうか?




