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66 火酒、もう一杯

宝箱からの硬貨を回収し魔法陣に全員で乗って入り口に戻ると外は既に夕暮れ時だった。


ゲートで帰還登録をして外に通じる道の端から声がかかる。

「ナーラ?」

見るとライトより少し年下の男の子や女の子がナーラに見入っている。

察するにナーラのキャリア仲間だろう。

「どうしたの、その装備?」

子供たちが無遠慮に近づき、武器や盾に触っている。

「ちょっどな」

ナーラはそれだけ言って歩みも止めずにライト達についてくる。


「ナーラはどうする?」

「オデはいっだん、ご主人にあっでぐる、ライドも一緒にぎでぐんねーが?」

ナーラは装備を持ち上げながらライトに同行を依頼する。

「一応、俺も行くか」「わたしも行くヨ」

ライトが返事をする前にトゥトとヨークが行くことを了承する。ライトは行くことが前提なのだろう。

結局、皆で行くことになる。



ナーラの主人の元に向かう道すがら、主人の人となりを聞いてみると

名前はマグダ、20歳くらいで商人の息子、人を使って金儲けをしているらしい・・・



ナーラの案内で向かった先はごく普通の家で看板や表札すら出ていない。

ナーラは手慣れたように扉を開け勝手に中に入って行く。

「ご主人、オデだ」

書き物をしていた青年が顔を上げ、ナーラの恰好を見て

「・・・・ナーラ?

その恰好はどうした?」

「もらっだ」

「誰に?」

ナーラの視線が建物の外にいるライトに向かう。


青を基調とした布を多めに使い長めの衣服に上流感がある、

ご主人と呼ばれた青年は立ち上がり、ライトを確認すると表にでてきて、挨拶をする。

「私はしがない商人のマグダと申します、私の奴隷がなぜ、あのような装備をいただいたのでしょうか?」

年端もいかぬ少年が高級そうな装備をなんの理由もなく自分の奴隷に譲渡したなど、意味が解らないのは当然で説明を求めるのはもっともである。

前回あった時のナーラは、何も持たず、汚い貫頭衣だけを身に着けたただの肉を運ぶだけのキャリアだったのである。


ライトは最初、道案内とオークの情報を教えてもらうために雇ったのだが、途中で武器を持たせてくれれば戦うといい、ナーラが自分から戦闘に参加し、戦果を挙げたことを説明した。

特に青いサイクロプスを2体、単独で討伐した事実はマグダを大いに驚かせた。

そして、5人でダンジョンを踏破し今、戻ってきたことを告げる。


「ちょっと待ってください、私の常識では理解が追いつかない・・・・」

マグダの言葉は本心そのままだろう。


一応、踏破の証明として、アイズストーンとボスの魔石を見せるが、それでもマグダの混乱はすぐの収拾へとは向かわない。


腕を組んで黙って見ていたトゥトが口を開く。

「ナーラはいくらで買ったんだ?」

「き、金貨2枚です」

「今日だけで、その数倍、ナーラは稼いできたぜ、運もあるがこいつらの功績もあるんじゃないか」

「たしかにそうですね」

「それだけじゃない、装備も安く見積もって金貨30~40枚はするだろう」

「そんなに・・・・」

「バトルアックスもラージシールドもダンジョンボスからの戦利品だからな

その見返りが何もなしでは商売人はやってられんだろ」

トゥトが悪い笑いを浮かべながらマグダに言い放つ。

「私にどうしろと?」

マグダの問にトゥトがライトの背を押す。

「ナーラは自由にならないですか?」

ライトは何も考えず自分の考えを述べる。

「・・・すぐには無理です」

マグダの答えにすかさずトゥトが

「ナーラにいくら稼がせたい?」

「っ・・・」

マグダが息を飲む。


ここで金貨10万枚と言っても法的には何の問題もないのだが、

トゥトはマグダの商人としての矜持を示せと突き付けたのだ。


金貨2枚で買った奴隷がただで金貨十数枚を稼げるようになり、ただで金貨30~40枚相当の装備を譲渡されて、その見返りが何もなしでいいのかといわれ、マグダ自体、訳が分からないだろう。


後日談で(ただより高いものはない)がマグダ商会の会標の一つになるのは別の話である。


「・・・金貨500枚」

顔中の汗と共に絞り出すようにマグダが言うと

「良い落し処だな」

トゥトがマグダの肩を叩く。


様子を見ていたナーラがトコトコと歩いて来て

「オデは1000枚でもがまわね、ご主人には恩がある」

全員を見上げながら大きい声で言う。


マグダは少女(実年齢22)の言葉が心に刺さる。

実際にはマグダはナーラのことをあまり大切には扱っていなかった。

所詮奴隷だと、どこかでぞんざいにしている自覚すらある。

それが一言で金貨500枚の違いを生み出してくれるのである。

数年前からのただの奴隷の少女が一回のダンジョン攻略でこうも変わるのか

その原因でありそうな少年に瞳が向く。


マグダはライトに手を差し出す。

ライトは不思議そうにその手を取る。

「ナーラの稼ぎが金貨1000枚になった時、彼女を奴隷から解放する

彼女の稼ぎの10%を彼女の収入とする

ダンジョン攻略の経費は全て私マグダ・ルーテリアが受け持つことをライトと約束する」

マグダはどの契約書よりもこの口約束の重要性を感じ握る手に力を籠める。

ライトは屈託のない笑顔で

「ありがとう」

と返す。


ぐぅー


誰のともなく腹の虫の無く声がして

「お腹空いたね」

そう言ってマグダも誘い、ブッチャーショップ・リンドンでみんなで赤いサイクロプスや上位オークの肉に舌鼓を打つ。


「火酒、もう一杯」

さっそく自分の金で火酒を頼む見た目少女のドワーフが今日の酒会の中心だったのは言うまでもない。

もう彼女の目から見る世界に色褪せた部分などどこにもない。

それは彼女の山吹色の瞳が他のDKメンバーと同様かそれ以上にキラキラと輝いていたからに他ならない。

生きる選択肢がある、選べる明日がある、そして何より、お替りできる火酒があるのだ。

幸せという語彙さえ知りえないナーラだがこの上ない多幸感に包まれながら色付いた世界でジョッキを握り少し酔いが回り笑顔でその時間を過ごしていった。

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