56 ラルシーカ地下5階
翌日、ゲートに行くとナーラは既に待っていた。
屈強のキャリアの中で飛びぬけて小さいので逆にすぐわかる。
「おはよう、ナーラ」
「お、おはよ・・・」
「「「おはよう」」」
皆とも、それなりに打ち解けてきたようだ。
ヨークもリータもケリーでさえ、お姉さん肌なのだから、
幼女風なナーラが良くされるのは自然な流れなのかもしれない。実際は22歳だが。
さっそくゲートをくぐり、階段を降りて、1階層で話をしながら歩く。
「報酬は?」
「持っで帰っだ肉の半分だ」
「ナーラはどれ位持てるの?」
「めめっご(女の子)3人ぐらいず」
ケリー達の方を見て応える。
「ヘーイ!」
そう言ってケリーが飛びついてくるのをナーラは小さい身体で軽く受け止め、
片手で持ち上げて見せた。
「おお~!やるねー」
自分の身長よりも低い高い高いをされているケリー。
「だども・・・」
そう、ライトにはマジックバックがあるので荷物持ちとしての仕事の価値はないのだ。
「ガイドでいいヨ」
ヨークのその言葉に皆が頷く。
DKの安全マージンの確保や時間効率を考えたら普通のキャリアの日当よりは余程高い報酬が支払えるはずである。
「んだば、余っでる、得物さねべが?」
「どんなのがいい?」
「斧がええんが、槍でも剣でもええ」
「じゃ」
ライトはそう言って以前拾ったバトルアックスをマジックバックから取り出し、渡す。
「どっがら・・・」
「ね、驚くヨね」
ナーラは驚きながら受け取り、素振りをする。
ビュッ
バトルアックスの石突の端を右手で持ち横薙ぎを鋭く振るうが、振り終わりに体が流れる。
「重さが足りね、ヨーグさ、ちと盾さ貸しでぐれ」
ナーラはヨークが背負っているシールドを指さす。
「はいヨ」
ヨークが背中からシールドを外してナーラに渡す。
ナーラがバトルアックスを持った右手を背中の後ろに引き、盾を持った左手を前に出す。
ナーラの細腕からは不自然なほど、有にナーラの2倍以上あろうかというバトルアックスが伸びていて、地に着く寸前で静止している。
「んが!」
気合一線、ナーラが気を吐くと同時にバトルアックスが大きな半円を描き、それに正対してシールドが小さな半円を描く。
ドゴーンッ
ちょっとした地響きが発生した。
純粋な威力としてはケリーのそれを遥かに凌駕しそうな一撃だった。
「すごーい!」
ライトが駆け寄ってくる。
「久ぶり振っだが、いい斧だず」
「手に馴染むならあげるよ」
「が!」
ナーラが口を大きく開けてライトを見てから周りを見回すが、皆、当然のような顔をしている。
ライトのマジックバックには魔石以外のドロップ品はほとんど死蔵されている。
初級ダンジョンとはいえ、裏ボスのドロップ品なのでそこそこ価値のあるバトルアックスなのだが
ライト自身、惜しむより使い道があったほうが良いのだろう。
「ライド、ありがど」
「でたヨ」「全く、女たらしね」「主・・・」
女性陣が微妙な表情をしている。
ライトの性格は牧歌的な村での生活で取り合い、奪い合いのない、逆に分け合う文化の中で育った賜なのかもしれない。
ナーラは数回、素振りをして感触を確かめてバトルアックスを背負おうとしたが、身長の倍以上あるそれは、安定性にかけ、同行者に危険がありそうだったので、ライト預かりとなり、代わりに刃部分がやや大きい手斧を渡された。
「目標は?」
「ナーラの到達最深部は?」
「12階だが・・・」
「じゃあ、そこで。それまで、敵の配置やオークの事を教えてよ」
基本、キャリアはそんなに深く潜ることは余りない。
順調に戦闘を繰り返していけば、すぐにドロップ品で荷重オーバーになり
帰った方が効率的だからだ。
仮にドロップ品をスルーしてかかる経費とリスクを考えると美味しい稼ぎになりづらい。
そして、深く潜れるほど実力が高ければマジックバックを所有しているからだ。
「危ねえだよ」
「うん、安全マージンは十分に取るよ、強さは?」
「そが、地下5階まではそっだにちげーね、数が多ぐなるぐれだ
地下6階からラングさ上がりオーグソルジャもででぐる」
地下6階以降はソルジャー、メイジ、アーチャーなど攻撃が多彩になり、オーク以外も強くなるそうだ。
「よし、6階まで急ごう!ありありで」
「了解」「おう!」「腕が鳴るわ」
地下1階から5階までは昨日の小手調べの効果もあり、スムーズな戦闘を繰り返し、それなりの魔石とドロップ肉も回収する。
ナーラから見てもDKはかなりの手練れでナーラがモンスターを視認するころにはほとんど倒されてしまう。
恐ろしいのは魔法も弓も正確無比。一撃でモンスターを屠っていく殲滅力はかつて、キャリアを務めたどの冒険者パーティーよりも圧倒的ですらあった。
「おめら、強すぎでねが?」
「D級のあたしが一番弱いくらいだからね、ちょっとおかしいんだよ」
確かに、ここラルシーカのダンジョンはC、D級の狩場とするのが一般的なのだが、
スカウトの弓っ子がF級?
ダンジョンが初めてで昨日が初戦闘なのはちょっとどころか意味がわからない。
さっき、猪型のモンスターのボアを飛び越えながら嬉しそうに仕留めていた。
階層が深まるほど木々が増え、森が深くなっていき、得も言われぬプレッシャーが少しづつ増えていく感じがする。
時折、他の冒険者パーティーが戦闘を行っているが介入が必要なことはないようだ。
ライト達は踏み固められた道を進んでいるので、ほぼ最短で階段にたどり着くのだが、6階に降りる階段の洞窟の手前でヨークがライトに声を掛ける。
「ここが気になるんだヨ」
そう言って簡易なマップをライトに見せながら、ある点を指さす。
「どういうこと?」
ライトが聞くと
「不自然な行き止まりがある気がするんだヨ」
ヨークの勘なのだろう。
「じゃあ、行こ、リータ!」
ライトが先行するリータを呼び、行先を告げる。
「わかったわ」
リータはそう言い残して、新たな行先に向け先行する。
ヨークの予想通り、そこは3方が岩や石壁になっていて行き止まりになっている。
「何もないね」
「ごんなどご、はんずめでだ」
「うん、でもなんか変だヨ」
「そうね、なんか変ね」
そう言って皆でキョロキョロと周辺を見回す。
「あ、あそこ!」
リータが石壁の上に何かを発見し、指を刺すが、他のメンバーには何も見えない。
「ちょっと、これ、お願い」
そう言ってポシェットと矢筒と弓をライトに渡し、身体強化を使って後ろの岩を蹴り、石壁に向かって三角飛びで跳躍する。
リータは石壁にへばり付き、何とか登ろうとするが、取っ掛かりがなく、足場もないので、石壁を蹴るようにして落下し、膝を柔らかく使い綺麗に着地する。
「あったわ。扉みたいに見えたけど」
上を見上げながら、ライトに告げる。
「とどく?」
「あと、少しなんだけど・・・」
リータがもう一度、周辺を見回しながら考えている。
「あ、あそこね」
リータはそう言ってライトの傍に行き、正面の石壁を指さす。
「ライト、わたしの指さす先の石壁に少し窪みがあるの見える?」
リータの腕に目をくっつける様にして石壁を見ると確かに凹みがあるように見える。
「うん、見える、あの窪みだね」
そう言うとライトは左腕を伸ばしその窪みに指をさし、詠唱する。
「穿て!サンダーボルト」
ライトの左手から閃光が走り狙った窪みに直撃して石が飛び散る。
窪みだったところにちょっとした穴が開いている。
「流石ね、ライト」
リータは歓声を上げライトに抱き着きライトの頬に唇を寄せるが、
ジャリっ
足音と共にメイスを手にしたヨークが
「リータ、昼間は・・・」
「わ、わかってるわよ」
少し赤い顔をしてリータが名残惜しそうにライトから離れる。
リータは一つ息を吐き、改めて3方を見る。
そして、少し助走するための距離を取り、
「いくわ!」
掛け声と共に岩に向かって走る。
先ほどと違い、角度を付けて走りながら岩に向かって飛び、蹴る。
次の目標、ライトが作った穴を右足の足場にして身体強化を使い石壁に向かって飛ぶ。
高い!
皆がそう思った時にはリータが左側の石壁に吸い込まれるように姿を消す。
「リータ!」
ライトが叫ぶと
「大丈夫、ちゃんととどいたわ」
そう言ってローブを投げて降ろした。
突進を飛び越えて丸見えのボアの脳天にリータの矢が突き刺さる。
「ハッハ!これよこれ!この為に練習してきたんだから!」
この戦法でリータは3頭続けてボアを狩った。




